目次
- うちわ用の紙の販売から始まった販促品製造業への道。他社に先駆けて着目したポケットティッシュの生産、手貼りうちわの機械化と新たな需要を創造
- 社内外ともにFAXでのやり取りが普通だった時代。注文後の変更が多く、FAX用紙は真っ黒。オフコンを導入したが活用できない
- 30年以上かけて構築してきた販促品製造業ならではのDX。現場の声を聞きながら数年前、ようやく満足できるレベルへ
- 多品種で複数ロットの販促物の変更もすぐ反映して次工程へスムーズに流れる。この成果をもとに経産省の「DX認定事業者」へ申請
- DX推進は、最終的に顧客満足が得られること。VPNの採用で出先から商品状況が把握でき顧客対応が即可能になった
- 経営戦略4つの柱、中でも特筆したいSDGsの推進。エコキッチンペーパーは、香川県のリサイクル認定を獲得。
- SDGsの浸透はトップダウンではだめ。プロジェクトリーダーが主体になって社内の啓蒙活動が重要。一つひとつ見える化して意識改革中
- 用途に応じて様々なアプリケーションが選択できる今、中小企業もアプリケーションを積極的に活用すべき
営業担当が手書きで訂正した手配書がFAXで本社に送られ、それをもとに資材調達や発注が行われ、製造現場へも同じ手配書が回る。途中で変更が出るとその度に手配書は修正され、真っ黒になってFAXで送られてくる。そんな現場で混乱が起きないわけがない。(TOP写真:ウチダが企画し普及した販促商品)
うちわ用の紙の販売から始まった販促品製造業への道。他社に先駆けて着目したポケットティッシュの生産、手貼りうちわの機械化と新たな需要を創造
創業者である先代の内田清会長は元々役所勤めをしていたそうだ。1952年当時、まだ酒が配給制の時代に、先代は仕事で老舗の飲食店を訪れていた。そこで出会った製紙メーカーの社長と懇意になったのがきっかけで、うちわに使う紙の販売を始めた。当時丸亀市はうちわの産地で生産も活発。その生産者への用紙の供給を一手に引き受けた、たった二人の会社は一気に業績を伸ばし急成長していった。
ちょうどその頃、ボックスティッシュが日本にも入ってくるようになり需要も拡大。そこに着目した先代は、ポケットに入れて持ち運べるティッシュを開発し、販促品として販売することを決めた。今や先代が他社に先駆けて着目した「ポケットティッシュ」は、誰もが知る生活必需品としてカバンやポケットに入れて持ち歩く存在になっている。
商社と大手百貨店を通じて全国の銀行に販売網を広げていったポケットティッシュも大きな売上をもたらすようになったため、先代は丸亀特産のうちわも販促品にできないかと思いたち、早速行動に移した。しかしその頃のうちわは職人の手貼りの時代でせっかく受注しても生産が追いつかなくなった。これでは納品先に迷惑がかかってしまうということで、当初は全国で機械を探したが、他社にも例がなく独自に機械を開発した。
ポケットティッシュの時もそうだったが、うちわ生産の機械化も前例のない初めての取り組みだったため、相当な苦労があったという。今ではプラスチック製のうちわが販促品の主流だが、株式会社ウチダでは現在も竹製うちわを機械で生産しているという。
ウチダは様々な販促物を製造販売しているメーカーであり、ウエットティッシュやキッチンペーパー、カイロや入浴剤など取り扱うアイテムも数多くあるが、中でもコロナ禍で品薄になったマスクは高品質のサージカルマスクとしてウエットティシュは厳格な品質管理のもと生産を継続している。
社内外ともにFAXでのやり取りが普通だった時代。注文後の変更が多く、FAX用紙は真っ黒。オフコンを導入したが活用できない
1978年には早くも東京に営業所を開設したウチダだったが、当時はまだFAX全盛の時代。営業担当が商談でまとめた受注内容を手配書という形で本社に伝えるのに、全てFAXを使っていた。この手配書が一度で済めば問題は起こらないのだが、販促物の受注では受注個数の増減や仕様変更などは日常茶飯事。その度に営業担当は最初の手配書を赤で修正しFAXを再送信し直す。しかし受け取る側の修正内容は黒一色のため、修正の回数が増える度にFAX用紙は真っ黒で読めないものになっていった。受け取った担当はその都度コピーして資材の発注担当や製造、梱包発送の部門に渡していく。ほぼ手作業にも近いこれらの流れの中で、連絡漏れや混乱が発生しないわけがない。
