コロナで傷ついた経営再建のため社長就任 2年計画を1年で達成 従業員の働き方支援や業務支援につながる制度やICTを積極導入 南箕輪村開発公社(長野県)

目次

  1. 野球場、テニスコートから温泉、食、健康までの総合観光・レジャー施設
  2. 敷地面積はディズニーランド+ディズニーシーに相当、来場者は年間約50万人
  3. 初の生え抜き社長が就任1年で2年目の経営再建目標を達成
  4. まず皆一律だったパートの給与体系を変え、現場の不満解消へ
  5. 福利厚生の充実や子育てママのパート採用を拡大
  6. 勤怠管理システムの新ソフト導入で事務要員2人を1人に 個人別に業務を見える化して、働きすぎや重複を確認し対応した
  7. 在庫管理・経理の見える化とA1サイズ対応複合機で大型ポスターを自前で製作
  8. 「業務効率化が従業員の私生活の満足度を高め、業務全体に波及する」
  9. ICTで事務簡素化できるものは何でも導入、施設全体の安全管理システムも
中小企業応援サイト 編集部
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長野県中南部の木曽山脈のふもとに位置する南箕輪村。同村の広大な森林の中に広がる大芝高原で道の駅と日帰り温泉を中核に野球場、テニスコート、コテージなどを含めた総合観光・レジャー複合施設を運営するのが一般財団法人南箕輪村開発公社だ。2022年4月に南箕輪村開発公社初の生え抜き社長に就任した原賢三郎氏の最大の仕事はコロナで傷ついた経営の再建だったが、就任1年目でめどをつけた。

従業員が働きやすく、業務の効率化につながる経営のICT活用には積極的で、今後も事務管理部門を簡素化するためのICT導入に期待している。(TOP写真:道の駅大芝高原の中核施設である日帰り温泉「大芝の湯」)

野球場、テニスコートから温泉、食、健康までの総合観光・レジャー施設

コロナで傷ついた経営再建のため社長就任 2年計画を1年で達成 従業員の働き方支援や業務支援につながる制度やICTを積極導入 南箕輪村開発公社(長野県)
大芝高原で最初に開設された南箕輪村営大芝野球場
コロナで傷ついた経営再建のため社長就任 2年計画を1年で達成 従業員の働き方支援や業務支援につながる制度やICTを積極導入 南箕輪村開発公社(長野県)
施設の充実を進める中で設置された足湯施設

南箕輪村開発公社は、1973年4月にオープンした南箕輪村営大芝野球場の運営管理のために1972年8月に設立された。1974年には陸上競技場も開設され、当時の村の政策であるスポーツ振興を目的に、大芝高原を切り開いて建設するスポーツ公園の運営・管理を担う事業を展開してきた。

その後、テニスコートや運動場、マレットゴルフ場、アスレチック場や子どもが遊具で遊べる多目的広場を備えた公園などを整備。1990年以降はスポーツの枠を超えて、コテージやオートキャンプ場、さらには2002年に日帰り温泉施設「大芝の湯」が開設され、足湯や森の中のセラピーロード、レストランなどを加えた。2018年4月に道の駅に登録し、食を担っていた味工房をリニューアル、農産物直売所も併設して今の「道の駅大芝高原」が出来上がった。

敷地面積はディズニーランド+ディズニーシーに相当、来場者は年間約50万人

コロナで傷ついた経営再建のため社長就任 2年計画を1年で達成 従業員の働き方支援や業務支援につながる制度やICTを積極導入 南箕輪村開発公社(長野県)
大芝高原の全景

「スポーツと温泉、食、健康、アウトドアの複合施設で、全体の広さは東京ディズニーランドとディズニーシーを合わせた敷地面積に相当します」(原社長)というから、一般的な道の駅とはスケールが全く違う。

年間来場者数は約50万人。人口1万6,000人の村の施設に人口の30倍の人が集まるというのだから、その集客力は大変なもので、他の道の駅から注目されるのもうなずける。

