コロナ禍を機に、「健康」をキーワードにした「特別な居場所」へ。運営スタイル、業務システムも一新 穂高ビューホテル(長野県)

目次

  1. 欧州有数の温泉・保養都市ドイツのバーデン=バーデンをイメージして開発
  2. 最大の危機のコロナ禍を大きな転機に、生活者の旅行に対する考え方や行動が大きく変化するとの読み。「健康」をキーワードにした特別な居場所へ
  3. 「健康」をキーワードに提供プログラムを全面見直し。「ウェルネスツーリズム」の概念から派生した「ガストロノミーツーリズム」の提唱
  4. コロナ後をにらみ、業務管理システムを全面改修、宿泊客を待たせないため、フロントシステムの変更とスマートフォン決済も導入
  5. 顧客サービスの向上と同時に各部門の業務の連携がスムーズになった
中小企業応援サイト 編集部
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穂高ビューホテル株式会社(長野県安曇野市)は、北アルプスのふもとで豊かな自然と澄んだ水に恵まれた長野・安曇野の地に開発したリゾートホテル「安曇野 穂高ビューホテル」を運営している。全国の観光業が多大なダメージを被った新型コロナウイルス禍を機に、ホテル運営のキーワードを「健康」に据え、宿泊客に特別な居場所を提供する「日常のリセット」をテーマにした新たなリゾートホテル像の構築に取り組む。コロナ禍は一方で業務の見直しも迫り、生産性向上とお客様満足度の向上に向けたICT(情報通信技術)化を加速している。(TOP写真:ホテル1階のロビーには暖炉が設けられ、癒やしのひと時を過ごせる)

欧州有数の温泉・保養都市ドイツのバーデン=バーデンをイメージして開発

コロナ禍を機に、「健康」をキーワードにした「特別な居場所」へ。運営スタイル、業務システムも一新 穂高ビューホテル(長野県)
たき火やグランピングが楽しめる中庭側から見た「安曇野 穂高ビューホテル」

穂高ビューホテルは1989年の設立で、「安曇野 穂高ビューホテル」の開業準備室を設け、翌1990年にオープンを迎えた。当時はバブル経済が終わりに向かう直前に当たり、会員制リゾートホテルとしてスタートした。

安曇野市穂高の一帯はかねて一大リゾート開発の構想が持ち上がり、それを見越して温泉付き分譲地やゴルフ場、リゾートホテルの開発が進んでいた。しかし、ロープウェーやスキー場の建設も計画されたといわれる一大構想はその後、立ち消えた。

そんな最中にオープンした「安曇野 穂高ビューホテル」は、欧州有数の温泉・保養都市として知られるドイツのバーデン=バーデンをイメージして開発された。藤澤直樹営業・宿泊支配人によると「開発に当たった当時の社長はバーデン=バーデンに視察に出かけたほどと聞いている」と言う。実際、開業時にはクア施設(ドイツ発祥の温泉保養施設)のほか、室内、屋外にそれぞれプールも設け、主に周辺のゴルフ場でプレーする会員を中心に運営してきた。

会員制は現在も基本的に継続しており、「オーナー会員を大切にし、優先する姿勢は変わらない」(藤澤氏)。しかし、開業から30年以上が経過し当初の個人会員の高齢化などから会員数は目減りしており、一般の集客力を高めることも経営上の課題になっている。実稼働92室で、ツインの洋室、和室、和洋室のほか、4ベッドルーム、スイートルームを揃える。24人の正社員にパート社員を含む50人で運営している。

最大の危機のコロナ禍を大きな転機に、生活者の旅行に対する考え方や行動が大きく変化するとの読み。「健康」をキーワードにした特別な居場所へ

開業からさまざまな変遷を経てきた中で、最大の危機はいうまでもなくコロナ禍だった。過去にも2011年3月の東日本大震災の際は「3、4月の客室は空っぽとなり、このままならもう経営的に危ない」(藤澤氏)という窮地に追い込まれた。しかし、コロナ禍はそれ以上に深刻な事態に陥った。

