老人介護分野で全ての需要に対応。ICT化を加速し、職員の業務負担軽減とサービス充実へ大きくかじ取り 人と緑の大地(新潟県)

目次

  1. 見附市内で2施設を運営。ワンストップの介護サービスが可能
  2. 「2025年問題」に対応し、中期計画を実行。一部の職員配置を変更
  3. 2024年4月に改正介護保険法が施行。財務状況の見える化や、生産性向上が求められる。ICTで一層の業務簡素化とサービス向上の必要性
  4. 基幹業務システム、介護支援システムを導入。「LIFE」にも対応
  5. グループウェアで、スケジュール管理、職員間の連絡や情報共有、メールのやり取りなどを行う。ビジネスチャットの利用も開始
  6. ベッドセンサーを導入済み。職員の負担軽減も、手間が増えるケースも発生。新型センサー導入を検討。自動音声入力システムも検討
  7. 外国人採用に加え、定年制度見直しも。地域貢献を貫き続ける
中小企業応援サイト 編集部
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特別養護老人ホームをはじめ、各種の介護施設を運営する社会福祉法人「人と緑の大地」(新潟県見附市)は、運営開始から20年以上を経て、老人介護分野ではほぼ全ての需要に応えられる態勢を整備した。職員の確保や高齢化などに対応し、介護支援ソフトウェアやベッドセンサーなどのICT化も進めて職員の業務負担軽減を図り、サービス向上を図っていく計画だ。(TOP写真:社会福祉法人としての将来を語る北澤正孝理事長)

見附市内で2施設を運営。ワンストップの介護サービスが可能

社会福祉法人「人と緑の大地」は2000年11月、笹原進一氏が設立。2年後の2002年5月には特別養護老人ホーム「すずらんの園」を開設した。併設施設として短期間入所できるショートステイ、通所介護のデイサービス、訪問介護のヘルパーステーション、自立状態の高齢者が生活支援サービスを受けられるケアハウスなどのサービスを設置。2007年には認知症高齢者向けのグループホームのほか、2011年には高齢者福祉施設「古志乃里」を開設し、見附市の委託により市の包括支援センターを併設。ここでは特養ホームのほか、ショートステイなどのサービスを行う。このほか、2019年からは見附市社会福祉協議会と共同で「和楽保育園」も運営している。

この結果、介護メニューとしては、「ほぼワンストップのサービスが可能」(人と緑の大地の理事・法人本部事務局長で、すずらんの園施設長の杵渕和美氏)。現在の入所者数は、訪問介護や通所介護などを除き、すずらんの園が124人、古志乃里が100人で、ほぼ満室の状態だという。

北澤正孝理事長は、介護保険法や老人福祉法などに基づく社会情勢の変化に対応して、「笹原氏が介護事業を拡大してきた」とする。実は北澤理事長は、地元の消防本部に勤務していたが、2019年にすずらんの園の施設長として入社し、2023年に法人の理事長に就任したばかりだ。消防本部勤務時代は何度もすずらんの園の消防設備などを点検していたが、防災や訓練への取り組みがしっかりしていると感じていたという。

老人介護分野で全ての需要に対応。ICT化を加速し、職員の業務負担軽減とサービス充実へ大きくかじ取り 人と緑の大地(新潟県)
法人の説明をする北澤正孝理事長(中)・杵渕和美理事(左)・小川裕代さん(右)

「2025年問題」に対応し、中期計画を実行。一部の職員配置を変更

北澤理事長は介護施設の目下の課題として、団塊の世代のほぼ全てが後期高齢者となる「2025年問題」への対応が必要という。このため、2022年度から2025年度までの中期経営計画を策定した。法人を取り巻く環境に具体的な変化はまだ出てきていないが、事業所の再編や組織の変更などを実行する計画だ。

すでに、2022年にはすずらんの園に常駐していたヘルパーやケアマネージャーという居宅介護支援系職員の一部を古志乃里に配置した。これは、すずらんの園が市の郊外に位置しているため、特に冬季などでは市街地に近い古志乃里の方が通所しやすく、サービスの向上につながるためだ。今後も介護保険の改正や世の中の変化、さらには「職員の声、地域の声を聞きながら」(北澤理事長)、柔軟に対応して組織改善などを図っていく考えだ。

2024年4月に改正介護保険法が施行。財務状況の見える化や、生産性向上が求められる。ICTで一層の業務簡素化とサービス向上の必要性

介護事業の環境変化は、2025年問題だけではない。介護保険法は3年ごとに見直しが行われ、2024年4月から改正法が施行される予定だ。まだ詳細な改正点は出ていないが、介護サービス事業者の財務状況の見える化や、事業所の生産性向上などの大枠が打ち出されている。

