バリュエーションの捉え方
臼井:マネックス証券、100%換算で970億円の株式価値と先ほど申し上げました。マネックス証券は約200万口座(2023年10月時点)を持ち、売上で言うと約310億円(2023年3月期)です。売上300億円の会社に約1,000億円の価値をつけるという、この点をどう捉えますか。
西川: 個人の口座をしっかりおさえる。その口座、顧客データから様々なサービスを新たに提供できる。
おそらく継続的な収益が見込めるということを前提に価値の判定・算定をしていくと、それなりの根拠を持ったバリュエーションができたのだと考えますが、それなりの金額ですよね。
臼井: そうなんですよね。これ、バリュエーションの観点から言うと、将来利益を現在価値に引き戻して価値を決める。 一般的にM&Aの現場で使われる方法なんですけど、今回買い手のドコモ目線で見ると、多分違った景色が見えてくる。
例えばドコモが単独で証券業界に参入しようとします。新たに自分で会社を作ります。必要なITの投資、人材投資をしていきます。そして広告・宣伝・プロモーションをしていきます。
・・・めちゃめちゃお金がかかるわけですよね。尚且つネット証券は申し上げた通り、レッドオーシャンですから、新規参入してもどれだけの口座を獲得できるかわからない。
西川: そうですね、事業が立ち上がるかどうかもわからない。
臼井: そうです。今のマネックス証券の200万口座に達成するには投資コストがどれだけかかるか。もう1つはそれを実際に成功させるための確率、お金をかけて時間をかけても200万口座まで行かない可能性もあるわけです。
その観点から考えると、1,000億円の価値をつけたとしても、自前で事業を立ち上げるものと、M&Aでもうすでに出来ているものを買うのとどっちがいいですか、というタイムバリューみたいな考え方が多分にあると思います。
収益性だけで見ると、おそらくこの評価額はつきづらいんだと個人的に思いますけれども、こうした見方が非常に戦略的に、なおかつ財務体力のあるNTTドコモの考え方だなという風に思いますね。
教科書的なコーポレートファイナンスから見たバリュエーションと、戦略上のバリュエーション。これはやっぱり相当違うなと思いますね。
西川: そうですね。いろんな戦略、可能性が見えてきて非常に面白いですね。2024年1月4日の業務提携開始後、両者の展開、事業シナジーに注目していきたいなと思います。