さらに納期は、手配書の到着順で行われるものばかりではない。得意先が計画したキャンペーンやイベントなど、通常ルートとは異なる受注が入ることもしばしばで、その度に受注内容や納期がイレギュラーな手配書が順番を無視して差し込まれる。
この混沌とも言える状況を脱却するためにオフィスコンピュータが導入され設備だけは整えられていったのだが、使われていたのは最後の納品請求書のアウトプットだけという始末。社内にはコンピューターが入ったという認識があるだけで、その機能のほとんどが活用で出来なかった。受注も売上も順調に伸びたが、製作する販促物は頻繁に仕様変更が発生。その変更に対応する体制が追い付かず現場はいつも大変だった。
30年以上かけて構築してきた販促品製造業ならではのDX。現場の声を聞きながら数年前、ようやく満足できるレベルへ
そこで現代表取締役の内田浩二社長は、社内の受発注から生産管理まで一気通貫で処理できるシステムを作ろうと、30年以上前に大手システム開発会社各社に相談。しかしどの会社もロット数や内容量、印刷の種類や納期もバラバラな販促品のフローをシステム化するのは不可能との回答しか出してこなかった。
当時のシステム開発会社では対応できないことを知った内田社長は、外部から人材を確保するしかないと、様々なつてを使い、現システム管理責任者の橋本淳氏を採用。それから5年間、現場という現場を徹底的に調査するという方法で詳細なシステム構築の手がかりを洗い出していった。
30年余りも前といえば大手企業以外、DX化そのものに対する認識も乏しかった時期。そんな時期から販促物製造の入口から出口までを一気通貫でシステム化しようとした社長の熱意には感服するしかない。「何に困っているか、どういったシステムだったらいいかなど、現場の声や状況を聞き、少しずつシステムを作っては修正しての繰り返し。やっと数年前に今のバージョンが出来上がったんです。その間、「本当に効率が上がっているかさっぱり分からんとよく会長にも叱られました。」と笑う内田社長。
多品種で複数ロットの販促物の変更もすぐ反映して次工程へスムーズに流れる。この成果をもとに経産省の「DX認定事業者」へ申請
真っ黒になるまで修正されたFAXが唯一の手配手段であったことなど嘘のように、今では社内外のどこからでも資材の手配から製造工程までをチェックすることができ、1ヶ所の入力や修正で全ての工程に反映されるというシステムが構築された。その結果、多品種で小ロットの販促物が予定通りに出荷・納品されていくという理想に近い形が実現できたという。
このシステムの完成を機に内田社長は経済産業省の「DX認定事業者」への申請を決意。そのほとんどが大手企業という認定事業者の一角に名を連ねるべく、コツコツと申請作業を開始した。しかし周りに申請作業を手ほどきしてくれる人材がいるわけでもなく、DXの専門家でも専門用語に長けているわけでもない社長にとって、この作業は困難を極めたという。申請書類の後半になるにつれて難しい用語が出てくるのには閉口したらしい。そんな苦労の甲斐もあり、内田社長を筆頭にシステム管理の橋本氏、営業、各工場、業務スタッフ全員の根気と努力が作り上げた独自のシステムは、2023年の経済産業省「DX認定事業者」に選定されるという形で実を結ぶこととなった。
DX推進は、最終的に顧客満足が得られること。VPNの採用で出先から商品状況が把握でき顧客対応が即可能になった
DX化の推進で最も重要なことは、最終的に顧客満足が得られるか否かだと内田社長は強調する。そのためには社内のどこからでも、あるいは東京事務所のようなテレワークが通常になっている出先からでも調達や製造の過程が見えることが重要だ。
ウチダではDX化推進の一助として、東京や関西の出先からでも担当する商品の状況が確認できるVPN(社外にいる社員も会社内のネットワークに安全に接続できる)を導入。受注した商品の進捗状況や修正手配が正常に動いているかなど、顧客からの問い合わせにも営業担当が迅速に対応できるよう、スマートフォンやノートパソコンと本社のシステムが直結する「見える化」を向上させた。
