矢野経済研究所
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3月4日、日経平均株価が史上初の4万円台をつけた。人口知能(AI)需要に対する成長期待を背景に米半導体大手エヌビディアが牽引する形で米株式相場が急騰、これに触発されたかのように東京市場もハイテク関連に買いが集中、一挙に大台を越えた。株式市場は「失われた30年」を取り戻すかのように34年ぶりの活況を呈している。

円安を背景としたインバウンド関連、輸出や海外比率の高い企業業績も好調だ。3月末決算の主要企業の利益総額は3年連続で最高となる見通しであり、日本企業の収益力向上への期待と外貨建てによる割安感が海外投資家を呼び込む。中国株投資に消極的となったアジアマネーの流入も追い風だ。実際、海外勢の東京市場における売買額は6割を越えており、相場の主役は海外投資家と言っていいだろう。

もう一人、影の主役が日銀である。2013年、黒田総裁のもと始まった “異次元緩和” は従来の慣例を大きく越える規模で上場投資信託(ETF)を買い支えた。前任の白川総裁が設定した年間4500億円という上限は段階的に引き上げられ、2020年には12兆円に達した。投資額は簿価で37兆円、時価総額はその倍に迫る。異次元緩和は最後まで目標を達成できなかったものの株価の嵩上げには大きく貢献、結果、今や日銀は日本株の最大株主でもある。

ただ、“あの時代” の高揚感はない。勤労者の実質賃金は物価に追いつかない。2023年10-12月期の国内需要不足は7-9月期から倍増、年換算で4兆円に達した。ダイハツ不正問題による “軽自動車” の出荷停止が2月の国内新車販売台数全体を2割押し下げたというニュースも家計の “今” を物語っている。一方、金融政策の転換が取り沙汰される中、異次元緩和の後始末問題も浮上してくる。ハードランディング回避の道筋を用意するためには円安効果を上回る実体経済の回復が必須であり、その成否は民間の持続的な成長投資にかかっている。要するにここからが勝負である。

今週の“ひらめき”視点 3.3 – 3.7
代表取締役社長 水越 孝