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マツオカ建機株式会社(三重県川越町)は、「狭く深く貸す」という独自のビジネスモデルを武器に成長してきた建設機械レンタル会社だ。事業対象をコンビナートや半導体工場、電力施設、地元、など特定の建設現場に絞り、高所作業車から仮設事務所設置、とその備品に至るまで現場で必要なすべてをレンタルするから、顧客の信頼も厚い。創業80年を超える老舗企業でありながら、「挑戦と行動の文化」が根付く若々しい企業でもある。現代の企業にとって「ICTへの取り組みはマストだ」と語る松岡賢代表取締役社長は、経営のデジタル化に社員の幸福度向上と将来への成長を託す。(トップ写真:ハンディターミナルで出荷準備作業を行う整備士。デジタル化で作業時間は大幅に短縮された)
四日市コンビナートの工場建設現場への建機レンタルで事業を拡大
1938年、松岡賢代表取締役社長の祖父が三重県桑名市で創業した建設機器販売の個人商店が、1955年の株式会社設立を経て、1970年に建機レンタル事業に参入した。国内の建機レンタル業界の勃興期(ぼっこうき)といえる時代で、現在の業界大手企業もその頃に産声を上げている。
ポンプなどの機械修理で事業を始めたマツオカ建機株式会社は、発電機やコンプレッサーなどの産業機械をメインにレンタル事業をスタート。当時、ゼネコン(総合建設業)などの建設会社は、無駄を省く意味から建設現場で使う機械をレンタルに切り替え始め、建設業界向けレンタル需要は広がりを見せていた。
1972年に社名を「マツオカ建機株式会社」に改称し、事業の主体を建機レンタル事業に移し、建設業界でのレンタルの普及拡大に歩調を合わせて成長の道を歩む。「当時の四日市はコンビナートが発展途上にあり、中部電力の火力発電所建設も進んだ。こうした環境に合わせて、取り扱う機械を増やし、事業拡大につなげてきた」(松岡社長)という。
「すべての活動の原点は、社員を幸せにすることにある」の実践のため、失敗恐れず挑戦するボトムアップ経営の企業文化の醸成目指す
松岡社長の入社は1998年。祖父から社長を引き継いでいた父の急逝で、大阪でのサラリーマン生活に終止符を打ち、マツオカ建機に入った。母・美江子社長(現会長)のもとで営業部長、専務取締役を務め、社内改革に取り組んだ。「私が入社した時は、所帯は小さかったが昔ながらの会社だった。『ワンストライク・ワンアウト』と言っても過言でないほど失敗にシビアな社風だったため、事なかれ主義に陥っていた。この社風を変えるため、組織の階層を減らして風通しを良くし、挑戦を促す改革を進めた」と、松岡社長は振り返る。
社長に就任した2019年以降は、さらに大胆な改革に乗り出す。「トップダウン」から「ボトムアップ」への経営スタイルの変更だ。「コロナ禍というこれまで経験したことのない時代背景にあって、私と会長の考えだけで会社を成り立たせていけるのか」と自らに問いかけ、社是ともいえる「すべての活動の原点は、社員を幸せにすることにある」を実現するには、「やはり社員の声を集めて経営していく必要がある。規模の拡大はそのあとからついてくる」(松岡社長)と判断。トップが示した方針に対し、具体策を社員が考え、アイデアを出し、失敗を恐れずに挑戦できる企業文化の醸成を目指している。
コンビナートや半導体の工場、電力、地元に特化し「狭く深く貸す」。稼働率重視の業界でちょっと変わった建機レンタル会社
「ちょっと変わった建機レンタル会社」。松岡社長は自社のことをこう評する。「大手は大型ショベルカーなどを大量に保有し、広く浅く貸すコンビニ型に対し、当社はコンビナートや半導体の工場、電力、地元に特化したレンタルで狭く深く貸す専門店型。大型の建機は持たないが、工場建設現場の機械から仮設事務所設置、事務所の備品、足場設置、まですべてを自社で貸し出す。レンタルのご依頼を断ることもないし、特定のお客様のどんなニーズにも応える」
稼働率重視の業界では、特異な存在といえるが、日本を代表するコンビナートを有する四日市近郊で育ったマツオカ建機にとっては、必然の帰結だったのかも知れない。自社の価値を磨き、さらに高めるために、レンタル品を運搬する物流や、仮設事務所や足場などの仮設工事も、すべてを自社でまかなう体制を整えてきた。M&A(企業の合併・買収)にも積極的で、今では6社のグループ会社を抱える。2022年5月には純粋持ち株会社となるミライリスホールディングス株式会社を設立。グループ全体のパワーバランスのフラット化を狙い、事業持ち株会社とするグループ体制を改めた。