初の生え抜き社長が就任1年で2年目の経営再建目標を達成

コロナで傷ついた経営再建のため社長就任 2年計画を1年で達成 従業員の働き方支援や業務支援につながる制度やICTを積極導入 南箕輪村開発公社(長野県)
「幸いコロナも収束に向かい再建目標を就任1年目に達成した」と語る原賢三郎社長

原社長は2022年4月に副支配人から昇格した。16歳から松本市にある浅間温泉のホテルで朝晩働きながら松本の高校の食物科を卒業し、調理師免許を取得して東京の料理屋で修行。23歳の時に南箕輪村開発公社に料理人として入り、25歳で8年以上の実務経験が必要な調理師の上級資格である日本料理の専門調理師資格を取得した苦労人である。

1990年に営業を始めた宿泊部門の旅館がコロナで大打撃を受け、2020年6月から営業を休止し、2年後に撤退を決めたが、「売上規模が最も大きい部門だったので、営業休止から1年半は厳しい時代が続いた」と、原社長は振り返る。

その厳しい時に、白羽の矢が立ち経営再建を託された。「当時の経営陣を総入れ替えして、(社長を)やってくれと言われた。2年やるから再建3ヶ年計画のうち2年目の目標をクリアしてくれということだったが、幸いコロナも収束に向かい、2年目の目標数字を1年目で達成し、今はさらに上を目指している」(原社長)という。2023年度の売上高は当初の目標を大幅に上回る2億6,000万円を超える見込みだ。

まず皆一律だったパートの給与体系を変え、現場の不満解消へ

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パート女性が働く農産物直売所

45歳の若き生え抜き社長は、村役場からの天下り人とは違う。自ら決断し、自ら動き、その動きもスピーディーだ。「社長になる前は上からの反対もあってなかなかできなかったことを今やっている。私は先に口に出すので、動かなければやってないじゃないかとなる。先にコミットして自分を鼓舞していく。口に出さなければやらなくても済むが、何も変わらない。しかし、口に出せば周りは必ず見ているから実行しないわけにはいかない」と原社長は笑う。

10年勤務者も今日入った人も皆一律だったパートの給与体系にメスを入れた。リーダー、サブリーダーには手当をつけ、技術のある人には技術手当を出し、モチベーションを上げてもらう仕組みを導入した。「それまでは皆一緒で現場の不満が大きかった」(原社長)ことを知っているのは、生え抜き社長ならではのことだ。

福利厚生の充実や子育てママのパート採用を拡大

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プリンを作るママさんパート

2023年からは福利厚生も充実させた。従業員とその家族は温泉利用を無料にし、その他の施設利用料は2割引に。有給休暇も取得しやすいように、有休申請に柔軟に対応できる体制をつくった。2018年から原社長(当時は管理課長)の提案で始めた子育て世代の女性のパート採用は、従来の2人から10人に増やした。

今は道の駅の名物となっているおもてなしプリンを自ら開発し、レストランのメニューだけでなく、お土産にも広げたのも原社長のアイデアだ。地元の和菓子やお茶の老舗と組んだコラボプリンも、自ら営業に動いて続々と商品化し、今では30品目に拡大した。道の駅の中核施設となる味工房では、東京の有名店と提携したガレットや本場ナポリピッツァの店を出店し、若い女性を引き付けているのも、食のプロならではのことだ。

コロナで傷ついた経営再建のため社長就任 2年計画を1年で達成 従業員の働き方支援や業務支援につながる制度やICTを積極導入 南箕輪村開発公社(長野県)
おしゃれなガレット店やピッツァ店が入る味工房

勤怠管理システムの新ソフト導入で事務要員2人を1人に 個人別に業務を見える化して、働きすぎや重複を確認し対応した

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勤怠管理システムを操作する原社長

業務効率化は再建にめどをつけた今も大きな経営課題だ。勤怠管理システムをバージョンアップし、「業務効率を高めるため、誰でも使いやすく一元管理できるようにした」(原社長)。入力業務の簡素化が出来た事によって、従来は2人必要だった事務要員を1人に削減できた。

