ICT積極導入でセキュリティ対策と現場の効率性を確保しながら〝昭和〟なアプローチと人間味を大切にする 板垣土建(群馬県高崎市)

目次

  1. コンピューターウイルスは「他人事ではない」セキュリティ対策に着手
  2. 1980年代にはパソコンを導入し、工事の出来高を自動計算するプログラムを作成していた
  3. 息子は、工事中の写真をインスタグラムで公開。根本社長は、登山時の絶景写真を会社に掲示。
  4. アナログも大切、「商売のつながりは『顔を合わせてなんぼ』です」 先代からの教えで荒波を乗り切る
  5. 次の目標は、工事写真の撮影・管理を変えること
中小企業応援サイト 編集部
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建設業界におけるICTの進歩は目覚ましく、新しいデジタルツールや革新的なシステムが日々登場している。しかし、一部の企業はこの変化を利用しながらも、〝昭和〟なアプローチや人とのつながりを重んじている。その一つが株式会社板垣土建(群馬県高崎市)だ。(TOP写真 インスタグラムにアップした舗装工事の様子)

コンピューターウイルスは「他人事ではない」セキュリティ対策に着手

ICT積極導入でセキュリティ対策と現場の効率性を確保しながら〝昭和〟なアプローチと人間味を大切にする 板垣土建(群馬県高崎市)
導入したNASに接続したスマートフォン画面。業務日報や工事ごとの図面などがファイルに格納されている

最近、インターネットバンキングへの不正アクセスにより企業の資金を盗まれる事件が発生している。群馬県内でも2021年頃に同様の被害が発生していた。そこで、板垣土建は2022年夏、NAS(ネットワークに接続できるハードディスク)をベースにしたプライベートクラウドシステムを導入した。根本康弘代表取締役(62歳)は「他人事ではないと思った。ちょうどその頃、お世話になっている担当営業さんから『コンピューターウイルスの水際対策ができる』などシステムの熱心な勧めもあった」と話す。

板垣土建ではこれまで、ウイルスソフトの導入や定期的なアップデートを行っていた。しかし、他社の事例でメール開封によるウイルス感染が増えており、セキュリティ対策の見直しを迫られていた。公共工事の入札では、ウイルス感染による情報漏洩(ろうえい)を理由に入札停止処分を受けるケースもあったことから、こうしたリスクを回避することも狙いだった。

また、このプライベートクラウドシステムを活用すれば、外出先からでもスマートフォンやタブレットを使ってログインし、NASに保存された文書や図面のコピーやダウンロードなどが行える。板垣土建では図面や日報などの資料を工事ごとに保存しており、早朝から建築現場に直行した社員が図面を忘れてしまった場合でも、このプライベートクラウドシステムを使って事なきを得た。

1980年代にはパソコンを導入し、工事の出来高を自動計算するプログラムを作成していた

ICT積極導入でセキュリティ対策と現場の効率性を確保しながら〝昭和〟なアプローチと人間味を大切にする 板垣土建(群馬県高崎市)
事業理念について熱く語る板垣土建の根本社長

根本社長は、現状の仕事を変革するために、新しい技術やツールを積極的に導入することに情熱を持っている。ICTに関する最初の出会いは、表計算、データ加工処理ができるビジネス統合ソフト(マイツール)だった。根本社長は、一時代を築いたウィンドウズ95(1995年)が登場するずっと前に、このビジネス統合ソフトを導入し、工事の出来高計算を自動化するために利用していた。1980年代に素人が自分の仕事のためにプログラミングソフトを使ってシステムを作るということは画期的だった。

ノートパソコンの使用は、地元の青年会議所の役員になったことがきっかけ。青年会議所の理事会での会議がペーパーレスとなり、あわててノートパソコンを買った。携帯電話の導入も早かった。舗装工事の現場で、ある社長が弁当箱大のショルダーフォンを使って取引先とやり取りをしているのを見た。当時専務だった根本社長が「あれは便利。買いたい」。月に10万円の維持費かかったが、それでも購入した。費用対効果を考えると十分に元が取れる投資だったのだろう。今では当たり前だが、歩きながら電話でき、どこにいても電話に出られる。固定電話しかない時代には考えられない劇的な変化の波に乗るというのはイノベーターの面目躍如だ。

息子は、工事中の写真をインスタグラムで公開。根本社長は、登山時の絶景写真を会社に掲示。

最近、長男の真太郎さん(34歳)が始めた同社のインスタグラムでは、重機の写真や、土間打ち、モルタル配合、舗装工事など職人の作業風景、菜の花の写真がアップされ、温かい会社の雰囲気がよくわかる(TOP写真参照)。

