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群馬県高崎市に県内初の芸術・美術系大受験予備校として1982年に開校した高崎美術学院には、毎年数80人から100人以上の若者が難関大学合格を目指して県内外から集まっている。芸術・美術系大学受験専門予備校として立地の良さや実績の高さで評価されているが、近年は県内に類似の予備校も開校したほか少子化の流れもあり、芸術系高校受験コースの追加や、社会人・子供向けイベントの実施など間口を拡大。経営効率化の一環として学生向け情報伝達のデジタル化に踏み出した。(TOP写真:難関美大合格者を講師に迎えて学生の石膏(せっこう)デッサンを講評)
東京芸大など芸術・美術系大学に数多くの合格実績
高崎美術学院の授業は、各自の習熟度に合わせた徹底した個人指導が中心だ。受験に必要不可欠なデッサン、色彩、立体の基本から応用、展開まで順序立てたカリキュラムに定評があり、東京芸術大学、金沢美術工芸大学をはじめ芸術・美術系の国公立大学、武蔵野美術大学などの有名私立大学に大量の合格者を送り出している。
教科は昼間部と夜間部に分かれ、それぞれ油画科、日本画科、彫刻科のほかデザイン・工芸科、先端芸術表現・映像科などを設置。高校1、2年生対象の基礎科のほか、1994年に高崎経済大学が附属高校開校にともない芸術コースを設置したことに対応して2023年度から中学生対象の美術系高校受験科も設置した。2023年3月の合格者は大学が83人、高校が17人だった。長年積み上げた合格者の合格作品の多さも貴重な「資産」となっている。
北村真行学院長は美大生時代に講師のアルバイトをして以来、徐々に仕事を任されて主任として重用され、創業者の板谷光洋学院長の後任として2012年に現職に就き経営全般を任された。「当初は油絵の講師をしていたのですが、長くやっているうちに印刷物の編集からホームページ制作まで仕事が増えて気がつけば学院長になって11年、最初から数えると25年です」と笑う。
目標は学生の将来のために「真の造形基礎力」を身につけさせること
目標としているのは「大学を経て将来、美術科やデザイナー、クリエイターなどになった時に基本となる真の造形基礎力を身につけること。小手先の受験テクニックのみを教えるわけではない」(北村学院長)。
創業以来の基本方針は、学生がconcept(自ら発想を)、consider(よく検討し)、concentration(人並み以上の集中力をもって)、creation(形あるものとして)、completion(しっかりと完成させ)、confidence(自信を持つ)という流れを体得できる場所であり続けることだ。
現在、講師は非常勤を含めて約10人。80人から100人程度の学生が目指す教科のカリキュラムを受講している。事務部門の悩みの種は、学生向け事務連絡が全員に届いていないことだ。
「例えば、『共通テストの申請を忘れるな』とA3サイズの告知を貼り出したり各自に配布しても見落としたり、封書を受け取っても忘れたままになっているケースがある」(北村学院長)と嘆くように、学生への事務連絡が行き届かず、締め切り直前に慌てて準備に奔走する学生が毎年数人いるという。
デジタルサイネージを設置し学生の注目度アップ。動画も活用してさらなる効果を期待
北村学院長が情報伝達の徹底を図るために2023年9月に導入したのが55インチのデジタルサイネージ(電子看板)だ。学生が教室に上がる階段の横に、誰もが必ず目に留まるように設置した。
試しにソフトボール大会のイベントをデジタルサイネージで告知した際には、「予想外に男女20人以上が集まり、盛り上がった」と効果に驚いた様子。これから年末年始に向けて、冬期講習など数々の案内を表示する予定で、実務上の周知効果に期待している。
表示画面の編集は北村学院長自ら行っている。現在は静止画だけだが、動画の制作にも取り組んでおり、近く学生たちに披露する予定だ。同様のデジタルサイネージを5部屋あるアトリエごとに設置することも検討している。
管理業務を一元化、モバイル化してタブレット端末で閲覧・入力可能に
紙による台帳などで管理してきた学生の出欠管理をはじめとする、業務管理全体の一元化とモバイル化も大きな課題となっている。
「受験校の実技試験が細分化されて学生の管理が複雑になった。パソコンにデータは保管しているが、誰でもどこでも使えるようにしたい」(北村学院長)。細分化された実技に対応した習熟度や合格可能性の算出など管理項目や計算項目が増加。学生のデータを市販のデータベース管理ソフトで再構築しており、タブレット端末で閲覧や入力ができるように開発中で、2024年3月までには完成する計画だ。
本校の近くにある姉妹校「アートフォーラム高崎」では社会人や子どもを対象に絵画や陶芸などを教えており、学院長自ら授業も行っている。北村学院長が引き継いだ時期は「経営的にはかなり低迷していた」と話すように厳しい業績だったが、アートフォーラム高崎の受講生が順調に伸びて収益に貢献。
AIが進化しても残るクリエイティブな部分。よりきめ細かな個人指導で競争力磨く
「AIが進化してもクリエイティブな部分はこれからも残る分野だと思うが、18歳の人口は自分の時代より6割も減少した。少子化の流れは予備校経営にも影響を及ぼしていて、多角化やきめ細かな個人指導が一層必要になる」と危機感を募らせている。
文部科学省調査では、1990年代前半に200万人を超えていた18歳人口は2022年に88万人と減少。さらに10年後に約10%減少すると予測されている。大学進学を目指す予備校の需要縮小は避けられず、競争も激化しそうだ。学生の創造力を伸ばす“教育力”と経営の足腰を鍛えて競争力をさらに磨くためにも、ICTの本格活用が欠かせない要素になりそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社高崎美術学院 |
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住所 | 群馬県高崎市岩押町35-12 |
HP | http://www.art-takabi.com/ |
電話 | 027-322-6548 |
職員数 | 10人(非常勤含む) |
事業内容 | 芸術、美術系大学受験、美術系高校受験の予備校運営/社会人、小学生向け絵画教室運営 |