無垢材と伝統工法で〝生きた木〟の家づくり一筋。リアルに訴求できる3Dパースで提案型営業を強化 岩重工務店(群馬県)

目次

  1. 顧客は集成材の家では体感できない木の香りに驚く
  2. プレカット材ではできない台持ち継ぎなど伝統技術を受け継ぐ
  3. 2020年にモデルハウス兼自宅を新築。以来、たった一人で家づくりに励む
  4. 建築用3D-CADソフトを新調。3Dパースの描画力に感動
  5. 3D-CADの戦力化へ妹さんも頼もしい味方に
中小企業応援サイト 編集部
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玄関に入ったとたんに心地よい木の香りに包まれる——。そんな無垢材を使った伝統工法による家づくりを頑なに守り続ける有限会社岩重工務店。大手ハウスメーカーの集成材を使った木造住宅が広く普及する中、生きた木材の家にこだわる顧客らの要望に応えて、従来の技法を生かしながらも、和モダンの装いを加えるなど耐久性と機能性と心地よさを大切にした家づくりで評判を築いてきた。最近は建築用3D-CADソフトを最新型に入れ替え、3Dパース(3次元透視図)を用いて顧客に間取りを提案するなど、ICTの力で人手不足を補いつつ商談の効率化を図ろうとしている。(TOP写真:住宅の実物写真と3D-CADで作成した3Dパースを比較)

顧客は集成材の家では体感できない木の香りに驚く

「当社の建てた家に見学に来たお客様はまず、第一声で『木の香りがすごいですね』って驚きます。そして『今の新しい家ってほとんど木の香りがしないのに』と不思議がります。それはそうなんですよ。新しい家のほとんどは集成材、つまり死んでいる木を使っていますから」。こう話すのは岩重工務店の2代目社長である岩重国雄代表取締役だ。創業者で父親の岩重佐苗氏の後を継いで2023年に社長に就任した。

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2023年に代表取締役に就任した岩重国雄氏

鹿児島から東京に出てきて大工をしていた佐苗氏が群馬県前橋市で創業したのは1977年。真面目な性格と腕を見込まれて同市の工務店に誘われ、そこで仕事をしているうちに顧客をはじめ周りの人に勧められるように独立したのだという。1985年には会社組織にした。創業以来ずっと続けている5年、10年と自然乾燥させた無垢材をふんだんに使った家づくり一筋できた。

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無垢材を自然乾燥=岩重工務店の作業場

プレカット材ではできない台持ち継ぎなど伝統技術を受け継ぐ

長男の国雄氏は高校を出てすぐに同社に就職。最年長の棟梁(とうりょう)について大工の技能を教わるとともに夜間の職業訓練校にも3年間通って腕を磨き、さらに建築設計技術の専門学校を受講して二級建築士の資格も取得した。住宅の骨組みの設計から始まり、木材に印をつける〝墨付け〟、のこぎりやノミやカンナで加工する〝手刻み〟、柱や梁(はり)を接合する〝継手〟など木造軸組工法に必要な技能のすべてを習得。もともと手先が器用だったこともあり、「24、25歳の頃には建築現場で主要な仕事を任されるようになっていました」と語る。

実は墨付け、手刻みといった大工仕事の基本的な技能を備える大工は、今や希少な存在なのだ。ハウスメーカーの仕事を請け負う大工は、「プレカット」と呼ばれる工場で機械的に加工した集成材を現場で組み立てるだけなので、そうした技能がなくても務まるからだ。「継手にしても、(他の大工は)せいぜい(接合部の突起が小さい)〝蟻〟や〝鎌〟しかできないけれど、私は大きな梁には〝台持ち継ぎ〟を使います。これだと非常に丈夫な構造になり、相当な地震でも平気なんです」と、国雄氏はプレカット材を使った工法との違いを強調する。

一方、無垢材でも加工の仕方で、機能が変わる。国雄氏は岩重工務店の店の近くにある作業場で、無垢材の切れ端の表面の一部を超仕上げカンナ盤で削り、別の表面をサンダー(電動のサンドペーパー)で削って、その違いを見せてくれた。それぞれの表面に水を垂らすと、カンナをかけた方は小さな水玉ができるのに対し、サンダーのほうは水が広がるのだ。カンナは木の細胞を壊さずに削れるので水を弾くが、サンダーは細胞を壊すので水が染み込むのだそうだ。住宅の木材を使う場所に応じて、それぞれの機能を使い分けるわけだ。

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岩重工務店の作業場
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超仕上げカンナ盤

2020年にモデルハウス兼自宅を新築。以来、たった一人で家づくりに励む

実際に2020年に建てたという国雄氏の自宅を見せてもらった。作業場の少し先にあり、モデルハウスとしても活用しているそうだ。玄関に入ると、すぐに木の香りに気づく。築後3年を経過しているのに少しも消えないようだ。木の香りはアロマテラピーにも使われるようにリラクゼーション効果があり、心身の療養になる。まさに「生きた木の効能」を享受できる住宅だ。

