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香川県高松市に本社を置く有限会社わかまつ食品は、白飯や寿司飯などの業務用炊飯米に特化した食品製造・販売会社だ。「シャリ工房」のブランド名で数百種類の商品を扱い、香川県内を中心とするスーパー、居酒屋、うどん店、回転寿司店など幅広い取引先に出荷している。「炊飯」への徹底したこだわりを背景に、機械と人間の手をバランスよく組み合わせた調理技術を確立している。バックオフィス業務でICTやデジタル機器の活用を進める一方、取引先の慣習に合わせたアナログ式の仕事の進め方も大事にしている。(TOP写真:多彩な炊飯商品を展開しているわかまつ食品の生産現場)
工場は365日稼働、出来立ての炊飯商品を昼夜2回に分けて出荷
1959年7月設立の有限会社わかまつ食品の本社兼工場は、香川県高松市内の郊外にある。2階建ての本社兼工場の周辺には田んぼや住宅地が広がる。1日あたり1,500キロの炊飯が可能な自動炊飯設備を備えた工場を1階に、本社オフィスを2階に設けている。工場は365日稼働し、出来立ての炊飯商品を昼夜2回に分けて取引先に出荷している。
原料はすべて国産米 炊飯への強いこだわりと調理技術に強み
同社では白飯、寿司飯、いなり寿司、おむすび、握り寿司用のシャリ玉など米飯に関する様々な商品を製造・販売している。量や具材で様々なバリエーションを設け、総品目数は数百にのぼる。原材料はすべて国産米。まろやかな味を引き出す自社オリジナルの合わせ酢を使用しており、添加物は一切使用しない。炊き上がりの温度、ご飯の硬さ、酢の加減といった取引先からの細かい要望にも確実に対応する。炊飯に対するこれらのこだわりと調理技術は、わかまつ食品の最大の強みとなっている。
「中小企業ならではの小回りの良さを生かしてお客様の要望にきめ細かく対応することを心掛けています。これまで積み重ねてきた米の仕入れや炊飯についてのノウハウを大事にしながら、これからもしっかりとお客様に美味しいご飯を提供していきたいと思っています」。
創業家出身の若松大和代表取締役社長は、わかまつ食品の取り組みについてこのように話した。若松社長は現在39歳。幼い頃から事業に取り組む家族の姿を見て育ち、2005年にわかまつ食品に入社。専務などを経て2023年4月、満を持して社長に就任した。
約20年前に先を見据え炊飯の一点集中戦略に転換。価格競争から一歩距離を置き、評価の高い得意の炊飯に絞った
わかまつ食品は設立以来、仕出し弁当など幅広い食品加工を手掛けていたが、20年ほど前に取り扱う商品を炊飯一本に絞った。バブル崩壊後、日本経済は低迷し、あらゆる業界で従来のビジネスモデルが通用しなくなる中、わかまつ食品も岐路に立たされていた。当時主力商品だった仕出し弁当は原価が高いため利益率が低く、今後の更なる地域経済の縮小を考えると数量の大きな伸びも期待できなかった。そこで、日本人の主食であり、確実な需要が見込める「米飯」に絞った一点集中戦略に舵を切った。取引先から「わかまつ食品のご飯はおいしい」と高い評価を受けていたことも決断を後押しした。
「市場の拡大が見込めない状況下で従来のビジネスモデルにこだわれば、競合他社との価格競争に巻き込まれ、経営体力をいたずらに消耗するだけになると判断したんです。企業として大きな変化を迫られる痛みを伴う改革でしたが、思い切って得意分野の炊飯に専念することで道を切り拓くことができました」と若松茂行代表取締役会長は約20年前のターニングポイントを振り返った。追い込まれる前に決断し、強みを更に磨いて他社との差別化を図ったことが取引先の拡大にもつながったという。
取引先や商品ごとのデータを基に顧客に寄り添った販売戦略を組み立てる。顧客からの過去実績の問い合わせにも即返事できる体制
