東北・岩手の地で、世界のブランド楽器を提供。顧客に寄り添い、デジタルで業務&コミュニケーション支援 音楽の森ヴァース(岩手県)

目次

  1. MRから転じて、一人ひとりのニーズに応える世界のブランド楽器を提供したい!従来の概念を打ち破る楽器店を開業
  2. 北東北の愛好家からは圧倒的な支持 アーティストとの交流イベントも開催
  3. 理想の店づくりは定着した半面、業務効率には大きな課題
  4. 伝票管理業務の改善に請求管理クラウドサービスを導入
  5. マルチタスク社員にとって請求書クラウドサービスは救世主だった
  6. FAX文書の仕分け業務もクラウドシステムで解決。LINEで問い合わせの共有化!機動的な業務環境を実現
  7. ICTを活用した顧客との新たな接点づくりも検討
中小企業応援サイト 編集部
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音楽の森ヴァース株式会社は、管楽器を主体に世界のブランド楽器を取り扱う楽器店を岩手県奥州市で運営している。最大の特徴は東北の岩手に立地する地理的ハンディキャップを抱えつつも、東京に出向くことなく世界の名器を手に取り試奏できる点にあり、北東北の愛好家に寄り添うブランド楽器専門店として圧倒的な存在感を示している。リアル店舗としての強みを最大限生かしながら、時代に即しICT(情報通信技術)を活用した顧客との新たな接点作りも模索しようとしている。(TOP写真:管楽器を中心に世界のブランド楽器を取り揃える岩手県奥州市内の音楽の森ヴァースの店内)

MRから転じて、一人ひとりのニーズに応える世界のブランド楽器を提供したい!従来の概念を打ち破る楽器店を開業

東北・岩手の地で、世界のブランド楽器を提供。顧客に寄り添い、デジタルで業務&コミュニケーション支援 音楽の森ヴァース(岩手県)
音楽の森ヴァースの店舗

音楽の森ヴァース株式会社は1995年4月、創業者である菅原道久代表取締役が現在地にブランド楽器専門店を開店した。それ以前、菅原代表は外資系製薬会社に勤務しており、現在店舗を構える奥州市周辺の医療機関を担当するMR(医療情報提供者)として製薬会社の営業に携わってきた。

菅原代表はMRの仕事とは別に、フルート奏者であると同時に楽器コレクターとしての顔も持っていた。趣味が高じ、楽器店を創業するきっかけとなった面はある。しかし、それ以上に菅原代表を創業に突き動かしたのは、消費者として楽器業界に抱いていた課題にあった。楽器は高額商品であり、数多くの楽器の中から自分に合った1台に出会いたいというのが購入者の切なる願いである。しかし、顧客の要求を満たすような様々な種類を取り揃えている楽器店は身近にはない。東京のお茶の水や新大久保といった楽器のメッカとは違い、地方においてはなおさらだ。

そこで、菅原代表は今までの楽器店の概念を変え、東北の地、岩手にいながらでも世界のブランド楽器と出会える楽器店の開業に踏み切った。楽器店を営むという点では国内の大手楽器メーカーの特約店となる選択肢もあった。しかし、特約店契約を結ぶと一つのブランドしか店舗には並べられないため、その道を選ばなかった。経営的には不効率でもあえて特定ブランドに絞らず世界のブランド楽器を取り扱う道を選んだ理由には、「東京しかないような楽器がここでも吹ける」「岩手、奥州から何か世界に発信できるようなものを作りたい」というこだわりがあった。

北東北の愛好家からは圧倒的な支持 アーティストとの交流イベントも開催

東北・岩手の地で、世界のブランド楽器を提供。顧客に寄り添い、デジタルで業務&コミュニケーション支援 音楽の森ヴァース(岩手県)
店内には有名アーティストとの交流イベントが催されるステージが設けられている

