小規模建設業の施工管理の情報共有と活用促進&対応スピードアップ。データのバックアップ体制も整えトラブルに備える 佐藤工務店(群馬県)

目次

  1. 住宅建設から公共工事へとシフト
  2. 「建設業界は、ICTにより最も大きく変わった業界かもしれません」
  3. 施工管理関連の書類の共有化で、情報共有によるスキルアップとトラブル時に事前状況の把握が可能になった
  4. データセキュリティとトラブル対応にハードディスクドライブを増設してデータを常にバックアップ
  5. 今後はICT施工に力を入れていきたい
  6. 最新鋭の自動制御技術を搭載したショベルカーに関心があるも、小規模建設業での費用対効果を検討中
  7. 以前はあった自社のホームページ、担当者の退職でクローズ。再開に向け準備開始
  8. 工事の様子を映像で残し技術継承や外部へのアピール狙う
中小企業応援サイト 編集部
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群馬県高崎市に本社を置く株式会社佐藤工務店は、群馬県下の道路や運動施設の工事を数多く手がけて、地域のインフラ整備に貢献している建設会社だ。「工務店と社名にあるので、住宅を建てている会社と思われることもありますが、今は住宅2割くらいで、8割くらいは土木建設工事になります」と、代表取締役社長の佐藤潤氏は説明する。

住宅建設から公共工事へとシフト

新潟県に住んでいた創業者が、仕事を求めて群馬県へと南下して大工の仕事を始めたのが同社の発端という。「その頃から数えたら、100年くらいの歴史がありますね」(佐藤社長)。会社形態になったのは1955年。同じ年に、現在は高崎市に編入された群馬町が発足し、町の発展に合わせるようにして公共工事が増えていったこともあって、そちらを手がけるようになっていった。「良いタイミングで時代の変化の波に乗れたことが、当社がここまで続けてこられた要因です」(佐藤社長)と振り返る。

小規模建設業の施工管理の情報共有と活用促進&対応スピードアップ。データのバックアップ体制も整えトラブルに備える 佐藤工務店(群馬県)
佐藤工務店の佐藤社長

「近隣の小学校や中学校も、だいたい当社が手がけたものになります」(佐藤社長)。そうした中学校から、職場体験として会社見学に訪れる生徒も受け入れていて、地元になくてはならない建設会社となっている。それでも、大きく時代が変わっていく中で、変革への対応が必須となっている。

ここまで町が発展してくると、道路を新設するような工事は以前より少なくなっていく。「富岡市の方へと抜ける道路の新設工事があって、当社も幸い携わらせていただいていますが、今後も同じような大きな案件が出てくるとは限りません」(佐藤社長)。国や自治体の予算配分が公共工事から福祉へとシフトしている状況もあって厳しくなる経営環境の中、建設会社として生き残るためにはどうするかを考える必要が出ている。

対策としては、新設ではなく既設の道路や施設の整備といった分野に力を入れることがある。「自治体の中には、電柱の地下埋没化を進めて災害に強い町作りをしようといった施策を検討しているところもあります」(佐藤社長)。そうした方針を見越した上で、事業として請け負い、工事をこなせるような体制を作っておくことで、激しい変化についていくことができる。

「建設業界は、ICTにより最も大きく変わった業界かもしれません」

パソコンを活用して、業務の効率化に取り組むことも重要だ。「建設業界といえば、昔はスコップひとつ持って現場に行くような荒っぽいイメージもありました。今は大きく変わっています。この20数年の中で一番変わっている業界かもしれません」(佐藤社長)。背景に、業界の様々な分野におけるICTの浸透がある。「入札でも会場まで行かずに電子入札できるようになっている自治体も増えています。発注などの書類や工事の図面も、電子化されたものが送られてくるようになっています」(佐藤社長)。そうした業務のデジタル化に、佐藤社長が率先して対応してきた。

施工管理関連の書類の共有化で、情報共有によるスキルアップとトラブル時に事前状況の把握が可能になった

小規模建設業の施工管理の情報共有と活用促進&対応スピードアップ。データのバックアップ体制も整えトラブルに備える 佐藤工務店(群馬県)
パソコンに向かう佐藤工務店の佐藤潤社長

施工管理に関する書類のデータ化とその共有化も、佐藤社長がシステムを構築して始めたものだ。工事を始めるにあたって施工計画書を作る必要がある。これまでの経験からひな形を使ってパソコン上で作成できるようになっているが、これを現場監督が一人で持つのではなく、誰もが見られるようにした。「監督の個人的な能力差によって、工事に対する評価にバラつきが出ないようにしたかったのです」(佐藤社長)

自治体の工事で悪い評価を受けてしまうと、次から低い金額の案件にしか入札できないようになってしまう。業績に影響が出かねないそうした事態を避けるため、他の人の施工計画書を見られるようにした。「評価の良い人がどのような文章を書いているのかを参考にして、自分の施工計画書の作成に役立てることができるのではないかと考えました」(佐藤社長)

佐藤社長自身も、共有化した施工管理に関する書類を見ることができるので、現場がどういう状況になっているのかを把握できるようになる。「何かトラブルがあった時に、状況を把握しているのとしていないのとでは対応の仕方も変わってきます」(佐藤社長)。ただし、システムの保守は自分で行っていたため、トラブルが発生した際に解決に時間を取られることもあった。このため現在は、保守を外部のシステム構築会社に任せて、手間をかけずに運用できるようにした。