2年間はほぼ実質的な休館状態が続いた。ただ、「今思えば、これが大きな転機になった」と藤澤氏は語る。それはコロナ禍を経て、消費者の旅行に対する考え方や行動が大きく変化するだろうとの読みが働いたからだ。結果的に、これが「健康」をキーワードに、宿泊客に特別な居場所を提供する「日常のリセット」をテーマにした新たなリゾートホテルとしての運営への切り替えにつながった。

藤澤氏は「実質休館状態の中、これからの当館に来るお客様、もしくは旅行するお客様の考え方をじっくり構築することができたのは、良い時間だったのかなと思う。そこで考え方を変えなければ、今の経営もどうなっていたか正直わからない」と振り返る。

コロナ禍を機に、「健康」をキーワードにした「特別な居場所」へ。運営スタイル、業務システムも一新 穂高ビューホテル(長野県)
「今振り返るとコロナ禍が大きな転機になった」と話す藤澤直樹営業・宿泊支配人

「健康」をキーワードに提供プログラムを全面見直し。「ウェルネスツーリズム」の概念から派生した「ガストロノミーツーリズム」の提唱

こうした紆余曲折を経て、提供するプログラムを全面的に見直した。ベースとしたのは「健康」。このキーワードに沿って、心身の健康増進や精神的幸福を目的とした旅行形態。人々の価値観やライフスタイルが変わる中で、新しい旅のスタイルとして注目される「ウェルネスツーリズム」の概念を採り入れた。

「ウェルネスツーリズム」の概念から派生した、その土地の気候風土が生んだ地元食を楽しむ「ガストロノミーツーリズム」の活用で、1階のロビーに複数の地元ワインを選び楽しめるメダル式のワインサーバーを設けた。長野県はワイン産業の振興を狙いに「信州ワインバレー構想」を推し進めており、そのきっかけづくりの場に位置づけた。このほか、ヨガや座禅といった「体験型プログラム」も増やした。中庭ではたき火やグランピングもでき、「心の癒やしができる商品作りに力を入れている」(藤澤氏)。

コロナ禍を機に、「健康」をキーワードにした「特別な居場所」へ。運営スタイル、業務システムも一新 穂高ビューホテル(長野県)
地元食を楽しむきっかけづくりに1階ロビーに設けた、複数の地元ワインを選んで楽しめるメダル式のワインサーバー

一連の取り組みで宿泊客への訴求効果を狙っているのは「日常のリセット」であり、職場(ファースト)、家(セカンド)とは別の、心身ともにリフレッシュできる居場所「サードプレイス」の提供にある。その意味で「日常のリセットに自己投資できる30代、40代の女性をメインターゲットに据えている」(藤澤氏)。

一方、インバウンド(外国人旅行者)需要については手探り状態にある。隣接する松本市にはかなり流入しているのに対し、安曇野は認知度が低く「外国人が安曇野に泊まることはほとんどない」(藤澤氏)。このため、「インバウンド需要の取り込みは課題ながら攻め手が見えない。いかに露出していけるか模索している」(同)段階だ。

コロナ後をにらみ、業務管理システムを全面改修、宿泊客を待たせないため、フロントシステムの変更とスマートフォン決済も導入

コロナ禍を機に、「健康」をキーワードにした「特別な居場所」へ。運営スタイル、業務システムも一新 穂高ビューホテル(長野県)
刷新したホテル管理システムでフロント業務に当たる社員

コロナ後は一方で運営業務の効率化とともに、顧客満足度の向上に向けて、一段上のICT化を迫られた。政府の国内旅行支援に加え、新型コロナ対策の規制解除により行動制限がなくなり、さらに感染症の5類移行に伴い、業界には着実に客足が戻ってきている。半面、ある種のオーバーツーリズム化への状況変化に業界が追いついていないのも現状だ。

藤澤氏はよくある事例にフロントでの対応を挙げる。「お客様がチェックイン、さらにチェックアウトでも待たされる。すると『フロントで1時間も待たされた』と旅行サイトのレビューに記され、評価は落ちる。評価がどんどん下がれば次のお客様は来てくれないという悪循環に陥ってしまう」と指摘する。

