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自動車メーカー大手の企業城下町としても知られる群馬県太田市。そこで61年前から続いている株式会社太田自動車教習所は、地元密着の経営で新規教習生の満足度を上げるため、2022年には教室を大幅にリニューアル。ネットワーク環境も整備してオンライン教習への体制も整備した。働きやすい環境づくりの実現と、一層のCS(顧客満足度)向上に取り組んでいる。(TOP写真:定休日には貸出サービスも行っている太田自動車教習所のコース)
1963年に営業開始。教習指導員は22人
株式会社太田自動車教習所は1962年に設立。翌1963年に群馬県公安委員会から承認を得て営業を始めた。普通車(マニュアル車、オートマチック車)から大型車、二輪車(普通、大型、二輪オートマチック限定解除)の免許取得を扱い、市内で唯一となる「大型一種(大型車)」の実施、また県内でも珍しい「自動二輪専用コース」の設置を行っている。2016年には創業者の孫である太刀川智也社長が4代目の代表者に就任した。
自動車教習所は学科研修と実地研修があり、公安委員会の認可を受ける必要があるためさまざまな規制がある。例えば、教習指導員になるためには、法規制に対する筆記試験と技能試験、それをパスすると指導方法に対する面接試験を受ける。これらを通過して国家資格である教習指導員を取得。さらに、資格取得者一人ひとりについて公安委員会に届出をして、承認を得て初めて教習所での指導が可能となる。これらの試験は「かなり難関」(澁澤尚史取締役所長)という。同社には現在、22人の指導員が勤めている。
道路交通法によって、教習所運営とコンプライアンス(法令順守)の代表者として全責任を持つ管理者を置く必要がある。自らも教習指導員の資格を持ち、管理者である澁澤所長は、教習所内に常駐しなければならず、指導業務はできないという。
新規入所者は季節によって変動。コロナ禍時には増加
澁澤所長によると、新規入所者数は年間で大きく変動する。年末から年度末、それに夏休み期間中が繁忙期だ。1~3月にかけては高校生、夏休みは大学生が増える。同社の場合、普通免許取得で通常だと月に40~50人、繁忙期は100人を超えることもある。その他の時期も年によって増減はあるが、その原因は「よくわからない」(澁澤所長)。大学生の場合、地元から離れた人は通学先近くの教習所に通うか、合宿免許を選ぶケースもあり、地元出身の高校生や大学生などが必ず地元の教習所に通うとは限らない。
こうした傾向が、コロナ禍には逆にプラスになったという。大学の授業がオンライン中心となったことで、太田市を離れていた学生も通学の必要がないため、地元に戻ってきた。その期間中に免許を取得しようとする人が増えたためだ。
CS向上のため、月2回の教習指導員向け教育実施、スマホによる送迎バスの予約サービスの実施
太田市内には3ヶ所の自動車教習所があるが、他社との差別化は難しいという。教習内容は道路交通法によって決められているためだ。免許取得機会が多い高校生への入所案内については、高校側から説明会の開催を求められるケースも多い。そこで料金体系や送迎などのサービス内容を説明するが、他社と大差はない。
そこで同社が重視するのが、CS(顧客満足度)の向上だ。同社は「親切・丁寧・優しい指導」をキャッチフレーズとしており、月に2回、教習指導員を対象とした教育では、教習生に対して積極的な声掛けをして、教習生が気持ちよく卒業できるよう指導する。一方で、自動車事故もあることから、優しさだけでなく、ドライバーとしての心構えも説いて、「無事故・無違反を願う」(澁澤所長)。
新規入所者数を増やすためには、卒業生に対してはがきを送って知り合いの紹介を依頼するほか、折り込み広告や駅の電子広告、さらにX(旧Twitter)、FacebookなどSNSによる情報発信にも積極的だ。特に、Facebookでは二輪車専用アカウントを開設するほか、スマートフォンによる送迎バス予約などのサービスも取り入れ、若者への情報発信や利便性向上を欠かさない。
コース貸出サービスも展開。外国人の入所者にも対応
他社との差別化としては、定休日に教習コースと教室の貸出も行っている。合宿免許を扱う場合は年中無休とする必要があるが、同社は合宿免許を扱わず毎週月曜日を定休日としていることから、可能となっているサービスだ。実際、二輪車の講習会や試乗会など定期的な需要がある。
一方、外国人が免許を取得する場合は、日本語でのヒアリングやコミュニケ―ションをテストした上で受け入れている。日本語での教習しかできないためだ。学科試験は漢字に振り仮名を付けた教則本も用意する。
教室は、個々のプライバシーと快適さを保つ空間にした。無線LANとセキュリティシステム導入でオンライン教習に対応
長い歴史を持つ同社だが、教習所内の設備が老朽化していたことから、2021年に大幅なリニューアルと設備更新に乗り出した。具体的には、未使用だった3階のフロアを50人以上の教習生に対応できる大教室に改装したほか、机や椅子も新調して、待合室も設けた。「若い人はパーソナルスペースを欲しがる」(澁澤所長)ためだ。同時に、2階の5つの教室も全て改装した。
教習所内の有線と無線通信設備も古くなり、接続状態が不安定だったため、無線LAN設備と情報セキュリティシステムを導入。全館でオンライン化を可能とした。これは、学科教習でオンライン化の流れが出ているためだ。
学科教習は26課程あるが、オンライン化のためには動画作成や教習生との双方向のやり取りも必要となるため、2024年には新たに教習用コンテンツを作成し、オンライン化を本格化する計画だ。もちろんオンラインならではの演出が必要で、教室ではできない臨場感も必要だ。ただ、入所者から対面教習の要請があればそれに応えなければならないため、「オンライン化は100%が目標」としているものの、実際は入所者の要望の動向を見極めながら進めるという。
セキュリティ面ではIDとパスワードによるアクセス方法を取り入れた。経理も担当する澁澤所長は「これで安心してネットワーク使用ができるようになった」と喜ぶ。
照明のLED化で光熱費削減。アルコールチェックシステムも導入
2022年2月に終了した今回のリニューアルでは、街灯や全照明のLED化や空調設備の更新も行い、燃料費や光熱費の削減にもつながった。「当初の想定よりコストアップした」が、それでもリニューアル後の資材価格などの高騰を考えると、タイミングは最良だったという。
リニューアル以外では、2022年の道交法改正により、5台以上の自動車保有事業者に同年12月から義務付けられたアルコールチェックシステムも、同年10月にクラウド上に自動的にデータを記録・保管するシステムをいち早く導入した。
「地元の方々が対象」。オンラインと対面指導のバランスを取る
警察庁の統計によると、全国の自動車教習所は2022年12月末時点で1,295ヶ所あるが、少子化などにより減少傾向だ。法規制などにより他社との差別化も難しいが、太田市は県内の他の市に比べて18歳未満の減少比率は低いという。それでも澁澤所長は「合宿免許は扱わず、あくまで地元の方々が対象」と言い切る。
中長期的にみればオンライン化による人件費などの固定費削減も可能だが、その一方で対面指導のための指導員資格取得者の育成なども継続しなければならない。これらの課題のバランスを取りながら、持続可能な企業運営を継続していく考えだ。
企業概要
会社名 | 株式会社太田自動車教習所 |
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住所 | 群馬県太田市由良町1193番地 |
HP | https://www.otads.co.jp |
電話 | 0276-31-6284 |
設立 | 1962年 |
従業員数 | 37人 |
事業内容 | 自動車教習所 |