目次
- 歴史と湯煙情緒あふれる町並みが広がる有馬温泉
- ルーツは約700年前の温泉宿 3つの温泉大浴場を備える兵衛向陽閣
- 宿泊客に多彩なサービスの選択肢を提供
- デジタル技術で業務を効率化 きめ細やかなおもてなしにつなげる
- コロナ禍を機に、数多くの情報をお伝えするだけでなく、頻繁にその内容を更新するため、デジタルサイネージを導入
- 三つの大浴場の混雑状況を表示することで宿泊客の利便性も向上
- 動画カメラシステムを導入して効率的な人員配置を実現
- 在宅、モバイルでも共有データを閲覧できるクラウド型の環境を構築
- オリジナルブランド「兵衛印」を考案 オンラインショップも立ち上げる
- おもてなしのキーワードは笑顔と感動 新しい技術を活用してサービスに磨きをかける
日本有数の歴史を誇る兵庫県神戸市北部の有馬温泉。温泉宿として約700年の歴史を持つ「兵衛向陽閣」を運営する株式会社兵衛(ひょうえ)旅館が、宿泊客の目に触れないバックヤード部門でデジタル技術を活用することで業務を効率化している。適材適所でICTやデジタル機器を導入してコロナ禍以降の観光トレンドの変化に柔軟に対応し、宿泊客へのきめ細かなサービスに磨きをかけている。(TOP写真:兵衛旅館が運営する兵衛向陽閣)
歴史と湯煙情緒あふれる町並みが広がる有馬温泉
「関西の奥座敷」と呼ばれる兵庫県神戸市北部の有馬温泉は、周辺に火山がないにもかかわらず高温の温泉が湧く世界でもユニークな温泉地だ。赤褐色の「金泉」と無色透明の「銀泉」の2種類の温泉に入浴することができる。有馬温泉の歴史は古く、養老4年(720年)に完成したとされる日本書紀には舒明(じょめい)天皇が631年(舒明3年)に滞在したとの記録が残る。
神戸の中心地、三宮から神戸市営地下鉄と神戸電鉄を乗り継いで約30分で到着する温泉街では、神社仏閣などの歴史遺産に囲まれた湯煙情緒あふれる町並みが広がり、有名な温泉旅館が軒を連ねる。
ルーツは約700年前の温泉宿 3つの温泉大浴場を備える兵衛向陽閣
1937年設立の兵衛旅館が運営する兵衛向陽閣もそのひとつ。ルーツとなる温泉宿の創業は約700年前にさかのぼり、兵衛の名称は、16世紀末に天下統一を果たし、有馬温泉がお気に入りだった豊臣秀吉が授けたと伝わっている。
兵衛向陽閣は、有馬温泉駅から徒歩で坂道を登って6分の場所にあり、山の斜面を利用して建てられている。1階のフロントに、地下1階の玄関からエレベーター、エスカレーター、階段で上がる構造になっている。趣の異なる三つの温泉大浴場、ダイニングレストランなど三つの食事処、様々なタイプの130近い客室を備える。
宿泊客に多彩なサービスの選択肢を提供
長い歴史を持つ老舗としての格式を保つ一方、敷居の高さを感じさせない幅広い世代に親しんでもらえる温泉旅館を目指している。夕食では部屋での会席料理、レストランでの会席料理のほか、バイキング形式の料理を提供したり、幼い子ども連れの家族でも周囲に気兼ねなく滞在を楽しめるように多彩なサービスの選択肢を用意している。
デジタル技術で業務を効率化 きめ細やかなおもてなしにつなげる
日本だけでなく世界中から集まる宿泊客数は1ヶ月で約1万人にのぼる。膨大な予約データや宿泊客の名簿管理を効率的に行う上で、システムは必要不可欠の存在だ。
「お客様の目に触れないバックヤード業務でデジタル化を推進することで、作業の効率化を図っています。デジタル化によって、従業員は、サービスや調理といったおもてなしに関わる業務により一層時間を使うことができるようになります。お客様一人ひとりへのきめ細やかなおもてなしにつなげるために、ICTやデジタル機器を積極的に活用していきたいと考えています」宿泊部長とシステムを統括するシステム管理室長を務める岸本宏史取締役は穏やかな表情で話した。
コロナ禍を機に、数多くの情報をお伝えするだけでなく、頻繁にその内容を更新するため、デジタルサイネージを導入
新型コロナウイルスが猛威をふるった2020年から2022年にかけ、全国の多くの宿泊施設は感染状況に応じてその都度、臨時休館を余儀なくされた。兵衛向陽閣も例外ではなく、三密(密閉、密集、密接)の回避や新しい生活様式の浸透に対応した新しいおもてなしの形を模索する中で、改めてICTやデジタル機器の活用に目を向けたという。
コロナ禍において、宿泊客へのマスク着用、検温、アルコール消毒などの依頼や館内の感染対策情報を効率的に伝達する目的で2020年6月に導入したのが、ディスプレイに映像や文字を表示するデジタルサイネージだ。「以前は、お客様に必要な情報をお伝えする時は、館内に用紙で掲示するか印刷物を手渡ししていたのですが、コロナ禍では数多くの情報をお伝えするだけでなく、頻繁にその内容を更新しなければなりませんでした。紙のアナログ方式では難しかった効果的に情報を伝えるツールとしてデジタルサイネージは大活躍してくれました」と岸本取締役は振り返った。
