2月6日、厚生労働省は毎月勤労者統計調査の2023年分を速報した。現金給与総額は “30年ぶり” という大幅な賃上げ効果もあり名目ベースで3年連続のプラス、月間平均32万9859円(前年比+1.2%)となった。一方、実質ベースでは2年連続でマイナス、前年比▲2.5%は消費増税のあった2014年に次ぐ減少幅だ。「家計調査」(総務省)によると2023年の1世帯(2人以上)あたりの月額消費支出は実質マイナス2.6%、「教育」支出の突出した落ち込みに家計から “余裕” が失われている現実が垣間見える。
政府は「昨年を上回る賃上げの実現」を公約、財界と連合もこれに呼応、上場企業の決算見通しの上方修正が相次ぐ中、賃上げ気運は中小企業にも波及する。14日に公表された日本商工会議所と東京商工会議所が年初に実施した「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」によると全国415商工会議所に属する中小企業の61.3%が賃上げを予定しているという。とは言え、そのうちの60.3%が業績の改善が見込めない中での “防衛的な賃上げ” であり、また、企業規模が小さくなるほど賃上げ実施予定率が低下する点に問題の本質がある。
中小企業の経営環境は依然厳しい。全国信用保証協会連合会によると保証付き融資の代位弁済は件数、金額ともに2022年度以降、急増している。企業倒産件数も増加傾向にあり、2023年は奇しくも賃上げと同様こちらも “30年ぶり” の高水準となった。ゼロゼロ融資返済、物価高、人手不足を要因とする倒産が目立つ。上記した日商と東商による調査によると人手不足を経営課題にあげる中小企業は65.6%に達しており、こうした状況下での “業績改善なき賃上げ” は、結果的に経営を圧迫、ひいては雇用そのものの喪失につながりかねない。
中小企業の “健全な賃上げ” を実現するためにはサプライチェーン全体でその末端までの賃上げ原資を確保できるかが鍵だ。言い換えればバリューチェーンが生み出す価値そのものの絶対量を拡大出来るか、ということである。そもそも今回の物価高は内需が牽引したものではない。要は内需の創出力であり、その欠落が “30年” にも及んだ停滞の主因だ。サプライチェーンの全体利益を拡張することが出来ず、あるいはそこに関心すら払わず限られたパイを独占し続けてきたサプライチェーンの上位階層にある者たちの奮起に期待したい。
今週の“ひらめき”視点 2.11 – 2.15
代表取締役社長 水越 孝