写真と言えば、社内には日本アルプスの絶景写真がそこかしこに飾られている。根本社長の趣味は登山で、年に5回は登る。標高2,000メートルを超える剣岳、唐松岳、五竜岳など日本アルプスを、テント、一眼レフカメラ、三脚など約17キロの荷物を背負って1人で歩く。山に登らなければ見られない非日常の絶景を撮影し、社内に飾っている。登山で鍛えた体力が仕事の源泉力となっている。

ICT積極導入でセキュリティ対策と現場の効率性を確保しながら〝昭和〟なアプローチと人間味を大切にする 板垣土建(群馬県高崎市)
登頂を果たし、記念写真に収まる根本社長

アナログも大切、「商売のつながりは『顔を合わせてなんぼ』です」 先代からの教えで荒波を乗り切る

板垣土建は創業以来、先代の思いを大切にしている。根本社長は、先代社長からの「堅実な仕事をしろ」「無駄な事業拡大は避けろ」という教えを受け継ぎ、経営の基盤を築いてきた。リーマン・ショックや新型コロナウイルスのような荒波を乗り越え、直近でも民間建築工事における建売住宅の着工数減少という危機に直面している。根本社長は「道路舗装工事や下水道工事などの公共事業だけに頼るわけにはいかない」と決意を新たにする。

そんな中でも、根本社長は、伝統的なアプローチと人とのつながりを重視している。請求書の受け渡しには必ず取引先に出向き、1枚のタオルを添えている。これは顧客との信頼関係を大切にする姿勢の表れといえる。インボイス制度の導入で、請求書の電子化が進むが、「商売のつながりは『顔を合わせてなんぼ』です。これからも請求書を届けていきます」(根本社長)。

同時に、業界組合の役員として積極的に活動し、同業者とのつながりも築いている。仕事だけでなく人間関係も大切にし、そこに真摯(しんし)な人情を持ち続けている。根本社長は毎朝、事務所に鎮座する神棚と、大黒、恵比寿の木像に一日の無事を祈願する。木像は先代社長から受け継いだ歴史あるものだ。縦と横のつながりを大切にしてきたことが事業継続に大いに貢献している。

ICT積極導入でセキュリティ対策と現場の効率性を確保しながら〝昭和〟なアプローチと人間味を大切にする 板垣土建(群馬県高崎市)
事務所にある神棚

一方、建設業界で〝あるある〟の課題、経営者と従業員との世代間ギャップ解消についても、従業員とのコミュニケーションを重視して取り組んでいる。納涼会や忘年会、バーベキューなど、様々なイベントを通じて従業員との距離を縮めてきた。この取り組みにより、年代を越えた和やかな雰囲気の職場が形成され、若手従業員の定着率も高いのが同社の強みだ。若い従業員が同世代に紹介して入社するぐらいだから職場内の雰囲気が良く、離職率は高くない。

真太郎さんが入社したのは2021年のこと。根本社長は「私自身ずっとやってきて、そんなにいい商売と思わなかったので、息子に跡継ぎになってもらうつもりはなかった」。真太郎さんは、文系の大学に進学し、建設業界と関係ない流通関係の会社に就職した。しかし、真太郎さんがその仕事をおもしろくないと感じていると聞いた根本社長は「じゃあ一緒にやってみるか」と誘った。入社後、真太郎さんは現場仕事からスタートし、現在では営業も兼務している。

次の目標は、工事写真の撮影・管理を変えること

根本社長が今注目しているのは、工事写真の管理業務の効率化だ。施工現場では多い時で何百枚もの工事写真を撮影する。小さい黒板に工事情報や図を書き、1人がその場で黒板を持ち、1人がカメラのシャッターを押すため、撮影だけで2人の人手が必要だ。

さらに、現場での仕事が終わったあと、事務所に戻って整理することもある。手作業で撮影情報を入力しフォルダに分類していく作業は、とても手間がかかり時には残業になることもある。この写真整理を効率化できれば、現場監督たちの負担がぐっと減り、施工書類のクオリティアップにもつながると考えている。根本社長は「昔は官庁がデジタル写真はだめだ、と言っていた。時代はどんどん進んでいる」と先を見つめる。

ICT積極導入でセキュリティ対策と現場の効率性を確保しながら〝昭和〟なアプローチと人間味を大切にする 板垣土建(群馬県高崎市)
板垣土建の本社事務所

企業概要

会社名株式会社板垣土建
本社群馬県高崎市江木町476
HPhttps://itagakidoken1918.amebaownd.com/
電話027-326-8511
設立1918年
従業員数30人
事業内容一般土木工事、造成工事、解体工事、舗装工事