この記事は2024年2月8日に「テレ東BIZ」で公開された「意外すぎる新商品が続々! 激安もやしで快進撃の秘密:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
安い・うまい・栄養あり~8割廃業、もやし業界の革命児
東京・世田谷区のスーパー オオゼキ下北沢店の野菜売り場。ここで最も安い野菜がもやしで一袋38円だ。250gにバナナ3本分の食物繊維があり、さらにタンパク質やビタミンCなども豊富に含んでいるという。野菜を含めた食料品が軒並み値上がりしている中、「価格の優等生」と呼ばれるもやしは大人気。多い日には400袋が売れるという。
だが、もやしの生産者団体からは悲鳴が上がる。2022年11月、日本経済新聞に掲載された意見広告で「安さばかりを追求していては続けていけない状況です」と訴えた。この30年で原料の価格は3倍になり、燃料費など他のコストも高騰。もやしメーカーの8割は廃業してしまったという。
そんな中で値上げをせず、しかも売り上げを伸ばしているのがサラダコスモだ。 「私は入社して10年になりますが、値段の変動はありません」(オオゼキ下北沢店 青果チーフ・石田幸平さん)
山あいに旧中山道の宿場町がひっそりと残る岐阜・中津川市。サラダコスモが運営する「ちこり村」の中にはビュッフェスタイルのレストランがあり、毎日、大勢の客が詰めかけている。「野菜が中心でヘルシー」と、特に女性客が目立つ。
▽サラダコスモが運営する「ちこり村」特に女性客が目立つ
その厨房を預かるのは地域のお母さんたち。78歳になる料理長の向井繁子は旬の食材を駆使し、ひと味違う家庭料理を次々と作っていく。中でもバリエーション豊かなのがもやし料理だ。「豆もやしの天ぷら」は玉ねぎの代わりにもやしを入れたかき揚げ。高温の油でサッと揚げればシャキシャキの食感が楽しめる。80種類が食べ放題で1980円だ。
連日、観光バスが乗り付け、駐車場の入り口には車が並び、すぐにいっぱいに。その駐車場を走り回って車の整理をしていたのが、サラダコスモ社長・中田智洋(73)だ。
「最初にお客様と接する“社員”だから、『一生懸命やっているな』『来て良かった』と思えるように」(中田)
▽車の整理をしているサラダコスモ社長・中田智洋さん
中田はもやし業界に革命を起こした人物でもある。50年前、もやしは真っ白だった。どこのメーカーも塩素系の漂白剤を使い、殺菌していたからだ。「体に悪い」と無漂白に挑んだ中田。1973年に無漂白・無添加のもやしを開発した。
2014年、カンブリア宮殿に登場した時には、当時のことを聞かれ、こう語っていた。
「無言の圧力はすごく感じていました。でも私が無漂白もやしを扱って10年で、日本の全ての生産者が無漂白もやしの生産者に変わりました」
そして今、「値上げをしない」という決意で、再びもやし業界を揺るがしている。
「国民の可処分所得、使えるお金が減る中で、値上げをしても了解してもらえないと思う。だったら値上げをしないための工夫はないのか、と」(中田)
実際、中田は値上げをすることなく、43年連続で黒字を達成している。
値上げはしたくない!~安いもやしで儲ける秘策
値上げせずに儲かる秘策1~巨大工場で効率化
3年前の冬、岐阜・養老町の選び抜いた場所に巨大な新工場、サラダコスモ養老生産センターをオープンさせた。そもそももやしは緑豆、大豆などの豆から出てくる芽の部分。日の当たらない暗い場所で水を与えるだけで1週間から10日で勝手に育ってくれる。新工場も基本的な製造方法は従来と変わらないが、随所に人手を減らす工夫を施した。
もやしのパック詰めの自動化は他の工場でもやっているが、ここでは箱詰めも自動化。独自に機械を開発して導入した。こうした効率化で人件費を50%削減した。
屋上に上れば、太陽光パネルがズラリ。もやし作りは電気代がかさむが、これで25%削減した。