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岩重工務店のモデルハウス兼国雄氏の自宅=ホームぺージより
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木の香りがする玄関=ホームぺージより

リビングには薪ストーブが置かれ、仕切りの壁にはステンドグラスを使うなど和モダンの内装は伝統工法と斬新なデザインがほどよく調和している。デザイナーを使わずにすべて国雄氏が独自に考案したという。もともとファッションが好きだったという国雄氏は「見所をあっちこっちに作ると陳腐になってしまうので、目立たせたいポイントを絞ることを心がけています」とデザインの要諦を語る。

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薪ストーブのあるリビング=ホームページより

この住宅は国雄氏がほぼ1人で建てた。大工に限らず様々なものづくりの現場で職人不足が憂えられる中、岩重工務店でもかつては10人以上いた社員が定年退職などで1人2人といなくなり、最後は父親の佐苗氏と2人だけで仕事をしていたが、その佐苗氏も持病が悪化して力仕事ができなくなったからだ。以来、経理などの事務作業は母親が担当しているものの、たった1人で新築住宅を建てている。1年に2棟のペースで建築し、電気工事が入る期間など合間を縫って、台所やトイレなどのリフォームも請け負う。生きた木にこだわる顧客からの注文は絶えず、リフォームなどは3年待ちの人もいるという。

「私の中では正直、1人でもできないことはないという気持ちがあります。でも、1人が2人になれば3倍にも4倍にもなる仕事ってあるじゃないですか。そういう時にあと1人でもいてくれたらなと思うこともあります」

国雄氏はこう本音を漏らす。いろんな形で人材募集をしているが、なかなか見つからないのだという。

建築用3D-CADソフトを新調。3Dパースの描画力に感動

そうした人手不足対策もあって、2023年8月には建築用3D-CADソフトを導入した。3D-CADは25年前から使っているが、「動作が鈍いし、もう少し細かいところまで描ければいいのに」(国雄氏)と思っていたところにシステム会社の営業担当者に勧められて最新型を導入。現在、インストラクターに来てもらい、手ほどきを受けているところだが、従来のソフトとの圧倒的な違いに驚いているという。

「先日、増築をするご夫妻と商談中に、奥様が『屋根のイメージがつかないね』とボソッとおっしゃったので、インストラクターに3Dパースを作成してもらいました。『こんな感じになります』と渡したら、『すごいですね』って言ってもらえ、私のほうもその出来栄えに本当にびっくりしました」

国雄氏は試しに、最近完工した新築住宅の設計図を使って自分で新しいCADソフトで3Dパースを作成してみた。「ほとんど実物と変わらないぐらいで、本当に驚きました」と話す。

同CADソフトの3Dパースは住宅の外観、内観が自在な角度から、太陽光や照明による陰影をつけながら表現できる。「例えば、奥様が対面キッチンの中に立って、リビングの方を見た時の部屋の様子をそのまま表現できるので、すごく便利です」(国雄氏)。天井を総板張りにするか、部分的にクロス張りにするかを悩む顧客が多いが、それを3Dパースで見てもらえばイメージしやすくなるので、早く決断してもらえるのではないかとも考えている。国雄氏は顧客との資料のやりとりなどにLINEを使っているので、3Dパースはかなり強力な武器になると期待する。

無垢材と伝統工法で〝生きた木〟の家づくり一筋。リアルに訴求できる3Dパースで提案型営業を強化 岩重工務店(群馬県)
外観と内観を3Dパースでプレゼンできる
無垢材と伝統工法で〝生きた木〟の家づくり一筋。リアルに訴求できる3Dパースで提案型営業を強化 岩重工務店(群馬県)
視点の角度や照明の陰影も自在に表現

3D-CADの戦力化へ妹さんも頼もしい味方に

ただ、新築住宅は1年に2棟ペースなので、リフォームを含めても設計や作図が必要になる機会は多くない。そのぶん、同3D-CADを自在に使いこなせるようになるには時間がかかりそうだ。そこで、主婦をしている妹の香(かおる)さんにも使い方を覚えてもらおうと、インストラクターの講義を一緒に受けている。香さんは大手住宅設備メーカーで3D-CADソフトを使って見積書作成などの仕事をしていた経験があり、「このソフトは楽しいね」と評価しているそうだ。

3Dパースの作成だけでなく、設計から見積や積算など多様な機能を搭載しているこの3D-CADソフトを岩重工務店が本格的に戦力化していく上で、香さんの力が大いに頼りになりそうだ。

無垢材と伝統工法で〝生きた木〟の家づくり一筋。リアルに訴求できる3Dパースで提案型営業を強化 岩重工務店(群馬県)
岩重工務店本社

企業概要

会社名有限会社岩重工務店
住所群馬県前橋市紅雲町1-22-4
HPhttps://iwashige.co.jp
設立1985年4月
電話027-224-8406
事業内容木造住宅建設業