医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)

目次

  1. 1回きりの使用で済ませるディスポーザブル型の赤沈管のビジネス化で奔走するも、会社設立までの経緯は曲折を経る。
  2. 1990年頃に始まったHIV流行を機に、使い捨てのプラスチック製の赤沈管に注目が集まる。最盛期は月100万本製造
  3. 制度改正で、赤沈管の需要が激減。シリコーン製品で窮地を救う。その後、赤沈管の需要も復活し、2本柱に
  4. またもや法改正で、医療器機製造業と医療器機製造販売業に分けられることになったため、小規模の医療器機製造業の経営が苦しくなってきた
  5. 新たな事業の開始。セキュリティシステムを導入しホームページも更新し福祉用具販売を強化
  6. SDGsで長野県の推進企業に選定。バレーボールチームのスポンサーにも
  7. 幾多の荒波を越えながら、今また新たな波に挑戦。根幹にある理念が会社を支える
中小企業応援サイト 編集部
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医療・理化学機器向けの製品・部品メーカーの株式会社ベネフィット(長野県)は、関連する法律の改正による需要変動への素早い対応や、新規事業の開拓を行うことにより現在の経営基盤を築いた。個人向け福祉用品の販売など新しい事業開拓を目指して、ホームページの更新やICT導入及びセキュリティ対策を行っている。(TOP写真:赤沈管の検査工程)

1回きりの使用で済ませるディスポーザブル型の赤沈管のビジネス化で奔走するも、会社設立までの経緯は曲折を経る。

医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)
創業の経緯などを語る小松正芳代表取締役社長

赤血球が沈む速度で体内の炎症などの疾患を測定する手法は100年以上前から欧州で行われ、それを測定する赤血球沈降速度測定管(赤沈管)にはガラス管を使っていた。ある日本の医師が、プラスチックを原料とし、1回きりの使用で済ませるディスポーザブル型の新しい赤沈管を開発して特許を取得したが、製造する企業が見つからない。

ベネフィットの小松正芳代表取締役社長の親族がその製造に乗り出そうと、1988年に株式会社サンモアという会社を立ち上げた。しかし、事業が軌道に乗らず、会社を東京の医療機器商社に売却したが、バブル崩壊が起きる。その医療機器商社もサンモア事業を別の商社に売却することとなったが、売却前の会社で工場長を務めていた小松社長が、「何とか事業を継続させたい」と資金集めに奔走。サンモア事業の仕入先や販売先も引き継いで、何とかベネフィットの設立にこぎつけた。2004年4月のことだった。

1990年頃に始まったHIV流行を機に、使い捨てのプラスチック製の赤沈管に注目が集まる。最盛期は月100万本製造

医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)
ベネフィットの本社工場

ベネフィットでは、プラスチック製の赤沈管を製造し、製薬大手と提携して販売したが、それでも売れ行きは芳しくなかった。追い風となったのが、1990年頃に始まったSARS(重症急性呼吸器症候群)などの感染症の流行だ。衛生面から、洗浄して何度も使うガラス製から、使い捨てのプラスチック製に置き換わっていったのだ。自社ブランドだけでなく、医療器具メーカーに相手先ブランドで製造するOEM供給も始めたことでようやく軌道に乗り、「最盛期には月に100万本程度製造していた」(小松社長)という。

制度改正で、赤沈管の需要が激減。シリコーン製品で窮地を救う。その後、赤沈管の需要も復活し、2本柱に

ところが、また環境が激変する。自治体などの集団健康診断では赤沈検査を行っていたが、1997年ごろには制度改正によりこの検査項目が除外となり、需要が激減したのだ。この危機を乗り越える鍵となったのが、小松社長が「赤沈管だけでは安定しない」と考えて始めていたシリコーン製品だ。シリコーンは石油化学製品を原料とし、耐熱性や絶縁性が高く、長寿命であることなどが特徴だ。創業前にすでに他社から技術者を招き、医療機器や理化学機器向けのシリコーン製のカテーテルやチューブなどの製造に乗り出していたことで、赤沈管の落ち込みをカバーでき、「今では当社のメインの商品となっている」(小松社長)という。

医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)
シリコーン原料の押出チューブライン
医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)
原料となるシリコーン

一方の赤沈管も、健康診断項目からは外れたものの、クリニックなどの小規模な医療機関では簡易検査として赤血球検査を実施するところがある。需要が激減した時に撤退するメーカーが相次ぎ「今では国産メーカーは2社ほどになった」(小松社長)ことで、ベネフィットは月に8万~10万本は製造するようになり、シリコーン製品とともに2本柱となっている。

医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)
赤沈管の製造ライン
医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)
赤沈管の出荷工程

またもや法改正で、医療器機製造業と医療器機製造販売業に分けられることになったため、小規模の医療器機製造業の経営が苦しくなってきた

ところが、またもや法改正が同社に影響を及ぼす。2009年の医薬品医療機器法の改正により、医療器機製造業と医療器機製造販売業に分けられることになった。製造販売業は医療器機を製造せず、製造する業者を管理するほか、複数の製造業者に委託して製品化し、承認申請や販売を行う。一方、製造業は部品などの製造に特化して製造販売業者に納入するが、販売はできなくなった。これにより、小規模な医療器機製造業の撤退が相次いだという。

