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群馬県太田市に本社を置くサンテクノ株式会社は、さまざまな分野で使われる産業用モーターの修理・交換・設置を中心に、「工場設備の総合医」としてポンプの修理、電気設備工事、配管設備工事など、工場の運営に欠かせない幅広い分野の事業を展開している。事業を支えるのは数値化や標準化が難しく人の手に頼るしかない超アナログな熟練技術。その保全・継承に向けて、デジタルツールを活用した担い手作りに力を入れる。(TOP写真:サンテクノの基幹事業である産業用モーターの修理風景。技術の保全・継承には若い担い手育成が欠かせない。写真は群馬県太田市にある本社の工場)
産業用モーターの修理・整備をベースに事業を拡大
サンテクノ株式会社は、鈴木淳一代表取締役社長の父親が大手電機メーカーの電動機器の技術者から独立し、1989年4月に設立した三榮設備工機株式会社としてスタートした。当初は産業用モーターの修理・整備を手掛け、次第に事業領域を広げてきた。それを可能にしたのは、動力源であるモーターを介してのつながりにある。
モーターを修理できるならポンプも直してくれないか、さらにポンプで水を送る配管も、といった具合に取引先の求めに応じることで、モーターを中心に徐々に取扱品目、事業領域を広げてきた。事業拡大に伴い1997年3月に本社を現在地に移転すると同時に、社名をサンテクノに変更した。
最大の強みはメーカーを問わず扱う職人技の「巻替修理」
現在も基幹事業に据えるモーターの修理・整備は、極めてアナログな技術が求められる。モーターの故障は、コイルに異常な電流が流れて発熱し、銅線が焼け焦げるケースが多い。これを修理するには焦げた銅線をすべて除去し、新しいコイルを組み込んでモーター自体を復活させる「巻替」と呼ぶ手法を用いる。
ただ、産業用モーターと一言で言っても種類は千差万別でそれぞれ設計指標が異なるため、コイルのサイズや銅線の太さ、巻く回数も違う。実際、群馬県がお膝元の自動車メーカーを例に挙げると、巨大な完成車の組み立てラインを動かす大型の動力源もあれば、塗装ブースで塗料を吹き付ける小型のモーターなど、サンテクノが扱うモーターには様々なタイプがある。さらに、この作業はいわば職人気質の技術者個々がそれぞれ培ってきた経験に頼る部分が多い。半面、この巻替修理を手掛ける業者は減少する一方で、技術者の高齢化も進んでいるのが現状だ。
サンテクノはこの点、国産、外国産、メーカー、種類を問わず、この超アナログな技術である巻替修理に対応できることを最大の強みとしている。企画設計室の幸田啓介室長によれば、モーターの修理・再生でなくオーバーホールだけを扱う業者は多いものの巻替修理までできる業者は少なくなっており、「北関東に絞れば当社が一番大きな規模で手掛けているかもしれない」と話す。 このため、新規の修理案件には事欠かない。最近も遠く離れた青森県の事業者から「これまで修理を頼んできた業者が辞めたので、依頼先を探していた」と故障したモーターが送られてきて修理し、今後も継続しての取引を頼まれたほどだ。
特定顧客に依存しない事業基盤でリスクを分散
この技術面の強みはさらに事業基盤の強さにもつながっている。本拠を太田市とする土地柄と事業の特殊性から自動車メーカーに関係する取引は一次下請け、二次下請け、さらにその先の関係業者を含めて数多い。県内には家電メーカーの生産拠点もあり、さらに業種を問わず地元の小さな工場からの依頼もあり、「従業員40人弱の規模にしては顧客数がものすごく多い」(幸田氏)。この結果、特定の企業に仕事量を大きく依存することもなく「リスク分散が自然とできている」(同)ことが強みにもなっている。
いずれの企業にしても製造現場の動力の要を担うモーターのトラブルは事業継続の致命傷になりかねず、サンテクノのような特殊な技術を備えた業態の企業はなくてはならない存在となっている。
技術を守り、祖業の強化に舵を切る
一方で、大工場から零細な工場まで様々な現場から頼られる存在ゆえに、この技術を絶やしてはならないという苦労も抱える。特に技術者の高齢化が進む中ではなおさらだ。このため、祖業で基幹事業であるモーターの修理・交換・設置については現在、「技術の保全・継承」に力を注ぎ事業強化に取り組む、いわば〝原点回帰〟の方向に大きく舵を切っている。実際、次第に広がり続けてきた事業領域は一定程度絞り込む方向である半面、モーター事業については、本社の工場を作業量が増え続けている巻替修理に特化した拠点に位置づけた。
同社は現在、本社のほか2010年4月に同じ太田市内に設けた「第二工場」と、2014年8月に栃木県足利市に新設した「足利工場」の3拠点体制で事業を展開している。元々はすべての作業を本社で手掛けていたものの、事業領域の拡大によりモーターの修理・整備と異なる配管や溶接の作業を第二工場に移し、巻替修理を伴わないモーターのオーバーホールなどは足利工場が受け持つ体制を敷いている。
