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1877年(明治10年)創業で150年近い歴史を誇る岡山県岡山市の織機メーカー、株式会社浅越製作所が、設計、製造、営業などの各部署でICTとデジタル機器を活用し、会社を支える精密な製造技術とグローバル競争力を強化している。(TOP写真:世界で求められている浅越製作所の自動花筵織機)
販売先の98%が海外 世界に広がる「ASAGOE」の織機
株式会社浅越製作所は、販売先の98%を海外の企業が占める世界屈指の断片織機メーカーだ。電気などの動力で経糸(たていと)を切断する時の運転停止や緯糸(よこいと)の供給を行って織物を編み上げていく自動織機。その精密な製造技術で「ASAGOE」の社名は世界に轟いている。
数十年前から、非常に軽い上に加工しやすく耐熱性も備えたプラスチックの一種、ポリプロピレンに着目。ポリプロピレン製の「花筵(かえん)」と呼ばれる茣蓙(ござ)製造に適した自動織機の開発に力を入れ、他社の追随を許さない技術を確立している。創業からこれまでに取得した織機関連の特許件数は160件を超える。
「未来は諦めなかった人の夢で作られていく、と信じて努力してきたからこそ今があるのだと思います」
株式会社浅越製作所は2020年12月、合資会社浅越機械製作所から組織変更して現在の社名と体制になった。社名から機械の字を外した背景には、機械製造にこだわらず、新たな視点で様々な製品を世に送り出す企業として成長したいとの思いがあったという。
浅越製作所は「法律と制御を遵守し、世界中の人々の役に立つ製品を開発、供給し、お客様と従業員の末永い繁栄を目指す」を社是としている。企業としての新たなスタートを切って間もない2022年に6代目社長に就任した浅越啓介代表取締役は「未来は諦めなかった人の夢で作られていくと信じて努力してきたからこそ今があるのだと思います。これからもコア技術を大事にしながら、新しい可能性を探っていきたい」と力強く話した。
技術開発力とグローバル市場の開拓力に強み
浅越製作所の大きな強みとなっているのが、技術開発力とグローバル市場の開拓力だ。1877年、畳表の製造販売会社「浅越商店」として産声をあげた浅越製作所は、1930年に畳表の自動織機を開発し、ものづくり企業としての歴史をスタートした。1935年には現在の主力製品につながる自動製筵機の開発に成功。太平洋戦争の戦中、戦後の動乱期を生き抜き、高度経済成長期の1964年には、パンチカードを使ってあらかじめ設定したパターンどおりに織物を織るジャガード式の自動花筵織機を開発した。
ちょうどその時期、生活様式の欧米化の進展によって花筵の国内需要が激減したことを受け、事態を打開するために目を向けたのが海外市場だった。1967年から東南アジアへの販売を開始し、韓国、中東へ市場を拡大していった。2000年には電子ジャガード式全自動織込花筵織機を開発。同年からナイジェリアなどアフリカの企業への販売を開始している。浅越製作所の織機が生み出すクッション性が高い花筵は、アジアやアフリカの国々で生活必需品として多くの人に求められている。
全ての工程に自社のエンジニアが携わることで製品の完成度を高める
織機は各駆動部分が、正確かつ複雑に連動しながら織物を作り上げていく。織機の性能を左右するのが精度だ。使用する部品に少しでも歪みがあれば出来上がる織物の品質に影響する。浅越製作所では全ての工程に自社のエンジニアが携わることで、織機の完成度を高めている。使用する部品も自社で設計加工し、必要な際は加工機械も自社生産する。
「歴代のベテランエンジニアが技術を若手に継承し若手が更にその技術を進化させることで、世界で最高水準の技術を維持してきました。低価格の類似品が、世界の市場では出回っています。圧倒的な品質の差で勝負する以外に生き残りの道はないと思っています」と浅越社長は話す。
機械による製造と手作りをバランスよく組み合わせて精密な加工を行っている。特に駆動箇所の組み立ては非常に繊細な調整が必要となるため、ベテランのエンジニアでなければ務まらない。組立と同時に試運転を何度も繰り返した後に織機はようやく完成に至る。
30年以上前からCADを活用 直感的な操作で設計を効率化