ベネフィットは赤沈管という完成品を販売していることから、製造業・製造販売業のどちらも認可を得ている。ただ、赤沈管を除いては、大手医療器具メーカーに部品を納入する医療器機製造業としての側面が強くなっている。それでも、人工透析器向けのシリコーン製ゴム管やチューブなどの消耗品は「競争相手が多く、コスト勝負にならざるを得ない」としており、コスト削減に気を配る毎日だ。

新たな事業の開始。セキュリティシステムを導入しホームページも更新し福祉用具販売を強化

小松社長は、社内の情報処理体制の整備と、新規事業拡大のため、ICTの利用に乗り出した。情報処理では不正侵入やウイルスなどに対応し、24時間保守で自動更新する統合セキュリティシステムを導入。「情報の出入り口で管理しているので安心感がある」(小松社長)。カタログやパンフレット作成・印刷もデジタル化。事務所と工場をつなぐ電話機も、親機とPHSでつなぐ方式に変更した。

2022年秋にはホームページ作成システムを導入。創業以来そのままだったというホームページを更新したほか、オンラインショップを開設してシリコーンゴム製品の販売も強化する考え。医療用シリコーン部品の製造は、長さ10メートル程度のチューブを加工するが、不良品の発生を見込んで1割程度余分に製造する。この余ったチューブをホームページで販売したいという。

チューブだけでなく、小松社長が開発した福祉用具の販売も計画している。長期間にわたり劣化せずに使えるシリコーンの特性を生かし、皿の縁に取り付けて滑り止めに使う食事補助用具や、テープやシートなどを介護用品として製品化。介護用スプーンも開発中だ。これらのシリコーン製品はこれまで子供用福祉用具の展示会に出展して即売していたが、「2023年度中に開設するオンラインショップで販売したい」意向だ。

医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)
オンラインショップで販売予定のシリコーン製福祉用具

SDGsで長野県の推進企業に選定。バレーボールチームのスポンサーにも

更新したホームページ上では、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みもアピールする。地元の商工会の勧めにより、長野県が全国に先駆けて実施したSDGs振興活動に呼応し、2020年に取り組みを開始した。シリコーンの長寿命性が資源の有効活用になるほか、調理器具などにも使われ始め、その特性をアピールするためだ。具体的には、2030年までの目標として、全社員が1人年5回にわたりボランティアに参加するほか、地元企業への受発注を3割アップ、再生可能エネルギーの割合を40%に高めるなどの目標を掲げる。これらの活動により、長野県のSDGs推進企業にも登録されている。

地域貢献活動の一環として、本社工場がある隣の南箕輪村を本拠地とするバレーボールのVリーグ「VC長野トライデンツ」のオフィシャルスポンサーにもなっている。同チームはトップリーグで活躍しており、ベネフィットはチームメンバーの1人を雇用し、その選手はチーム内の奉仕活動にも参加する。実は、従業員である選手は2人いたが、引退したため現在は1人。それでも小松社長は「申し出があれば、今後も選手を雇用していきたい」という。

幾多の荒波を越えながら、今また新たな波に挑戦。根幹にある理念が会社を支える

社名のベネフィットという英語は利益と訳されることが多いが、恩恵や便益という意味もある。そもそも小松社長は後者の意味を込めて社名に採用した。同社のキャッチフレーズは「社会の為に、人の為に、会社の為に、そして自分の為に」だ。社名の由来の通り、従業員や社会に向けて恩恵をもたらし続けたい考えだ。

多くの企業が小松社長のような激動を乗り越えて今がある。小松社長の凄さは、これからの時代に必要だと思ったら需要の波が来るまでじっと耐え、しかもその間に新たな事業を仕込んでいる。結果的にはそれが花開くのだが、それまで決してあきらめない。今また新たな波に遭遇し、シリコーンの可能性を見出し、新しい市場へ一歩踏み出そうとしている。

ただ取材では語られない多くの失敗を重ねながら現在があると想像できる。そのたくましさは企業家そのものだ。そしてそれを支えるのが「社会の為に、人の為に、会社の為に、そして自分の為に」、理念が会社を支えることを改めて感じた。

医療関連の相次ぐ需要変化や法改正の窮地にも負けず経営基盤構築。HP活用し、福祉用品など新規需要開拓へ ベネフィット(長野県)
「シリコーンの特性をもっと知ってほしい」と話す小松社長

企業概要

会社名株式会社清榮工業所
本社住所長野県上伊那郡箕輪町13425-12
工場・事務所長野県上伊那郡箕輪町大字中曽根599
HPhttps://www.benefit-to.jp
電話0265-79-0030
設立2004年4月
従業員数10人
事業内容 ディスポ―ザル赤沈管、プラスチック製栄養ボトル、シリコーンマーゲンゾンデ、シリコーン製チューブおよびカテーテルなど医療機器の製造・販売