「安曇野 穂高ビューホテル」はICT化を加速する一つの大きな狙いとして、この点の改善に取り組んでいる。2023年10月末にはスマートフォンによるデバイス決済の利用を可能とするため、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済が1台の端末でできるオールインワン決済端末を導入した。

その前段階として、2023年5月には宿泊予約や客室管理、顧客管理、料金精算などホテル経営に関するフロント業務を一括管理するPMSと呼ばれるホテル管理システムをバージョンアップした。併せて業務効率化と生産性向上に向けて外部の予約サイトと自社の予約システムを一元管理できるようにした。料金設定や予約情報の管理も担うサイトコントローラーについても連携するホテル管理システムのバージョンアップに合わせて更新した。

さらにシステム全体の見直しに合わせ、レストランでのオーダーをスマートフォンへの入力だけでホテル管理システムに連動するPOSレジシステムを新たに導入した。これはデバイス決済に向けたオールインワン決済端末を導入する上で不可欠なためだった。

現在、一泊朝食付きや素泊まりの宿泊客を対象にチェックインの際に料金全額を支払う「デポジット」と呼ぶサービスを提供している。この場合、宿泊客はチェックアウト時にルームキーを返却するだけで済み、待たされるストレスはなくなり、フロント業務の軽減にもつながる。現在、一泊朝食付きや素泊まりの宿泊客を対象にチェックインの際に料金全額を支払う「デポジット」と呼ぶサービスを提供している。この場合、宿泊客はチェックアウト時にルームキーを返却するだけで済み、待たされるストレスはなくなり、フロント業務の軽減にもつながる。

しかし、宿泊客の7割はこの対象外の1泊2食付きで、夕食の際はアルコールなどドリンクのオーダーがあり、新たに発生した料金はチェックアウト時に精算しなければならない。これが夜のうちにスマートフォンで決済しておけばチェックアウト時の精算は必要なくなる。

顧客サービスの向上と同時に各部門の業務の連携がスムーズになった

一連のシステム見直しは確実な効果を生んでいる。何しろ、1日150食、ドリンクのオーダーは紙の伝票で扱い、それらをすべて入力していた作業を考えると、フロントでの1回の入力だけで情報はデジタル化され各部門に伝わり、「業務面でスムーズな連携ができるようになった」(藤澤氏)。さらに、「これまではチェックアウト時に注文の間違いを指摘され、フロントで長い時間、お客様を待たせることもたびたびあった。これを解消できたことは非常に大きい」(藤澤氏)。

さらに一歩進んだICT化としては、次にホテル管理システムとつながるカードキーの導入も検討している。ホテル運営で生産性を考えた場合、最終的には人の介在する部分を減らし、それによって生まれる時間をいかにお客に対する「おもてなし」に充てて、お客様満足度につなげられるかにかかってくる。

その典型例はフロントでのチェックアウトで、精算の時間がICT化で不要になれば、スタッフ、宿泊客のそれぞれのストレスは相当薄まる。現実問題として、ホテル業界は人手不足が深刻であり、必然的に生産性を上げなければならない。その意味でもICT化の推進は不可欠だ。ただ「日本のおもてなし文化の良さを削ってもいけない。その中にICTをどう活用するかだ」と語る。

顧客満足度の向上と生産性の向上という二つの課題解決のために業務の大幅改善と支払い決済スピード化という側面でICT化を加速してきた。これからは、SNSでの情報発信や海外に向けた情報発信、顧客サービス向上のためのICT活用という次のステップに移行しようとしている。コロナ禍という逆境をバネに新しい旅行形態を提唱してきた穂高ビューホテルだからこそ出来る次の一手を期待したい。

企業概要

会社名穂高ビューホテル株式会社
住所長野県安曇野市穂高牧2200-3
HPhttps://www.hotaka-view.co.jp/
電話0263-83-6200
設立1989年
従業員数50人
事業内容会員制リゾートホテル「安曇野 穂高ビューホテル」の運営