開店から四半世紀を超え、音楽の森ヴァースは店舗を構える岩手県はもとより、青森県、秋田県を含む北東北で唯一、約200以上の楽器ブランドを取り扱う楽器店として圧倒的な存在感を示し、愛好家からの高い支持を得るまでに至っている。

それを支えてきたのは顧客と寄り添う姿勢にある。それは、音楽の森ヴァースがセールスポイントに掲げる①世界中のブランド楽器の取り扱い、②年間約1500台を超える楽器修理実績、③世界的演奏家との交流イベントの開催、の3つの魅力からもうかがえる。

開店からここまで顧客からの支持を獲得できてきたのは、SNSが全盛となっている昨今と違い口コミによる来店が多かったことが大きい。さらに、定期的にトッププレーヤーを招いたイベントを開催し続けたことも顧客を引き寄せることに効果的だった。典型的な事例は東北最大級の管楽器イベント「東北管楽器フェスタ」の開催だ。コロナ禍で中止していたが2022年に3年ぶりに再開し、大会場を借りて800以上の楽器を展示、2日間で約700人が参加した。コロナ禍で停滞していた管楽器の分野を何とか盛り上げようという目的で、岩手にいながら管楽器を演奏する楽しみ、管楽器に触れ合える機会を設けようと企画した。このほか、奥州市の店舗においては、当初年間5回以上を計画していた有名アーティストとの交流イベントを、最近では毎月開催するようになっている。

理想の店づくりは定着した半面、業務効率には大きな課題

菅原代表が開店当初に描いた「従来の楽器店の概念を打ち破った店づくり」という目的は軌道に乗ってきている。しかし、業務を遂行していく上での課題は多い。それを実感したのは菅原代表の長男である菅原裕音副社長だ。

東京での会社勤めを経て2019年4月に就任してすぐ、業務効率の悪さを痛感した。そのきっかけとなったのは、メーカーの異なる2台の複合機を使っていて、それぞれつながっているパソコンが異なっていたことだった。そのため、1台の複合機が故障すればもう一台で代用が出来ないので業務に支障をきたしていた。そこで最初に取り組んだのは、社内の回線の無線化と業務に使っているソフトを統合して一括管理に取り組む作業だった。当時は複合機以外でも量販店で購入したパソコン管理なしで使うなど「管理、セキュリティの面にもすごく不安を感じた」と菅原副社長は振り返る。

伝票管理業務の改善に請求管理クラウドサービスを導入

東北・岩手の地で、世界のブランド楽器を提供。顧客に寄り添い、デジタルで業務&コミュニケーション支援 音楽の森ヴァース(岩手県)
業務管理の改善に向けて最初に伝票業務の改革に踏み切ったと話す音楽の森ヴァースの菅原裕音副社長

菅原副社長が業務管理で一番の課題と位置付けたのは伝票関係の業務だった。何しろ、当時は請求書関係から領収書、勘定台帳まですべてが手書きという「業務の効率化には大変困難な時期」に直面しており、社内ツールを一括管理していかないといけないとの判断に行き着いた。

このため、2022年3月には見積書・請求書などの帳票に関わるすべてのデータをWeb上で連動させ、各種帳票・数字の一元管理を可能にする請求管理クラウドサービスを導入した。「インボイス(適格請求書)制度や電子帳簿保存法改正など今後、伝票関係の管理にいろいろと制約が増えていく中で、我々は素人なのでこれまでのように手書きでその都度対応していくのは困難であり、システムの導入に踏み切った」という。

マルチタスク社員にとって請求書クラウドサービスは救世主だった

音楽の森ヴァースの場合、請求書だけで年間1,000通近くを出しており、これを「すべて手書きで処理してきたと考えるとぞっとする」と菅原副社長は話す。ただ、請求管理クラウドサービスの導入が経理担当の業務効率化に寄与しただけではない。音楽の森ヴァースは代表取締役、副社長を含めて6人という少人数で運営している。休日は来店者への対応となるものの、平日は外回りで県内の学校の吹奏楽部などに出向き楽器の修理などに当たっている。