独自に作り上げたシステムとこのVPNルーターのおかげで無駄なプリントアウトや書類のやり取りも大幅に減少し、手配やチェック作業の全てがICT化されたという。
経営戦略4つの柱、中でも特筆したいSDGsの推進。エコキッチンペーパーは、香川県のリサイクル認定を獲得。
内田社長は地域を牽引する企業であるべく4つの取り組み(SDGs・DX・BCP・5S)を行っている。
1.自社の商品や企業内でのSDGsへの取り組みと同時に広く地域や社会への貢献ができる企業風土づくりへの取り組み(環境問題や安全な商品開発、人権、地域への貢献を目指す。又、CSR活動の一環として電気や燃料等のエネルギー使用量の削減やCO2排出量の削減を実施する。
2.一定の完成を見た業務のDX化をさらにバージョンアップさせるため新たなシステム構築に着手
3.災害や緊急時に事業の継続を可能にするBCP計画を2019年に策定し定期的に訓練・セミナ ーを実施している。
4.環境整備を行う事で安全(無事故)安心な職場環境を整え、経営理念である「明るく元気で気持ち良く働ける会社づくり」を目指す。
特にSDGsの取り組みにおいては、牛乳パック再生原紙を100%使用したエコキッチンペーパーを商品化した自社生産のノベルティで、香川県のリサイクル認定を取得。この実績をもとに様々な商品での環境対策を強化。さらには、本社や工場での自発的なSDGsへの取り組みを呼びかけ、各部署より選定されたプロジェクトリーダーを中心に整理整頓の日常化、ゴミの分別を行っている。今後は製造現場のDX化を行い製品ロス率の低下や廃棄物そのものの削減を具体的な数値で「見える化」すべく綿密な対策が講じられている。
SDGsの浸透はトップダウンではだめ。プロジェクトリーダーが主体になって社内の啓蒙活動が重要。一つひとつ見える化して意識改革中
「やっぱり上からやらされている状態ではダメですね。自発的に計画してどんどん実行していくうちに習慣化し、整理整頓などが目に見えるようになるともうみんな後戻りはしたくなくなるものです。だから敢えて私は方針のみしか出しません。各部署のキーマンが主体になって自発的に取り組むことがSDGsの推進には欠かせませんね」と内田社長。
本社工場の中を見せてもらうと、入口や湯沸かし室の壁にはゴミの分別や取り組みの具体策が貼られ、工場内部の分別用ボックスには仕分けられたロス材が収納されている。また横のパレットの上にはきれいに積まれた使用済みの段ボールが次の工程へ運ばれるのを待っていた。
工場の中はきれいに整理・整頓・清掃されている。この光景が日常になれば誰もゴミが散乱した昔の状態に戻りたいとは思わないだろう。ここまで社内のSDGs活動が具体的な成果を上げることができたのも、DX化に取り組んできた長く苦しい日々があったからに違いない。
用途に応じて様々なアプリケーションが選択できる今、中小企業もアプリケーションを積極的に活用すべき
ウチダは販促物の受注・製造というイレギュラーが発生する企業であったことと、30年前という時期での取り組みだったために独自のICT化を進めるしか方法がなかったのだが、ここ最近のアプリケーションは目を見張るほど進化している。内田社長も「今はほぼどんな体制の企業でも、自社に適したアプリケーションが選択できる時代になっていますから、これからDXに取り組もうという企業にとっては良い時代になりましたね」と目を細める。何十年もかけてどこにもないシステムを作り上げてきた企業が、顧客の要望に応えるために取り組んできた確かな自信は、何物にも代え難い実績となって次の時代に引き継がれていくのだと実感できた。
企業概要
会社名 | 株式会社ウチダ |
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本社 | 香川県丸亀市垂水町3001-2 |
電話 | 0877—28—7811 |
HP | https://www.uchida-co2.com/ |
設立 | 1957年5月1日 |
従業員数 | 73人 |
事業内容 | 販売促進用商品の製造・加工・販売 |