10月1日、複雑に細分化した酒税を段階的に改定し、簡素な税体系を目指すとした2017年の酒税法改正にもとづく2回目の税率変更が実施された。ターゲットはビール系飲料だ。改定前→1回目の改定時(2020年)→今回改定後の350mlあたりの税額は、ビールが77円→70円→63.5円、“発泡酒” は46.99円そのまま、所謂 “第3のビール” は28円→37.8円→46.99円となった。2026年にはこれらはすべて54.25円に一本化される。つまり、ビールは減税、発泡酒と第3のビールは増税ということになる。
戦後、消費者にとってビールはまだまだ「ぜいたく品」であったが、高度経済成長に伴い市場は順調に拡大してゆく。一方、90年代、酒類販売免許の緩和が進む中、価格競争が激化、メーカーは麦芽使用率で定義されたビールの税率が適用されない新たな低価格ビール “発泡酒” を開発、消費者の支持を獲得する。すると当局は麦芽率の規定を変更し、発泡酒の税率を引き上げる。メーカーはこれに対抗、新区分をすり抜ける “第3のビール” を市場投入する。要するに両者のいたちごっこが繰り返されてきたわけであるが、今回の改定は税収を増やしたい当局と低価格競争を脱したい業界による言わば “手打ち” といったところだ。
酒税改定を受け、業界では「ビール回帰」の期待が高まる。小規模メーカーにとっても追い風だ。一方、生活防衛需要も大きい。税率が据え置かれた缶チューハイやレモンサワーなど “RTD市場※1”にとっても好機だ。とは言え、根本の問題は税率ではなく、市場の絶対的な縮小である。週に3日以上かつ1日に1合以上のお酒を飲む男性、つまり、業界の主要顧客である飲酒習慣がある男性の割合は、コロナ禍前の2019年調査で60代46.6%、50代41.4%、40代38.3%、30代24.4%、20代12.7%であったが、20年前(1999年)と比べるとそれぞれ▲8.6、▲22.9、▲22.3、▲24.4、▲21.3ポイントの減少だ(厚生労働省、国民健康・栄養調査より)。
とりわけ、Z世代にとって “ソーバーキュリアス※2” な生活スタイルはもはや完全に定着していると言え、したがって、あえて飲まない彼ら世代や非主要顧客層の需要をいかに喚起するかが業界にとって最大のテーマである。そう、発泡酒や第3のビールの可能性はここにある。当局との知恵比べと熾烈な価格競争の中で多様化してきたビール系飲料は糖質抑制をはじめとする健康訴求を付加価値として提案してきたはずだ。RTD市場の伸長も食事とのペアリング、低アルコール需要の拡大が背景にある。ビールがぜいたく品であった時代は過去のものだ。ノンアルコールも含め「本物か、模倣か」といった尺度を越えた次元に新たな市場創造の可能性がある。
※1)RTD市場:Ready To Drink、栓やふたを開けてそのまますぐに飲める飲料という意味。缶チューハイ、缶ハイボール、缶レモンサワーなど低アルコール飲料を指す業界用語
※2)ソーバーキュリアス(sober curious):お酒を飲めるが、あえて飲まない生活スタイルを指す造語。健康意識の高まりや自分の時間を大切にしたい若い世代の拡大が背景にある
今週の“ひらめき”視点 10.1 – 10.5
代表取締役社長 水越 孝