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日本三大天空の城として知られる「越前大野城」の城下町・福井県大野市にICT施工で高い評価を得ている土木建設会社がある。創業100年を超える歴史の中で地域の社会インフラ整備に貢献してきた株式会社建世だ。前川修康代表取締役は「土建業のICT化は、工事の効率化や施工品質向上、安全施工に効果があると同時に、将来の担い手の育成にもつながる」と話し、経年劣化が進む道路やダムなど社会インフラの維持管理や補修・改修に不可欠な技術の継承にも期待する。(TOP写真:現場端末アプリ活用のICT施工で福井県の2021年度優良工事表彰を受賞した道路改良工事)
風通しの良い社風から生まれたチームワークで公共事業〝冬の時代〟を乗り越えた
1917年に飛島組(現飛島建設)の実質的創業者・飛嶋文吉氏の弟子(石工)として土木建設業に携わった山崎三之介氏が創業した「山崎組」が、建世の前身。その後1957年に法人化し山崎建設工業株式会社を設立、2002年に株式会社建世に社名変更した。
2007年に会社設立50周年、2017年に創業100周年を迎えた由緒ある土木建設会社で、大正年代後期から平成年代にかけて、この地域で実施されてきたダムや発電所、道路建設工事、防災対策のための砂防事業などに関わってきた。
「私が社長に就いたのは2006年ですが、平成に入った1990年頃から公共事業は下り坂の時代に入り、その後『コンクリートから人へ』などと言われた時がどん底でした。この10年くらいでだいぶ戻ってきたとはいえ、まだ5合目くらいでしょうか」。前川社長は土建業〝冬の時代〟を振り返る。ピーク時で大野市内に130~140社あった建設会社が今では3分の1近い50数社に減ってしまった中でも、生き抜いてきたのは「風通しの良い社内コミュニケーションによるチームワークの成果だ」(前川社長)という。
土木工事現場は、技術管理者と重機などを操縦するオペレーター、実際に作業をする職人などで構成される。通常、管理者は他の作業はしないが、同社の現場では管理者も手が空いていればダンプも運転するし、土木作業もやる。そこから、お互いの気持ちを理解しチームワークが生まれ、工事品質の高い安全施工につながる。このチームワークが建世の最大の強みだ。
工事の完成度はもちろん、現場でのマナーやコミュニケーション力でも高評価
このため、同社が施工した工事に対する評価は高い。土建業の場合、工事発注者の多くは官公庁や地方自治体で、工事完工後には完成検査が実施される。その完成検査で同社の施工工事は、「どの工事も80点前後の評価はいただいている」(前川社長)という。
福井県の優良工事等事業者表彰や近畿地方整備局の福井河川国道事務所長賞など多くの受賞実績が同社の工事品質に対する高い評価を物語っている。完成検査での高評価や表彰では、工事の完成度はもちろんのこと、「現場での整理整頓や作業姿勢など社会生活を送る上での当たり前のマナーや地域住民の方々、地主さんとの良好なコミュニケーションも重要な評価の対象となります。私も会社に入った時からそう教えられてきましたし、社員には社会人としてのマナーの重要性を説いています」。そして、前川社長は「やはりチームワークから生まれる総合力が評価につながる」と自己分析する。
近畿地方整備局管内初の土木工事無人化施工に取り組む
土木工事の無人化施工にもいち早く取り組んできた実績がある。1991年11月から4年強にわたった雲仙普賢岳大噴火後の復興事業で無人建設機械が活躍したことを受けて、同社が2001年に実施した河川護岸工事で無人建設機械を導入した。ラジコンで無人操作可能な2本の爪でつかめる仕組みになった作業バケットを装着したバックホーと無人運転ダンプカーを活用。道路のある川岸の反対側(対岸)で人間による工事作業が難しい川岸を補強するため、鉄の線材で編んだ大きなカゴに石を詰めた蛇カゴを道路側でつくり、それを無人ダンプで対岸に運び、無人バックホーが積み上げて護岸工事を完成させた。
近畿地方整備局管内では初の無人化施工だった。前川社長は「当時はまだICTという概念はなかったが、今考えれば、土建工事でのICT活用の走りとも言えるかもしれないね」と言って笑顔を見せる。
施工管理者業務支援システム導入で工事管理業務を劇的に効率化
本格的なICT化への取り組みは、2003年の土木工事の施工管理業務支援システムの導入だ。工事管理者が工事計画から工事の進捗状況を随時入力することで、工事が始まってから完成するまでに発生する書類作成や写真管理、図面作成、工程管理などをデジタル化し、工事完成後に役所に提出する「完成図書」と呼ばれる書類を発注者のルールに沿って自動で作成、電子納品を可能にした。「それまで手計算し、手書き作成していた書類が、毎日の工事進捗状況を入力しておけば自動作成できるため、現場の工事管理業務は劇的に効率化できた」(前川社長)
タブレットのICT施工現場端末アプリで二人必要だった測量作業をワンマン化
2020年には、同支援システムで作成した図面データをタブレットに取り込み、現場で測量機と連動させ、従来は二人で行っていた現場での位置出しや丁張設置、施工チェックなどの測量作業をワンマン化するICT施工現場端末アプリも導入。3D施工データを活用した革新的なICT施工を実現した。
「発注を受けた図面に対して設計書通りにつくるのがわれわれの仕事。土木工事にとって測量は必然で重要な作業だけに、作業人員半減による作業の効率化、経費削減効果は大きい上、危険が潜む現場を移動することなく測量作業ができるため、安全工事にも寄与する」。前川社長は同アプリの効果を高く評価する。
アプリ活用の国道改良工事で福井県の優良工事表彰、現場見学会で新卒技術者も入社
同アプリを初めて使用した2020年実施の大野市内の国道改良工事は、福井県から2021年度優良工事等事業者表彰を受けた。ICT活用による生産性向上や労働環境改善が高く評価されたことに加えて、県は「現場見学会・講習会によるICT技術の活用体験などを行った結果、講習会に招いた学生の入社が決定するなど、将来の担い手が確保された」ことを受賞理由に挙げている。
「その学生は、市内の他の土建会社に勤める父親と一緒に見学会に来ていて、お父さんが『俺が入りたいくらいだ』と言ってくれて、入社を決めてくれた。本当にありがたいと思いました」と前川社長は当時を振り返る。同社にとって十数年ぶりの高校新卒技術系社員の入社で、「3年目の今も元気に頑張っている」という。
ICT施工で土建業のイメージを一変させ、日本の社会インフラを守る
少子高齢化が進む中で、土木工事技術者の担い手不足は深刻化している。道路やダムなどの社会インフラは建設から相当の年数が経ち、経年劣化が進んでいる。「今後の土建業は新設工事が減少する中で、経年劣化した施設の補修・改修など維持管理やメンテナンスが主体になると思う。その時になって技術がないでは済まされない」と、前川社長は将来への技術の継承の決意を語る。
日本全体や地域社会のインフラを守るためには、技術を受け継ぐ担い手を確保し、育成していくことが重要課題だ。ICTを活用したICT施工は、土木工事現場のイメージを一変させる可能性もあり、建世は土建業の将来を見据えて、「ICTを積極的に活用していく」(前川社長)方針を示す。
企業概要
会社名 | 株式会社建世 |
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本社 | 福井県大野市春日3丁目20-7 |
HP | https://www.kensay.co.jp/ |
電話 | 0779-66-0675 |
設立 | 1957年1月 |
従業員数 | 18人 |
事業内容 | 一般土木、舗装、鋼構造物、しゅんせつ、石工事業、管工事業など |