介護現場では、一人ひとりの介護やリハビリなどの計画を作成した上で、それを実行し、結果を評価するという一連の流れがある。しかし、計画づくりや報告などは手書き作業のため、煩雑化している。改正法では生産性向上を打ち出しているため、例えばAIを使った文書作成や、ネットワークを使った評価などICT化を進め、「業務を簡素化する方向になると思う」(杵渕施設長)。

老人介護分野で全ての需要に対応。ICT化を加速し、職員の業務負担軽減とサービス充実へ大きくかじ取り 人と緑の大地(新潟県)
すずらんの園の事務オフィス

基幹業務システム、介護支援システムを導入。「LIFE」にも対応

人と緑の大地の職員数は180人。このうち約7割が介護職員で、大半が介護福祉士の資格を持ち、取得比率は高いという。それでも、新規の資格取得希望者には全額補助で支援する。

職員の増加や高齢化、国の生産性向上などの方針もあって、「職員の業務軽減や作業の安心感を得る」(北澤理事長)ために、ICT化の推進には積極的だ。今後の職員増にも対応できるよう、サーバーを更新して人事・給与・会計の基幹業務システムと介護支援システムを導入した。介護支援システムはケアの状況記録の入力から保険・利用者への請求までを行える。同時に、厚生労働省が2021年度から推進している科学的介護情報システム「LIFE」にも対応している。

LIFEは介護利用者個人単位でケアの計画や内容を入力し、インターネットで同省に送信し、それを分析して介護現場にフィードバックする。同省はビッグデータとして情報収集し、これをベースにして今後の介護現場の改善につなげていく考えだ。

グループウェアで、スケジュール管理、職員間の連絡や情報共有、メールのやり取りなどを行う。ビジネスチャットの利用も開始

すずらんの園と古志乃里の両施設ではグループウェアも利用し、スケジュール管理、職員間の連絡や情報共有、メールのやり取りなどを行う。2023年に入り、ネットワークを介してリアルタイムで交信できるビジネスチャットの利用も始めた。スマートフォンなどに連絡事項を一斉送信するほか、事業所間の連絡、緊急連絡網などとしても実験しているところだ。ICT化の実行責任者である法人本部事務局事務係長の小川裕代氏は「みんなで連絡を閲覧できるため便利。今後もどうやって活用していくかを検討中」としている。これらのシステム利用により、「職員の業務負担軽減につながっている」(北澤理事長)という。

ベッドセンサーを導入済み。職員の負担軽減も、手間が増えるケースも発生。新型センサー導入を検討。自動音声入力システムも検討

ハードウェア面でも、古志乃里では全室、すずらんの園でも20台近くのベッドセンサーを導入しており、遠隔で介護者の動きがわかるため職員による見回り回数の負担軽減につなげている。ただ、センサーは利用者の転倒防止には有効だが、「体を起こすなどの動きでも反応する場合もあり、逆に手間が増えるケースもある」(杵渕施設長)という。

老人介護分野で全ての需要に対応。ICT化を加速し、職員の業務負担軽減とサービス充実へ大きくかじ取り 人と緑の大地(新潟県)
見附市包括支援センター内にある「古志乃里」

このため、心拍数や入眠などのバイタルデータを遠隔で検知できる新型センサーも開発されていることから、「時期は未定だが、必ず導入したい」(北澤理事長)と強調。さらに、ケア記録などを音声で自動入力できるシステムなどの採用を検討するなど、ICT化をさらに加速する考えだ。

外国人採用に加え、定年制度見直しも。地域貢献を貫き続ける

厚生労働省によると、2022年末時点の要介護・要支援認定者は約697万人と、介護保険を施行した2000年の218万人から3倍以上に増えており、今後も増加することは間違いない。このため、介護業界は人材確保が大きな課題だ。人と緑の大地でも「苦労している」(北澤理事長)という。解決策として、すでに外国人6人を採用しているほか、65歳の定年制度の変更も検討している。

今後の施設全体の運営について北澤理事長は、見附市の人口動態がどうなるかによって変わるという。同社の施設は市南部に位置しており、この地域の詳細な人口動態を調査中だ。そのデータに基づいて、10年先、20年先まで考えて、「社会福祉法人として経営を維持しながら、地域貢献、社会貢献を貫き続けていく」(北澤理事長)と、将来を見据えている。

老人介護分野で全ての需要に対応。ICT化を加速し、職員の業務負担軽減とサービス充実へ大きくかじ取り 人と緑の大地(新潟県)
人と緑の大地が運営する「すずらんの園」

企業概要

会社名社会福祉法人人と緑の大地
住所新潟県見附市田井町1715番地1
HPhttps://suzuran-sono.or.jp
電話0258-61-3520
設立2000年11月
従業員数180人
事業内容  特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、ヘルパーステーション、ケアハウス、グループホーム、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターなどの介護施設、保育園の運営