値上げせずに儲かる秘策2~残り物には福がある。
処理する前のもやしには豆の殻と根っこがついており、これを工場ではスライサーのようなものに流して取り除いている。「約2割はゴミが出る」(養老生産センター長・原勝美)と言う「もやしカス」は、1日20トンというとんでもない量になる。
その処理にひと月1,000万円かかっていたが、設備投資を行い、逆にお金を生むようにした。「もやしカス」が運ばれた先は愛知・半田市の酪農家「エル・ファーム・サカキバラ」。ここで牧草やトウモロコシなどに混ぜられ、乳牛のエサになるのだ。
▽「もやしカス」は牧草やトウモロコシなどに混ぜられ乳牛のエサになる
牛のタンパク源として輸入の大豆カスをエサに混ぜていたのが、「ロシア・ウクライナの戦争で輸入する飼料が値上がりして困っていた時に『もやしカス』を見つけることができた」(榊原孝樹さん)。これで牛乳の品質は以前と変わらず、1カ月のエサ代を70万円減らすことができた。酪農家は大助かりだ。
一方、サラダコスモは設備投資に約1億円を投じたが、月1,000万円かかっていた処理費用は900万円削減。投資分は1年で元が取れる計算だ。
「これなしでは工場の運営は考えられないです」(原)
さらにサラダコスモは収益の新たな柱となる商品を生み出していた。それがスーパーなどにズラリと並ぶ「カット野菜」だ。
「カット野菜をやろう」と言い出したのは宇都宮工場長の牧島直樹。小売店との付き合いで「もやしだけでは未来はない」と感じ、2013年、カット野菜を作り始めた。
その時、中田からは「こんなに後発で始めて、この商売を日本一にするつもりがあるのか?」という言葉をかけられた。そこで他のメーカーと差別化すべく、できるだけ国産野菜にこだわって作った。そのこだわりが消費者に支持された。業界最後発からのスタートだったが、中田の言葉を見返すように、「ニラ野菜炒め用ミックス」などの加熱用カット野菜は売り上げ日本一になった。
▽「ニラ野菜炒め用ミックス」などの加熱用カット野菜は売り上げ日本一に
こうした取り組みで、10年前に73億円だったサラダコスモの売り上げは今や203億円に。逆風の業界で成長を続けている。
「普通の方法で経営をしていたら値上げしかない。社員の待遇を上げる。もっと品質を高める。もっと安く売る。この3つのテーマを同時に解決できる会社、人でなければ、生き残っていけないと思う」(中田)
失敗しても諦めない~意外な新商品で大逆転
これまで数々の難局を乗り越えてきた中田だが、断念した事業もある。それがヨーロッパ原産のちこりの国産化だ。
種芋を暗がりの中で発芽させる栽培法はもやしと一緒。自分たちならできると、赤字続きの中、16年間取り組んできた。しかし、コロナで飲食店からのニーズも激減し八方塞がりに。やむなく撤退を決めた。
「なんとか自前で作って国産化して、日本の野菜として定着させたかったけど、勘定に合わないことはできない。打ちのめされた気分、悔しい」(中田)
そんな失敗を乗り越えようと、社員一丸となってある物を作り売り出した。それが「ちこり村」の新名物「栗きんとん生食パン」だ。
▽「ちこり村」の新名物「栗きんとん生食パン」
「栗きんとん」は中津川名産の和菓子。買えば1個300円ほどだが、これを1斤の中に7個も入れた。それで,1800円は、「高いけど安い」と評判に。ネット販売もあるが、焼きたてを求め、客が殺到。多い日には1,400本が売れる大ヒット商品となった。
▽焼きたてを求め多い日には1,400本が売れる大ヒット商品となった
サラダコスモはここでも利益を生み出す仕組みを構築している。製造の現場にいたのは経理部長・竹田淳史。新施設開発担当者や営業部兼人事課長も手伝っている。社員が協力することで余分な金を使わず、利益を確保。「管理部門も現場を知れていい」と言う。
