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社会福祉法人アムノスの会は長野県飯田市の風光明媚な高台で特別養護老人ホームなどを運営している。個室入居者9人を1単位とするユニットごとに特定のスタッフが介護を担当する「ユニットケア」を取り入れており、入居者一人ひとりの個性や生活リズムに合わせて、それぞれの自立を尊重しているのが特徴だ。介護記録の記入など何かと業務に追われがちな介護事業にあって、職員が少しでも入居者や利用者と接触する時間を確保していこうと、各種のICTを積極的に活用している。2022年10月には、カメラ連動の無線型ナースコールシステムを導入し、各居室を見守る機能を強化した。(TOP写真:リビングに設置したタブレットで18床の状態を一覧表に)
大手介護企業グループの一員。「住み慣れた環境で最後まで」の理想形を求めて設立
アムノスの会は飯田市で高齢者福祉事業を幅広く展開している株式会社たまゆらのグループ法人として2016年5月に設立され、翌2017年4月に「地域密着型特別養護老人ホームたまゆら」(定員29人)、同7月に同じ建物内に「ショートステイ(短期入所生活介護)特養たまゆら」(同9人)を相次いで開所している。
設立母体のたまゆらは、2003年にデイサービス(通所介護)から介護事業をスタートし、ショートステイや介護付き有料老人ホーム、グループホームなどへ手を広げてきた。創業者で現在はたまゆらの代表取締役会長とアムノスの会の理事長を務める松村紘一氏の「一人の利用者と住み慣れた土地で最後までお付き合いする」という介護事業の理想形を追求してきたためだ。ただ、特養は社会福祉法人にしか運営を認められないため、やむなくアムノスの会を設立した。そのため、実質的にはたまゆらグループの一施設として運営されており、周囲にはたまゆらの施設が点在。職員の待遇などもまったく同じで、施設間の情報交換や人事交流も活発に行われている。
社会的弱者や高齢者の助けになりたいという思いを法人名に込める
法人名にある「アムノス」というのはギリシャ語を語源とし、聖書では「子羊」のことを意味する。また聖書では民衆を「迷える子羊」と例え、「神の子羊」といえばイエス・キリストのことだ。敬虔(けいけん)なクリスチャンである松村理事長が教団の長老に法人名について相談したところ、4つの名称を候補に挙げてくれたので、その中から選んだそうだ。「人間は本来、小羊のように弱い動物であり、互いに助けあい、励ましあい、愛しあって生きなければなりません。とくに社会的に弱い立場の人々や高齢者の方々の助けになりたいという思いをこの名前に込めました」と話す。
「地域密着型」というのは、高齢者が住み慣れた土地で人間としての尊厳を保って生活できるように配慮するための仕組みで、入居者は地元の飯田市民に限られる。共同生活室(リビング)を中心に9つの個室を配して1ユニットとし、3人の職員が介護を担当する。アムノスの会の場合は、特養が3ユニット、ショートステイが1ユニットの合計4ユニットで運営している。
「コミュニケーションと生活リハビリ」が法人理念。そのために利用者と関わる以外は極力機械に担ってもらう
個室のため、入居者一人ひとりの個性や生活リズムに合わせた「個別ケア」を行うことができ、それぞれの自立を尊重した介護ができるのが特徴だ。法人理念は「コミュニケーションと生活リハビリ」。施設長の小林弘幸氏が説明する。
「コミュニケーションというのは、利用者様、入居者様との関わり方を示していまして、単に会話をするだけではなく、常にその人の状態をよく見ていて、いつもと違ったことがあれば、その変化に早く気付くように心がけるということを職員が共有しています。そうすることによって、今と同じ状態で長く生活していただけるように努めています」。自立した生活を支援する「生活リハビリ」では、理学療法士と作業療法士が毎日の機能訓練の中で、手足の運動をはじめ体幹の運動や転倒防止のためのバランス運動などを指導している。
ただ、介護保険法に基づく介護報酬を主な収入源とする介護サービス事業は、常に公的データの提出を求められるため、職員が介護以外の仕事に追われがちだ。「この業界は書かなければいけない記録や書類が多すぎて、本来、私たちが支援しなければいけない入居者様や利用者様に対するアプローチがおろそかになったり、人手も不足しがちです。だから、できるだけ機械でできる部分は機械に担ってもらい、その分、私たちは利用者様と関わる時間を作れるようにしたい」と小林施設長は強調する。
