ピザも提供する特別養護老人ホーム八甲荘の小笠原施設長(前列左)と日清医療食品の和田紗優さん(前列右)
(画像=ピザも提供する特別養護老人ホーム八甲荘の小笠原施設長(前列左)と日清医療食品の和田紗優さん(前列右))

食材高騰が社会問題になる中、介護施設でも食材費の値上げが続いている。施設では、値上げした価格では従来の献立提供が難しく、また施設利用者に値上げを依頼することもままならないため、献立の副菜を1つ減らすことや栄養価を下げざるをえないなどの事態に迫られているようだ。

都内の介護施設の管理栄養士に食材費高騰について話を聞くと、「高齢者の場合、一般の食品だけでなく、飲み込みやすい食品や栄養を付加した食品など特別な食品も多く購入しているため特に厳しい」と危機感を示した。同じ献立でも1食約40円上昇している場合もあるという。現行の対策を尋ねると、「食材を安価なものへ変更すること、食材管理により無駄をなくすことくらい」と苦渋をにじませた。

都内で病院・介護施設等に食材を届ける食品卸に話を聞くと、「メーカーの値上げが続いており、ほとんどの介護施設では値上げをせずにはいられない状況になっている」と現状を語る。「施設では、決まった料金で食事を作っているため、価格の安い食材を探したい気持ちもわかるが、安かろう、悪かろうになって、栄養価が下がるなど品質や安全性の低下につながりかねない。病院・介護施設の食事は治療や健康維持の意味合いもある。安易な判断は避けてほしい」と食材変更にかかる問題を危惧した。

そもそも、介護施設が施設利用者からもらえる介護保険での基本食事サービス費は2021年時点で3食1,445円と定められており、25年前の1,380円からほとんど変わっていない。そのため、食材が高騰すればするほど、施設からの持ち出しが増えることが避けられず、全国の介護施設が疲弊している。

そうした状況に対し、「施設にとって食事は重要な要素である。利用者様がとっても楽しみにしている食事は削る部分ではない」と語るのが、青森県にある社会福祉法人八甲田会特別養護老人ホーム八甲荘の施設長、小笠原 拓司さんだ。同施設は施設機能の充実を図りながら、心のこもった質の高い福祉サービスの提供を目指し、食事が自慢の施設である。介護施設と言えば、お魚や和食を思い浮かべる人も多いと思うが、そうした固定概念を打破する料理を毎日提供。例えば、豪快な二郎系ラーメンやプロ顔負けのピザ、複数の食材を楽しめる松花堂弁当、食べ応えのある釜めし丼、魯肉飯(ルーローハン)やカオマンガイなど世界の料理と、まさに多彩。施設利用者から「どうやって作るの?」と聞かれるほどおいしく、食事満足度が高い。

小笠原さんは食材高騰の影響について、「食材原価・エネルギー費が実際上がっているのだから、食材価格が上がるのは仕方ないことだ。それは施設の中で、なんとかやりくりして、現状の食事の質をキープすることが大事。食事の質を下げざるをえない気持ちは分かるが、やはり下げてはいけない。利用者から食べる楽しみをとってはいけない」と強調する。

では、どうやってやりくりをしているのか。「どこかでコストを落とさないと施設もやりきれなくなる。値段を下げても質は変わらないところはとことん下がるよう努力している。その分、生まれた上澄みを大事な食事に使っている」と工夫点を語った。

介護保険での基本食事サービス費が20年来ほとんど変わってないことについて話を聞くと、「もちろん、上げてほしい。持ち出しでいつまで耐えられるか。2021年度の統計で、特別養護老人ホームの赤字経営は4割だったが、次の統計ではもっと増えると思う。危機的なところは多いのではないか」と危惧しつつ、「それでも食事は切れない」とゆずれない想いを語った。

同施設の食事提供を受託しているのは日清医療食品。聞けば、ここ数年、食材メーカーから今まででは想像できないほどの値上げの打診があるという。「メーカーからの値上げ依頼は、原料価格が上がっているのだから受けざるをえない状況である。毎日が値上げの商談が続いている」と苦労を語る。

先述したように、同施設ではさまざま趣向に富んだ献立を提供し、利用者に食事の幸せを届けている。献立を立てる日清医療食品の栄養士、和田紗優さんに食材高騰の中での献立づくりについて話を聞くと、「できるだけ金額を抑えられるよう厨房内で最大限努力している。調理工程の組み替えや生鮮食品のいっそうの使用、食材の変更など、こちらが対応を変えることで、利用者様に届ける食事の質が下がらないようにしたい」と述べ、「食事のモットーは妥協しないことだ。介護施設の食事は、その人の最期の食事にもなりうる。クオリティを上げて、日々、利用者様の笑顔を作りたい」と語った。