自前で何とかする現場は他にもある。大型プリンターを60万円で購入し、印刷していたのは街道沿いに張る自前の宣伝看板。手作りだからいつでも張り替えられ、コストは10分の1になった。
お金をかけず、アイデアでヒットを掴んだ新商品もある。
「ある社員が『ペヤングとコラボは面白いんじゃないか。もやし麺にしたら糖質オフになるし』と」(営業部・曽根暢啓)
作ったのがパッケージもそっくりの「ペヤングやきそば風もやし炒め」(170円)。「麺なしソース込み84.1キロカロリー」と書いてある。)
▽「ペヤングやきそば風もやし炒め」本家のペヤングとまったく同じソースがついている
本家のペヤングとまったく同じソースがついており、味付けはこれだけでOK。当初は15万食限定の予定だったが、小売店のバイヤーに受けて、今年の夏いっぱいの継続販売が決まった。
「社長の姿勢が『挑戦しないと分からない』『常識にとらわれない』。勇気をもってやることが大事で。それが成功のポイントだと思います」(曽根)
その曽根がこの日、初めて中田にプレゼンするのは「ペヤング激辛MAX もやし炒め」という新商品。
▽「ペヤング激辛MAX もやし炒め」3月6日の発売が決定した
「冗談も休み休みやった方がいいんじゃないか。私の価値観からすればこれは無理。売れないぞ」と言っていた中田だが、食べてみたら「うまい、辛い」。中田のOKを取り付け、3月6日の発売が決定した。
「僕がいくら手綱を引き締めようと思っても、全然関係ないところへ飛んで歩くんだから(笑)」(中田)
もやし種を自分で作りたい~30億円の農場に賭けた夢
もやしの原料となる緑豆。中田は有機栽培にこだわり、これまで多くを海外から輸入してきた。しかし、その値段は上がる一方となっている。
「良いもやしを作るには良い原料が必要です。良い原料に自分が関わっていきたい」(中田)
10年以上前から動いてきた挑戦の舞台は南米パラグアイ。広大な土地を借り、自社農場で緑豆の栽培を始めたのだ。しかし、水害などに見舞われ、パラグアイでの緑豆作りは断念した。
だが、中田は諦めない。すでに次の舞台アルゼンチンで新たな挑戦が始まっていた。山手線の内側の1.2倍という広い土地を約30億円で購入。ここに原料の自社農場を作ろうとしているのだ。目指すは有機栽培。すでに一部が収穫できるまでになっている。
▽挑戦の舞台は南米パラグアイ、ここに原料の自社農場を作ろうとしている
年末には成果を日本に持ち帰り、社員にお披露目。アルゼンチンの種から栽培したスプラウトが見事に育った。
「アルゼンチン産の種は根張りも良く、従来種より1日早く収穫できました。非常にいい種子かなと」(スプラウトの工場長・森康祐)
品質は申し分なし。しかもコストは輸送費込みで10分の1になるという。
「私は会社と社員の生活をこの種に賭けて勝負したい」(中田)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
会社は成長している。2014年に売上高は73億円、この10年で203億円、3倍近い。その極意とは「コストを削り、売れる商品を作る」というものだ。
カット野菜だが、中田さんは当初、野菜を刻むだけのビジネスに気乗りはしなかった。しかし生産現場からの突き上げで参入。カット野菜業界では後発、だが有機大豆もやし、オーガニック・スプラウト類など高付加価値の野菜で躍進。
中田さんには南米の夢がある。2018年、アルゼンチンで山手線内に匹敵する広大な土地を入手。再び、有機で原料を作ることに挑む。
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<出演者略歴>
中田智洋(なかだ・ともひろ)
1950年、岐阜県生まれ。1973年、大学卒業後、家業の「中田商店」入社。1990年、サラダコスモに社名変更 2006年、ちこり村オープン。
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