原点であるモーターの巻替修理に一段と注力するのは、巻替修理の技術が熟練の職人と同等レベルで若手に伝承できれば、同社にとってさらなる強みにつながると判断したからだ。確かに、この技術はコンピューター制御では対応できず、熟練者が目で見て手で触れて始めて修理できる。「モーター自体に革新的な技術変革が起きていない中、必要な技術として残ってきており、これを若い社員に伝え教え、確かな事業として継承していく」(幸田氏)。技術伝承については、他社では、映像から作業を分析する機能を持ったソフトウェアを導入し、熟練者の技術を若手に効率よく伝えるシステムを確立したケースもあり、今後のICT活用が期待される。
2018年に社内データを共有するサーバーの導入を実現
技術が超アナログであると同時に、社内には「技術者同士の横のつながりで情報を共有しながらお互いに技術力を高め合う、昔ながらの技術者集団のような風土が色濃く残っている」(同)。さらには技術者の高齢化も絡み、そこにはデジタルやICT(情報通信技術)を介して改善しようといった発想はない。そのため、現場のデジタル化はハードルが高い。それならば、現場を支える事務部門にデジタル化により力を発揮できる部分があると判断し、2018年にやっと社内データを共有するサーバーの導入に踏み切った。
ただ、そこに至るまでには社内風土の改革と併せて社員の意識改革が不可欠だった。何しろ、2010年当時はフロッピーディスク(FD)での情報管理だった。顧客個々のデータが入ったFDを社員間で貸し借りするような状況で、現場サイドからは「情報の一元化にカネをかけるようなら新しい検査機器を」といったような声も上がり、サーバー導入までの道のりは険しかった。この間、情報の書式や情報管理の統一化を提案するなどに徐々に取り組み、「ソフトランディングでようやく社内情報の一元管理にたどり着けた」(同)。
共有サーバーに過去の工事記録を入れ、全社員が活用することで効果的な営業活動が可能になった
共有サーバーの導入により、紙ベースで保管してきた過去の修理・整備や工事の記録・履歴などのデジタル化が進んだ。それまで、例えば工場の配管工事を請け負った際、熟練の技術者の記憶だけを頼りに過去の工事記録を探し出すといったような、極めて非効率的な作業が続けられてきた。それがデジタル化により、デジタルアーカイブに保存されたデータを全社員が検索できるようになり、過去のデータを活用して効果的な営業活動が可能になるなど、着実に導入効果を引き出している。
情報セキュリティ面にも対応
社内の情報一元化を進めてきた過程で情報セキュリティ面の課題も浮上した。モーターの巻替修理を本社の工場に特化し、それ以外のオーバーホールなどのモーターの修理は足利工場に移管することを決定した際に一番問題視したのは、離れた拠点間での情報共有に対する懸念だった。
これに対しては、2020年にVPN(仮想プライベートネットワーク)を導入することで、本社と足利工場の間で安全に情報共有できるようになった。さらに外部ネットワークとの入口にはUTM(統合型脅威管理)を設置してセキュリティを強化している。
業務のデジタル化について現在検討しているのは社員のスケジュール管理だ。現状は、社員一人ひとりの予定はその周辺の社員しか把握できていないことが多い。極端に言えば、今日は誰がどの工場の現場で工事を担当しているかを把握できる手段が少ない。今後、仕事を広げていくにあたっては正確な社員のスケジュール管理が必要になってくるため、早急にデジタルツールによるスケジュール管理を進める方針だ。
ICT化推進で業界標準を目指す
また、デジタル化を推進するには社員の意識改革が不可欠であり、半年ほど前に若手社員を中心に、業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)やICTをいかにして進められるかを話し合う「DX会議」を立ち上げた。当初の狙いは新しいソリューションの導入を主眼にしていたものの、実際にはそれにこだわらず、若手が自由な発想で自由に発言できる場として機能している。
幸田氏は「当社の業態はもとより、社員の意識的にもデジタル化がなかなか進まない部分があるのは歯がゆい」としながらも、「そこに甘んじることなく、この業界で当社がICT化のスタンダードを築き上げるといった気概を持ってICT化を進めたい」と意欲を見せる。既に始まりつつある画像解析技術等によって熟練技術の継承につなげられることを期待したい。
企業概要
会社名 | サンテクノ株式会社 |
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住所 | 群馬県太田市植木野町681-1 |
HP | https://www.santekuno.co.jp/ |
電話 | 0276-37-5553 |
設立 | 1989年4月 |
従業員数 | 38人 |
事業内容 | 産業用モーター、ポンプ類の修理・オーバーホール、電動機器、減変速機の修理、販売、電気工事、配管工事、ホイスト点検、制御盤、動力盤製作 |