織機は1台あたり1,800個から2,000個の部品で構成されている。正確な図面を効率的に作成するために30年以上前から2D-CADを導入し、2015年からは3D-CADを活用している。3D-CADは直感的な操作ができるので使いやすく、導入によって部品の干渉チェックや機構検証をごくわずかな時間で済ませられるようになった。「高精度の機械を製造する上で、3D-CADは大きな役割を果たしてくれています」と浅越社長。2D-CADの導入前に手作業で作成していた約1,000種類にのぼる紙の図面も、複合機でスキャンしてデジタル化しているという。部品の試作用に3Dプリンターも活用している。
クラウド型業務支援ソフトを事務所と製造現場の情報共有に活用
製造現場を支えるバックオフィスの分野でもICTを活用している。2021年7月からクラウド型業務支援ソフトを導入し、事務所と製造現場の連絡や加工の進捗状況、部品在庫の情報共有に活用している。
クラウド型業務支援ソフトは、組織ごとにカスタマイズした業務効率化アプリを作成できる機能を備えている。ソフトの導入以前、膨大な種類の部品それぞれの適正在庫量を管理するために必要な事務所と現場の情報共有は、入庫、出庫といった数字の変化がある度に紙の「在庫カード」を通じて行っていたが、記入漏れや情報を共有するまでのタイムラグなどが課題となっていた。
無駄な在庫や発注を削減して利益の最大化を図る
そこで、導入したクラウド型業務支援ソフトを活用し、現場のタブレット端末で入庫、出庫、棚卸しといったそれぞれの項目をタッチして数字を入力すれば、そのまま在庫管理システムに反映できるようにした。クラウド型業務支援ソフトのおかげで事務所の在庫管理担当者は、パソコンやタブレット端末から部品の在庫状況をリアルタイムで把握できるようになった。無駄な在庫や発注を削減して利益を最大化する上で大きな効果を発揮しているという。「クラウド型のサービスなので社外からでも必要な情報にアクセスできるようになったのもありがたいですね。社外に出ることが多い営業担当者は重宝しています」と浅越社長はうれしそうに話した。
メッセージアプリやWeb会議システムで世界の企業と商談
営業担当者はアジアやアフリカなど1ヶ月に1回のペースで世界を飛び回って顧客との交渉や現地での情報収集に取り組んでいる。営業担当者は英語、アラビア語、フランス語など様々な言語で各国の企業と応対している。海外の見本市に出展することも多い。営業担当者は、メッセージのやりとりやビデオ通話ができるアプリやWeb会議システムを海外とのコミュニケーションに活用している。
デジタル技術でベテランの技を若手に伝授したい
浅越製作所は2020年から経済産業省の健康経営優良法人の認定を受けている。浅越社長は働きやすい環境づくりと人材育成に力を入れる中、ベテランエンジニアの技をデジタル技術で若手に伝えていけるようにしたいと考えている。「仕事の属人化の解消はこれからの大きな課題になると考えています。新しい人材が入ってきた時に、効率的に仕事を覚えることができるように映像を活用したマニュアルの作成などを検討したい」と浅越社長。若い従業員には受け身になるのではなく、未知の分野を楽しんで開拓する精神を大事にしてもらいたいという。
ICTやデジタル機器でこれまで以上にブランドパワーの強化を図る
「顧客の視点に立った製品づくりをこれからも貫いていきます。世界シェアトップの座に甘んじることなく、これまで以上にブランドパワーを磨いていきたい。そのためにICTやデジタル機器の活用方法をこれからも探っていきたいと考えています」と意欲的に語る浅越社長。今後、国内向けの新しい製品開発も検討したいという。
それぞれの時代の先人たちが築いてきたパイオニア精神を受け継ぎながら、世界に目を向けて時代に合わせた製品開発を続けている浅越製作所。ICTやデジタル機器は新たな歴史を積み重ねていく上での大きな支えになるはずだ。
企業概要
会社名 | 株式会社浅越製作所 |
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住所 | 岡山県岡山市南区箕島950-1 |
HP | http://www.asagoe.co.jp/recruit/ |
電話 | 086-282-2008 |
設立 | 1939年7月(創業1877年) |
従業員数 | 35人 |
事業内容 | 織機、食品包装機、ポリプロピレン用エクストルーダの開発・製造・販売 |