原社長にとって自ら同システムを操作し、従業員の勤怠状況を把握するのは重要な仕事だ。「新システムは個人別に一覧で見える化できるため、働き過ぎている人はいないか、人員が重複して無駄な仕事はしていないかが分かりやすくなった。残業が多い人にはその理由を聞いて平準化できるようリーダーに指示したり、人員が重複している場合はシフト調整を要請できる」。原社長は全体像を把握できる一元管理のメリットを強調する。

在庫管理・経理の見える化とA1サイズ対応複合機で大型ポスターを自前で製作

在庫管理にも新ソフトを導入した。従来3ヶ月単位くらいでしか見ていなかった在庫状況を見える化できたことによって、「月単位で把握できるようになり、在庫管理はよりスムーズになった」(原社長)と言う。経理システムのクラウド化では、日々の金銭の出入りや損益計算を入力すると会計事務所とクラウドで情報を共有できるため、紙でのやり取りは不要になり、経理事務処理の時間短縮が可能になった。

A1サイズの用紙をカラー出力できる複合機も導入した。結構な頻度で作成する大判ポスターは、従来はA3サイズを4枚つなぎ合わせてA1サイズにするか、より高精度な画像が求められる場合は外注に出していた。「外注では費用がかかるし、A3サイズではつなぎ合わせるのに手間と時間がかかっていた。今は自前で大判のきれいなポスターを短時間で作成できるようになったし、外注費や時間コストの削減効果は大きい。コストパフォーマンスを考えたら本当に良かった」(原社長)と見る。

「業務効率化が従業員の私生活の満足度を高め、業務全体に波及する」

原社長がICTの導入を進めるのは、何も残業や人員配置の適正化など業務の効率化のためだけではない。「無駄な就業時間をなくし、自分たちの時間を有意義に使ってもらうことで豊かで幸せな生活を送ってもらいたい。それが仕事でのモチベーションにもつながる」と、従業員の私生活での満足度向上と業務全体への波及効果までを期待してのものだ。

ICTで事務簡素化できるものは何でも導入、施設全体の安全管理システムも

コロナで傷ついた経営再建のため社長就任 2年計画を1年で達成 従業員の働き方支援や業務支援につながる制度やICTを積極導入 南箕輪村開発公社(長野県)
大芝の湯のエントランス

今後のICT化では、「事務とつくものが簡素化できるものであれば、何でも導入したい」と言う。経営再建にめどをつけたことを受けて、収益力の強化を図るためだ。

来場者の安全サポート体制の強化も課題だ。広大な敷地に複合的な施設を有することは、人気の高まりとともに競争が激しくなっている道の駅の中では大きな強みだが、逆に来場者に安心して利用してもらうための安全管理は難しい。「広い敷地に点在している多くの施設を遠隔カメラでカバーし、熊など野生動物の出没などをいち早く把握できれば、安全、安心に利用していただける。駐車場の混雑状況を素早く把握できれば、大型連休や夏休みなどの混雑時にも快適に利用していただける」(原社長)として、大芝高原全体を1ヶ所で管理できるようなシステムに強い関心を示している。

コロナで傷ついた経営再建のため社長就任 2年計画を1年で達成 従業員の働き方支援や業務支援につながる制度やICTを積極導入 南箕輪村開発公社(長野県)
アウトドアブームで人気のコテージ

公社概要

会社名一般財団法人南箕輪村開発公社
https://www.vill.minamiminowa.lg.jp/soshiki/zaimu/ siteikanrisyakekka.html)
設立1972年8月
住所長野県上伊那郡南箕輪村2358-5
電話0265-76-2614
HPhttp://oshiba.jp/
従業員数80人
事業内容道の駅大芝高原内の日帰り温泉施設、レストラン、野球場、コテージなど18施設の運営・管理