レンタル機械の出荷準備、デジタル化でペーパーレスと作業を効率化
マツオカ建機は、ICTの導入にも積極的だ。2022年5月連休明けの高度化した基幹システムへの切り替えを機に本格運用を始めた、レンタル機械の出荷準備・返却受け入れのデジタルシステムは、作業の大幅な効率化やペーパーレス化に大きな効果を発揮している。導入したのは、受注・出荷情報を画面に一括表示できる防塵防滴大型ディスプレイ6台と現場でサービススタッフが受注情報に基づいて出荷準備作業を行う際に使うハンディターミナル12台。
従来は四日市、川越、亀山など6ヶ所あるセンターからレンタル機械を出荷する際、出荷準備担当者は事務所に紙出力した出荷指示書を取りに行き、その指示書に基づいて機械を探し出し、出荷前整備などの出荷準備を行っていた。デジタルシステム移行後は、現場にあるハンディターミナルに受注内容や出荷指示情報が表示され、出荷準備作業時間が大幅に短縮できるようになった。
また、これまでは現場のホワイトボードに書き込まれていた出荷予定も、デジタルシステムではディスプレイに日付を入力すれば瞬時に受注から出荷、返却まで一気にわかる。現場で情報が共有できるため、間違いもなくなった。レンタル機械返却の際には、機械に貼付しているQRコードをハンディターミナルで読み取れば、同時に事務所で返却書類がプリントアウトされるため、顧客を待たせなくて済むようになった。
2人で最大30分の作業が1人で15分に短縮、将来はサービス機能強化へ
「まだ運用から半年できちっと数値化できていないが、明らかにペーパーレス化が進み、経費削減につながっている。手書きの間違いによるエラーもなくなった。作業効率が向上したことによってサービススタッフの所定内労働時間は8.5時間から7.5時間に短縮されており、今後はさらに効果が期待できる」と、岡村昭佳サービス部四日市・亀山センター長は満足気に評価する。現場の作業者の実感では「従来二人で最大30分かかっていたのがデジタルでは一人で、15分で済む」というから、正確に数値化した際の労働時間削減効果はもっと大きくなるのかも知れない。
岡村センター長は、「今は出荷準備にサービス部が対応しているが、デジタル化によって若手社員でもできるようになる。そうなれば、サービス部は本来の修理、メンテナンス業務の時間を増やせる」と期待する。建機メーカーの修理・メンテナンスの技術力が低下している中で、松岡社長が今後の成長の柱として期待する「メーカーのサービス代行など、当社の整備技術力を生かしたサービス機能強化」の実現につなげていく計画だ。
AIの活用も視野に、これからの企業経営でICT活用は必須。デジタル人材の育成に力を入れ、労働環境の改善と人手不足に対応する
AIの活用も視野に入っている。すでに先のオーダーに対して在庫状況や返却予定、機械の経過年数などを勘案してレンタルできる機械の在庫割り当てのAI化が近く運用を開始する予定だ。「オーダーに対する在庫割り当てでは、年1回の点検時期や経過年数、守られるとは限らない返却予定日など、複雑でさまざまな要素を勘案する必要がある。今は人間が長い時間をかけてやっている作業をAIに置き換えれば瞬時に割り当てが可能になる」(松岡社長)という。
直近の機械の調子判断など一部人間による判断の必要性も残るが、仮設事務所や備品、足場を扱う専門センターのAIはすでに完成し、基幹システムとの連携を進めている。グループの物流会社のAI配車も2024年1月にも本格運用する見込みだ。
「今の企業経営でICT化はマスト。ICTに取り組まなければ、死を待つのみだと思う」と、松岡社長は強調する。「デジタルリテラシーを持っていない社員は不幸せ」として、社内でデジタル勉強会を開くなど、デジタル人材の育成にも余念がない。デジタル化による働き方改革や業務の効率化によって労働環境を改善し、深刻化する人手不足にも対応する体制を整え、グループ全体の「社員の幸せと豊かな生活の実現」という企業価値の向上を目指す。
企業概要
会社名 | マツオカ建機株式会社 |
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住所 | 三重県三重郡川越町当新田17番地 |
HP | https://www.matsuokakenki.co.jp/ |
電話 | 059-365-8271 |
設立 | 1958年7月 |
従業員数 | 227人 |
事業内容 | 建設機械、軽機械、ハウス、トイレ、備品などのレンタルリースおよび販売、工事施工 |