社員は本業をこなしながら経理などの他の業務も手掛けるマルチタスクが普通であり、経理業務をしながらフルートを修理したり店内で接客するのは当たり前で、修理に当たるリペアマンは営業や発注の業務にも携わる。このため、各種帳票・数字を一元管理できる請求管理クラウドサービスの導入は全社的な業務効率化に「大きく役立っている」(菅原副社長)。何しろ営業エリアは四国4県がすっぽり入る広い面積の岩手県全域のほか県外にもあり、外回りの移動距離を考えれば、モバイル端末で確認、作業できる請求管理クラウドサービスの導入は、少人数で運営する音楽の森にとって大きなメリットとなっている。

FAX文書の仕分け業務もクラウドシステムで解決。LINEで問い合わせの共有化!機動的な業務環境を実現

楽器業界に色濃く残る紙ベースでの取引も業務改善の課題として頭を悩ませてきた。例えば、メーカーからの見積のほか、音楽の森ヴァースからの発注とその納期についての返信、それらすべてがFAXでのやり取りという慣習が定着してきたからだ。ただ、FAXで送られてきた書類を紛失してしまうリスクは大きく、効率的に管理する方法が難しかった。

半年前に、FAX文書を複合機で受信し、自動で送信元ごとにクラウド上のフォルダーへ電子化・仕分けするシステムを導入した。担当者へは自動でメール通知し、いつでもどこでもモバイル端末で閲覧でき、FAX文書の仕分け作業の手間や文書閲覧の場所・時間の制約を解消。例えば、従来は社員個々に作った見積をUSBメモリを差し込んで行っていた作業を、クラウド上に保管することで社内で共有できるようになり、こんなデータが欲しいといった時、すぐ手に入るようになった。

また、顧客とのやり取りについても社内での情報の共有化に取り組んできた。従来は社員個々と顧客とのやり取りにとどまってきたものを、2年前にLINEの公式アカウントを取得し、そこで顧客からの注文や相談、問い合わせに全員が対応できるようになった。社員全員の見える化を実現することで、いつでもどこでも自由に情報を取り出せる機動的な業務環境を実現した。

ICTを活用した顧客との新たな接点づくりも検討

東北・岩手の地で、世界のブランド楽器を提供。顧客に寄り添い、デジタルで業務&コミュニケーション支援 音楽の森ヴァース(岩手県)
音楽の森ヴァースの店内にはサクソフォンをはじめ様々な楽器が並ぶ

今後のICTの活用について、菅原副社長は「お客様自体が簡単に問い合わせできる仕組みがほしい」と語り、LINEの公式アカウントとは別に、「自社のホームページの問い合わせフォームを活用して、お客様とのコミュニケーションが良くとれる方法を検討したい」と話す。

具体的には「問い合わせフォームを細分化し、リペアや楽器購入、試奏の相談のほか、遠方の顧客が来店しなくても修理を依頼できるような仕組みも考えてみたい」とし、ICTを活用した顧客との新たな接点作りを模索する。

音楽の森ヴァースにとって、ICTの活用は少人数ならではの業務改善と、顧客との円滑なコミュニケーションを図るという両面で取り組んできた。菅原副社長は「音楽の森ヴァースは今後も楽器を扱い、生の演奏といったリアルな場面を重視する店舗として存在することが重要。ただし、日常的には遠くにいるお客様とのコミュニケーションや対応の面でネットやICTをフルに生かしていきたい」と話す。また将来を見据え、異業種との交流などを含めた新たな展開もスタートしている。

企業概要

企業名音楽の森ヴァース株式会社
住所岩手県奥州市胆沢小山字尼沼21-26
HPhttps://www.verse.co.jp/
電話0197-22-6350
開店1995年4月
従業員数6人
事業内容管楽器主体のブランド楽器専門店の運営