のれん償却を行うメリット

のれん償却を行う際の、主なメリットは以下の通りです。

のれん減損による大きな影響を回避できる

前述の通り、のれんの減損時には、減額した金額分を減損損失として計上するため、一度に多額の特別損失が発生します。のれんを規則的に償却することで、このような減損によって突如大きな損失が発生することを回避できます。

のれんの実態を反映できる

固定資産と同様に、企業のブランド力など、のれんの価値は永続的なものではありません。のれん償却を行うことで、のれんの実態を認識した上で経営を行うことができる点も、メリットとして挙げられます。

のれん償却を行うデメリット

のれん償却を行う際の、主なデメリットは以下の通りです。

のれん償却の分だけ利益が圧迫される

のれん償却は、最長20年にわたり行われます。したがって、その期間内は償却に相当する金額分だけ、毎期利益が減少することになります。

本来、のれん償却によって利益が圧迫されたとしても、M&Aによって新たな利益が生み出されれば、その分はプラスに作用するはずです。

しかし、M&Aの効果が現れる前に償却だけが進んでしまうと、数年間は企業の業績にインパクトを与え続ける可能性も考えられます。

実際のビジネス状況を正しく反映しきれない場合もある

のれん償却は、のれんの価値を規則的に減少させます。しかし現実には、企業の価値は変動的要素を多く含むため、実態は必ずしも均等に減少するわけではありません。

したがってのれん償却は、時には現実のビジネス状況を正確に反映しない場合がある点に留意が必要です。

のれん償却の仕訳

次に「日本会計基準」における、のれん償却の仕訳について見ていきます。

例えば、M&Aによって発生した「のれん100万円」を10年間で償却する場合、決算期には以下のような仕訳を行います。具体的には、毎期均等(正確には月割均等)で減らしていきます。

借方 金額 貸方
金額 摘要
のれん償却 100,000円 のれん
100,000円 のれん1,000,000円を
10年間の定額償却(1年目)

なお、上記の「のれん償却額」は損益計算書の「販売費及び一般管理費」として計上されるため、のれん償却額が増えるほど影響を受けるのが営業利益です。

営業利益とは、企業が本業で稼いだ利益であり、これがのれん償却によっては大幅に減少してしまうと、銀行や投資家から「本業が上手く行ってないのではないか?」と思われてしまう可能性があります。

そのためM&Aの規模が大きくなるほど、のれん償却を何年で行うか判断することが、その後の財務諸表や決算書に大きな影響を与えることになります。

なお、のれんの償却年数は前述の通り 最長20年以内と決められていますが、会社の恣意的判断を避ける必要があり、実務上は監査法人などと相談しながら決めるのが一般的です。

「国際会計基準(IFRS)」におけるのれん償却

国際会計基準(IFRS)とは、国際会計基準審議会が定める世界共通の会計基準です。

日本の企業は、日本の会計基準と国際会計基準(IFRS)、米国会計基準などを選択することが認められています。

国際会計基準(IFRS)では、のれん償却は見積もりが必要となり、恣意性が介入しやすいと考えられているため、日本会計基準のように、毎期決まってのれんの償却を行うことはありません。のれんの償却を行わない代わりに、毎期のれんの減損テストが行われます。

日本会計基準では、減損の兆候があった際に減損テストが行われるのに対し、国際会計基準では、減損の兆候があった時だけでなく、年に一度必ず減損テストが行われ、その都度のれんの帳簿価格とM&Aによる将来の投資回収額が比較されます。そして回収額の方が少なければ、その金額分だけ減損処理することになります。