データセキュリティとトラブル対応にハードディスクドライブを増設してデータを常にバックアップ

同時に、データのセキュリティ面も向上させた。「ハードディスクドライブをネットワーク上に複数台置いて、データを自動的にバックアップするようにしました」(佐藤社長)。同社の事務所には、アレルギーを持った家族がいるため家で飼えない猫が2匹いて、従業員に癒やしを与えている。ところが、その猫たちが追いかけっこをして、メンテナンス中だったハードディスクを蹴飛ばし、データを消失させてしまったことがあった。猫でなくてもデータが消える可能性はゼロではないと考え、バックアップ体制を整えた。

小規模建設業の施工管理の情報共有と活用促進&対応スピードアップ。データのバックアップ体制も整えトラブルに備える 佐藤工務店(群馬県)
バックアップ用も併せて並べられたハードディスクドライブ

今後はICT施工に力を入れていきたい

工事の現場でも、効率化のためにICTの活用を考えている。コロナ明けで経済活動が活発になる中で、人手不足が大きな課題になってきている上に、2024年には残業の規制も厳しくなる。「工事を始める前に必要な測量に人手が足りないということも出てくるでしょう。そうなった時に備えて、GPSを使って測量できる機械を入れておけば、従来は2人必要だった作業を1人でできるようになります」(佐藤社長)

最新鋭の自動制御技術を搭載したショベルカーに関心があるも、小規模建設業での費用対効果を検討中

最新鋭の建機にも注目している「コンピューター制御のショベルカーがあって、地面を斜めに整地する法面作業で高さを入力しておけば、あとは簡単な操作で設計通りに削り出してくれるんです」(佐藤社長)。建機メーカーのプロモーション映像では、現場経験のない事務系の女性が、そのショベルカーを使って工事をする様子を見せていた。経験や技術を肩代わりしてくれる最新鋭の機器を導入すれば、人材の有効活用が図れて工事の効率化も実現できる。

IoT搭載の建機は、導入しても投資を回収できるだけの工事量を得られないのが難点だ。「浜川運動公園にソフトボール場を作った時、広い場所で丁張りだけでも2日かかるなど工期が厳しかったため、このIoT建機をリースで使ってみました。最終的に工期を3、4日短縮できました」(佐藤社長)。新しい技術や機器に対してアンテナを伸ばしておき、必要な時に活用できるようにしていたことが、成果となって実を結んだ。

新しい試みを建設の現場に持ち込んでいる佐藤社長だが、建設業に関する知識や経験を持っていたわけではなかった。大学を卒業して航空貨物の営業をしていたが、同社を経営する夫人の両親に、結婚を機に「会社に来てほしい」と請われて入社した。「まったく何も知らないのも問題なので、前橋工科大学に入って昼間は仕事、夜は勉強をしていました」(佐藤社長)。外部から来た人間だったことが、徒弟制度なり職人技といった印象が強い建設業の世界で、先入観なく新しいことに取り組めた背景にありそうだ。

小規模建設業の施工管理の情報共有と活用促進&対応スピードアップ。データのバックアップ体制も整えトラブルに備える 佐藤工務店(群馬県)
佐藤工務店の事務所内

以前はあった自社のホームページ、担当者の退職でクローズ。再開に向け準備開始

こうしたICTへの取り組み具合に反して、同社は現在ホームページを開いておらず、取引先以外が事業概要を知ることが難しくなっている。過去には佐藤社長自身がホームページを作成し、後に担当者を置いて現場写真を載せたり従業員の日常を紹介したりしていたが、その担当者が退職し、同じタイミングで契約していたサービスが終了となったため、ドメインごと消えてしまった。取引先には改めて事業概要をアピールする必要がないため急いで復旧させなかったが、人材確保のために今後ホームページが必要となれば、再開することも考えていくという。

工事の様子を映像で残し技術継承や外部へのアピール狙う

これとは別に、映像を使って自社の技術や仕事の内容を発信していくことも検討している。「川の上に道路を通す工事で、ボックスカルバートというコンクリートで作った四角い筒の中を川の水が流れるようにしています。あらかじめ作っておいた四角い筒を運んでくるのではなく、現場でコンクリートを打つ大きな工事です。こうした工事の様子を映像で残しておくことで、次の現場に役立てられるのではないかと考えています」(佐藤社長)。内部的には次の世代に技術を継承することができ、外に向けては会社の技術力をアピールできると期待する。

一度に何もかもできるわけではないし、自分ですべてできるわけでもない。何が必要かを検討した上で優先順位をつけて導入しつつ、運用はアウトソーシングして、できた余裕を次の戦略策定に振り向ける。中小企業のICTに対するベストな向き合い方と言えそうだ。

小規模建設業の施工管理の情報共有と活用促進&対応スピードアップ。データのバックアップ体制も整えトラブルに備える 佐藤工務店(群馬県)
佐藤工務店本社

企業概要

会社名株式会社佐藤工務店
住所群馬県高崎市福島町740-11
電話027-373-2534
創業1955年
従業員数12人
事業内容建築工事業/土木工事業/舗装工事業/水道施設工事業など