38床のうちまず18床に無線型ナースコールを導入。カメラとマットセンサーを連動
ナースコールシステムを有線型から無線型に代替したのもその一環だ。現在、個室は特養に29床、ショートステイに9床の合計38床あるが、このうち18床に無線型ナースコールに加え、新たにカメラも設置した。ナースコールには従来から使っていたマットセンサーを連動させた。
当面、18床を先行させたのは、職員の間から、寝たきりなど活動量が極端に少ない入居者には不要ではないかとの声が出たためだという。「今後、使い勝手に慣れてきて、効果が大きいとなれば、全床に導入しようということになるかもしれません」と小林施設長は話す。
18床のベッドに取り付けられた無線型ナースコールシステムは、職員が持つ8台のスマートフォンと4台のタブレットに連携。入居者がナースコールで職員を呼び出せるのはもちろん、職員のスマートフォンから居室へ声掛けすることもできる。入居者がベッドから降りてマットセンサーを踏んでもコール音が鳴り、スマートフォンやタブレットに居室の映像が送られる。介護記録システムとも連携しており、必要に応じてスマートフォンから手入力で記録を残すことができる。また、タブレットからはナースコールが鳴らなくても、カメラの映像を常時確認できる。このため、各居室の定時確認はナースセンターのパソコンではなく、もっぱらタブレットを活用しているという。
同時に2つの部屋のコール音が鳴っても、どちらを優先するかは映像で判断できる
従来の有線型ナースコールとの違いについて、小林施設長はこう話す。「一番の違いは、映像によって居室の様子を確認できることですね。従来はマットセンサーが鳴っても、どうして鳴ったのかは居室に行かなければわかりませんでした。今は実際に居室に行く必要があるかどうかひと目でわかるし、同時に2つの居室のコール音が鳴った場合でも、どちらを優先すればいいかは映像でわかります」。
一方、介護記録・介護報酬請求システムは親会社のたまゆらのシステムと同じものを使っている。たまゆらは事業所が11もあるので、国民健康保険団体連合会(国保連)の電子請求受付システムに直接、CSVファイルで一括して送っているが、アムノスの会は特養とショートステイの2事業だけなので、請求データを紙にプリントアウトして郵送している。
本来の介護の時間を取り戻すだけでなく、働き方改革にもつながる
アムノスの会を含めたたまゆらグループは、早くから施設内に託児所を設置し、短時間勤務正社員制度を導入するなど、女性が仕事と家庭を両立させやすい環境を作ることに熱心に取り組んできており、厚生労働省の「くるみんマーク」認定も受けている。また現在、2024年3月末までに①男性社員の育児休業の取得を促進する②管理職(施設長)に占める女性割合を50%以上とする③従業員の心のケア・メンタルヘルスに対する取り組みを行い、職場のハラスメント防止に努める--の3つを柱とする「行動計画」を推進中だ。
無線型ナースコールの導入などICT化の推進は、アムノスの職員が他の用事を極力省力化し、入居者や利用者と接触する時間を増やすだけでなく、たまゆらグループが創業以来、営々と続けてきた職員の働き方改革にもつながっているといえそうだ。
2007年にたまゆらに入社し、デイサービス(通所介護)を手始めに介護事業に携わってきたという小林施設長は現在の仕事のやりがいについて、こう語った。「一番は入居者様、利用者様との関わりですね。それぞれの方の人生というか、生活の中で、楽しいなと思えるひとときを提供できるようにしたい。そこが私たちの仕事の大前提であり、根幹にある部分だと思います」。
企業概要
法人名 | 社会福祉法人アムノスの会 |
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所在地 | 長野県飯田市北方3354-1 |
HP | https://nagano-tamayura.com |
電話 | 0265-25-3590 |
設立 | 2016年5月 |
従業員数 | 28人 |
事業内容 | 地域密着型老人福祉施設入所者生活介護事業、短期入所者生活介護事業 |