三つの大浴場の混雑状況を表示することで宿泊客の利便性も向上
デジタルサイネージは2台導入し、1台は地下1階の玄関、もう1台は三つの大浴場に向かう分岐点に置いた。「表示内容のデータを差し替えるだけで常に最新の情報を配信できるので、紙で伝達していた時と比べて手間と印刷コストを大幅に削減することができました」と岸本取締役。大浴場のフロアに置いているデジタルサイネージでは、三つの大浴場の混雑状況も表示している。状況が一目でわかるので宿泊客も空いている大浴場を選びやすい。デジタルサイネージはコロナ禍が落ち着いた現在でも大浴場の混雑回避に大きな役割を果たしている。新たな活用方法も考えていきたいという。
また、兵衛向陽閣では、宿泊客がスマートフォンを使って客室内のQRコードを読み込めば、浴場やレストランの混雑状況など館内の様々な情報を入手できるシステムも導入している。
動画カメラシステムを導入して効率的な人員配置を実現
人手不足の中で効率よく人員を配置するという視点から2022年9月に導入したのが動画カメラシステムだ。兵衛向陽閣は玄関とフロントが地下1階と1階に分かれている。そのため、以前は、宿泊客の出迎えなどに対応するため地下1階に従業員を常駐させなければならなかったが、カメラを設置したことでフロントのモニターから状況を確認できるようになった。リアルタイムで地下1階の状況を把握して、臨機応変に対応できるようになったので効率的な人員配置が可能になった。映像で記録を残せるので、防犯面でも高い効果が生まれている。
宿泊業界全体が人手不足に悩む状況下、兵衛旅館は、従業員に負担をかけない職場環境を作る上でもICTやデジタル機器を積極的に役立てている。働きやすい環境作りを通じて定着率の向上につなげていきたいという。
在宅、モバイルでも共有データを閲覧できるクラウド型の環境を構築
従来から大容量のNAS(ネットワーク接続型ストレージ)は導入していたが、コロナ等で従業員が出社できなく困っている事情から、館内はもちろん、在宅、モバイルでも閲覧可能なクラウド型を新たに導入。従業員が館内のどこからでもスマートフォン、タブレットといった端末からストレージに保存している資料、動画、写真などのデータにアクセスできるようにした。会議の議題、資料、議事録をNASに保存することで、パソコン、タブレット、スマートフォンを通じて共有できるので、社内会議をすべてペーパーレスに切り替えた。アクセスの権限設定ができるので、セキュリティも確保しながら円滑に運用できているという。
オリジナルブランド「兵衛印」を考案 オンラインショップも立ち上げる
コロナ禍の後、団体客が大量に土産を購入する流れが変化し、自分のために土産を買う人が増えていることを受け、ポストコロナの時代に合わせた新しい土産の販売方法を模索している。
2022年9月から土産のオリジナルブランド「兵衛印」を立ち上げ、オンラインショップも同時に開設した。信頼感、上質感、特別感をコンセプトに現在、オリジナルカレー、菓子、黒毛和牛のしぐれ煮を販売している。今後、ラインナップの拡充も検討していきたいという。「コロナ禍以降、人の動きも観光の形も変化しています。変化に対応しながら新しい取り組みを進めていきたい」と岸本取締役は話す。
おもてなしのキーワードは笑顔と感動 新しい技術を活用してサービスに磨きをかける
兵衛旅館は、今後も従業員の教育やチェックイン・チェックアウトの迅速化といった面で、デジタル技術の導入を検討したいという。「新しいICTやデジタル機器は、お客様へのサービス向上という本質をしっかりと見極めて必要かどうかを判断した上で導入するようにしています。新しい技術を活用することで、人間だからこそ提供することができる真心がこもったサービスに更に磨きをかけていきたい。有馬の湯とこだわりの料理、笑顔と感動をキーワードにしたおもてなしを楽しんでいただけるようこれからも精一杯取り組んでいきます」と岸本取締役は笑顔で話した。
コロナ禍以降、人の動き、観光の形が変化する中で新しい取り組みを進めている兵衛旅館。長い歴史によって洗練されたおもてなし精神とICTの連携が生み出す相乗効果にこれからも注目したい。
企業概要
会社名 | 株式会社兵衛旅館 |
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本社 | 兵庫県神戸市北区有馬町1904 |
HP | https://www.hyoe.co.jp |
電話 | 078-904-0501 |
設立 | 1937年3月 |
従業員数 | 330人 |
事業内容 | 旅館経営 |