表明保証の内容
M&Aの契約において、いったいどのような事項について表明保証を行うのか見ていきましょう。
譲渡側(売り手)の場合には、譲渡側(売り手)である株主自身のことのほか、対象企業に関しても表明保証を行うことになるので、項目が多く設けられています。
譲渡オーナー(売り手側株主)・対象企業に関する表明保証の一例
項目 | 内容の具体例 |
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権限および授権 | 最終契約の締結や履行に必要な権限や能力を有し、必要な手続きを経ていること |
反社会的勢力からの断絶 | いわゆる反社会的勢力とは無関係であること |
許認可等の取得 | 本契約の締結や履行に必要とされる許認可等があれば、その取得等が適切に行われていること |
法令等との抵触の不存在 | 株主による本契約の締結や履行は法令等に違反するものではないこと |
対象株式の存在 | 対象会社の株式数は正確であり、それ以外に新株予約権などの潜在株式を発行している事実はないこと |
対象株式の所有 | 株主は、対象会社の株式を完全に保有しており、株式には担保権その他の権利が付着していないこと |
株主名簿の記載の真正 | 株主名簿の記載内容が真実であること |
存続及び権能 | 対象会社が適法かつ有効に設立され、存続していること |
計算書類等 | 対象会社の計算書類等の正確性や適正性 |
資産等 | 対象会社の資産保有の十分性や適法性など |
債務及び負債 | 対象会社に簿外負債や偶発債務が存在しないこと |
税務申告等の適正 | 対象会社の税務申告の適正性や追加の課税処分を受けるおそれが存在しないこと |
債務不履行の不存在 | 対象会社における債務不履行の不存在 |
要承諾取得契約の不存在 | 対象会社は取引先やテナント等と、株主の変更が解除理由になるような契約を結んでいないこと |
知的財産の所有 | 対象会社が所有する知的財産権の有効性 |
職務発明の帰属及び対価 | 対象会社が所有する知的財産権の有効性 |
その他知的財産権の非侵害 | 対象会社が他者の知的財産権を侵害していないこと |
労働関係 | 対象会社と従業員との労働関係の適正性や適法性 |
環境関係 | 対象会社の環境問題(土壌汚染・産廃など)の不存在 |
紛争の不存在 | 対象会社を当事者とする紛争は存在していないこと |
法令順守、許認可 | 対象会社が法令順守していること |
保険契約 | 対象会社が適切な保険を付しており、保険金請求もなされたことが無いこと |
変更の不存在 | 譲渡側(売り手)が対象会社に対して、一定時点(基本合意の締結日等)以降、重大な変更を加えていないこと |
開示情報 | 譲渡側(売り手)や対象会社が買い手に対して開示した情報の正確性や網羅性 |
譲り受け側(買い手)関する表明保証の一例
項目 | 内容の具体例 |
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存続及び権能 | 譲り受け側(買い手)が適法かつ有効に設立され、存続していること |
権限及び授権 | 最終契約の締結や履行に必要な権限や能力を有し、必要な手続きを経ていること |
反社会的勢力からの断絶 | いわゆる反社会的勢力とは無関係であること |
許認可等の取得 | 本契約の締結に必要とされる許認可等があれば、その取得が適切に行われていること |
法令等との抵触の不存在 | 譲り受け側(買い手)による本契約の締結や履行は法令等に違反するものではないこと |
※上記はあくまで一般的な契約内容の簡易な解説にすぎないので、網羅性・正確性を保証するものではありません。
通常、譲渡側(売り手)である株主、譲り受け側(買い手)ともに、それぞれ表明保証を行い、譲渡日の時点で、この契約に定めた表明保証の内容が正しくあることが、後述するクロージング条件になります。
日本M&AセンターではM&Aに精通した弁護士・公認会計士・税理士など専門家を含めた盤石の体制で安全・安心のM&Aをサポート致します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。
表明保証できない事項について
上記に掲げた事項について、すべて問題がないということが理想ですが、実際そのような会社は、なかなかありません。
最終契約書のドラフトでは、完全無欠な会社であるという前提になっていますが、実際は、何か問題がある部分について調整し、契約書の修正を図っていく流れになります。ここが、M&A実務における山場の1つともいえるでしょう。
契約締結前に判明している問題点でも、解決が簡単で軽微なものであれば、譲渡日までの義務(誓約事項)にするケースが多くあります。
一方、問題の解決が簡単ではない場合、表明保証の範囲を「約束できる範囲」に限定し、その分、株価を下げる調整を行うのがオーソドックスな形です。 M&A実行後にトラブルが生じる懸念が払しょくされるので、スムーズな解決方法といえます。
契約を締結する時点で問題を認識しているものの、金額として見積もることが困難な場合には「約束できる範囲」を限定しつつ、契約締結時では株価を下げる調整は行いません。
後日、問題解決にかかった費用は、譲渡側(売り手)が負担するという取り決め(「特別補償」と呼びます。)を行うこともあります。