わかまつ食品は数百種類の品目を製造・販売し、取引先は法人を中心に1,000社を超える。受発注だけでなく商品の販売動向、入出金の流れを把握する上で欠かせない存在になっているのが、約20年前から導入している販売管理システムだ。取引先や商品などの項目ごとに検索機能を活用して、短時間で必要なデータを抽出することができる。事業領域を炊飯一本に絞った後、着実に商品点数と取引先の拡大を図る上で、販売管理システムを最大限活用したという。
「リアルタイムでどの取引先が、いつ、どのような商品をどれくらい購入したかが把握できるので、受注予測をしながら販売戦略を考えたり、売れ筋を考えながら商品開発をする上で非常に役立っています」と若松社長は話す。取引先から過去の実績などについて問い合わせがあった時も迅速に対応できるという。
スキャン機能を活用して過去の紙文書のデジタル化を進め、情報の蓄積と活用を進める
2023年7月にはオフィスに無線LANを導入するとともに、情報保護のためのセキュリティ機器をバージョンアップした。また、複合機のスキャン機能を活用して過去の紙文書のデジタル化も進めている。「二度手間を省いて業務を効率化する上でどのようなデジタル機器を活用すればいいか更なる検討をしていきたい」と若松社長。現状では受発注などのやり取りを電話やFAXで行っている取引先が多く、自社の従業員もデジタル機器の扱いに不慣れな高齢者が多い。そのため、アナログ式の仕事の進め方も大事にしながら、費用対効果を考えてICTやデジタル機器を導入するようにしたいという。
衛生管理体制の充実に注力 2020年にはHACCPを導入完了。日本食品衛生協会の「食の安心・安全・五つ星店」にも認定
わかまつ食品は衛生管理体制の充実に力を注いでいる。工場の出入り口に二重扉のエアシャワーシステムを設置し、生産現場の蛇口はタッチレスの自動水栓に切り替えている。また、設備の清掃、点検は専門業者に委託して厳重に行っている。
2020年5月に食品の安全を確保するための国際的な衛生管理手法、HACCP(ハサップ=Hazard Analysis Critical Control Point)の導入を完了。2021年3月には公益社団法人日本食品衛生協会から「食の安心・安全・五つ星店」として認定された。認定の取得は、従業員の健康管理、食品衛生講習会の受講、害虫などの駆除対策、食品衛生管理記録の実施、食品賠償責任保険の加入に取り組み、原材料の入荷から製造、出荷に至る各工程の継続的な管理を高いレベルで実施している企業であることの証明になる。以前からしっかりした衛生管理体制を敷いていたので、認定の審査は順調に進んだという。
「HACCPを導入したことで、従来から取り組んでいた衛生管理の流れを見える化できました。衛生管理に対する従業員の意識の更なる向上、事故の未然防止など様々な効果が生まれています」と若松社長はHACCP導入のメリットについて語った。「食の安心・安全・五つ星店」に認定されたことで従来の取引先からの評価が向上するだけでなく、社会的信用度の向上に伴う新たな取引先の開拓も期待できるという。
ICTやデジタル機器を活用して新たな挑戦に取り組む
企業としての新しい可能性を追求するための取引先の開拓や、新商品の開発に使う時間を生み出す上で、ICTやデジタル機器は必要不可欠なツールといえる。現在は用紙に手書きしている生産設備の洗浄や消毒、原材料の状態、温度管理などの記録もタブレット端末を使ったデジタル入力に切り替えることで、手間を省くだけでなくデータとしてより活用しやすくなるはずだ。
「会社が積み重ねてきたものを大事にしながら、新商品の開発や新規の取引先の開拓に取り組んでいきたい」と若松社長は先を見据える。ICTやデジタル機器がこれからの挑戦を支えてくれるに違いない。
企業概要
会社名 | 有限会社わかまつ食品 |
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本社 | 香川県高松市多肥下町1519-5 |
HP | https://sharikobo-wakamatsu.amebaownd.com |
電話 | 087-867-7672 |
設立 | 1959年7月 |
従業員数 | 30人 |
事業内容 | 業務用炊飯製造・販売 |