注目したい今回のM&Aスキーム

西川: こうした中、本件では資本業務提携、M&Aのスキームという切り口が興味深く、この辺りは臼井さんに解説をしていただこうと思うのですが。

臼井: はい。

西川: マネックス証券は、マネックスグループの100%子会社からスタートをしています。

今回このマネックス証券が「単独株式移転」で中間持株会社(ドコモマネックスホールディングス株式会社)を作るわけですよね。

つまり上場してるマネックスグループとマネックス証券との間に中間持株会社ができる。この後、どう進んでいくのでしょうか。

臼井: これも工夫されたスキームですよね。上場してるのはマネックスグループです。その直接100%子会社でマネックス証券があったところに、1回中間持株会社を作りましょうと。

これは株式移転という、会社法上の手続きで会社を作るんですけど、キャッシュを投入して作るわけではないのです。手続きの中で中間持株会社ができます、というこういう形です。

ですから新しくできた中間持株会社は、バランスシートの構成で言うと、資産の方はマネックス証券の株しかありません。 資本の方は借入れも何もないわけですから、純資産だけでできます。こういう非常にシンプルな構成の持株会社ができます。

そうするとマネックスループ、100%で中間持株会社、100%子会社でマネックス証券、というのがこれがまず第1段階です。

その次に行われるのは、マネックスグループが持ってる中間持株会社の株を、NTTドコモに売却します。

西川: 株式譲渡するわけですね

臼井: はい。報道資料にある金額によると、発行済み株式の48%分を466億円。つまり約1,000億円弱の額の48%を相対でドコモグループに譲渡しますということです。

西川: すなわち970億円の価値がある、ということですね。

臼井: マネックスグループには売却代金で先ほどの466億円が入ってきます。加えてNTTドコモは中間持株会社の方に、増資の形で直接資金を入れる。

ドコモ目線で見ると「486億円出します。そのうちの460億円は、マネックスグループの方に渡します。20億円分は持株会社の方に渡します。」すなわち子会社のところに入るので、これで子会社の財務体質を改善するであったりとか、事業の運用資金にしていく、そういう形の戦略なのではないでしょうか。

実質支配力基準で、マネックス証券はドコモの連結子会社に

臼井: ここで一つ注目したいのは、NTTドコモ自身はこの中間持株会社に対して出資割合が49.05%という、少し微妙な数字なんです。対してマネックスグループは50.95%を持ちます。

51対49ですから、マネックスグループの方が少し持分比率が多いんです。

ところが報道資料を見ると、この中間持株会社であるドコモマネックスホールディングスの取締役の過半数はドコモ側から出します、ということになってるんですね。

本契約の締結により、ドコモは、マネックス証券が株式移転にて設立する中間持株会社の株式の譲渡および第三者割当増資にて、中間株式会社の株式および議決権割合の約49%を保有します。
そのほか、 取締役の過半数を指名する権利をドコモが有する ことなどから、中間持株会社および中間持株会社の子会社であるマネックス証券は、実質支配力基準に基づき、 ドコモの連結子会社 となります。(2023年10月4日付 NTTドコモ報道資料より一部抜粋)

NTTドコモ側は49%ですが、実質的な経営主体、経営権はドコモグループが持っているであろうということで、マネックス証券はドコモの連結子会社になります。

西川: 実質支配力基準で、NTTドコモは一定の経営関与を手にすることができるというわけですね。

臼井: 今回おそらく規制業種、許認可業種など様々な事情も関係して、こうしたスキームになってるのかなと思われます。

西川: マネックス証券については、株式譲渡の対価としてキャッシュがマネックスグループに入るということで、これを元手に新たな成長分野に投資をしていくというのがマネックスグループの本件の目的、狙いだとリリースから読み取ることができます。