豆腐や納豆、豆乳などをつくるために日本で必要な食品大豆の7割は米国産大豆だ。そしてその米国大豆の実に98%は、持続可能な方法で作られていることが検証された認証が付与されている。
米国大豆の約60%は海外に輸出されていることから、アメリカ大豆輸出協会(USSEC)では、サステナビリティ(持続可能性)をグローバルに考えており、SDGsの目標とリンクする形で持続可能な目標を設定している。そのうち最も重要なのが飢餓をゼロにするという目標で、たん白質などの栄養価が高い米国大豆を原料とすることで、持続可能な栄養を摂取できることを伝える取り組みを進めている。
米農務省の「農業貿易ミッション」とコンシューマー・グッズ・フォーラムが開催した「グローバル・サミット京都2023」に参加するために来日したUSSECのジム・サッターCEOと、自身農家でもあるスタン・ボーン会長にインタビューを行い、米国大豆のサステナビリティについて、また、日本市場について語ってもらった。
――米国大豆のサステナビリティについてのアピールを
【サッターCEO】米国大豆のサステナビリティは農場から始まる。米国の約50万戸の大豆生産農家のうち、97%は家族経営だ。その大半が何世代にもわたって農業を続けており、次世代に農場を引き継ぐことを目指しつつ、より良い状態で農地を引き渡すことを考えている。重要なポイントとして、米国の大豆農家はサステナビリティを課せられているからではなく、自分達で価値を感じて取り組んでいる、3つの柱がある。
1つは環境的な持続可能性で、多くの人が最初に思い浮かべると思う。2つ目は経済的な持続可能性で、次の世代に農地を引き継いでいくことだ。3つ目は社会的な持続可能性で、家族がより安全で、より良い労働環境で働き続けていけることだ。
ただ、USSECとしてはもっと広く、グローバルなサステナビリティを考えている。米国で生産される大豆の60%は外国に輸出しており、米国以外の海外市場がとても重要になる。持続可能な大豆を提供していることを理解してもらった上で、米国大豆を活用してもらいたいと考えている。そして、世界中の消費者にも米国大豆がサステナブルであることを理解して欲しい。
もう1つのサステナビリティの観点は、人々が持続可能な形で栄養を摂っていけるようにすることだ。特に、たん白質市場がそれほど発展していないところでは、きちんと摂取することが栄養の観点から重要であることを伝えようとしている。インド、バングラディッシュ、アフリカ諸国では、「right toprotein(たん白質に対して権利を持つ)」と題して、さまざまな教育キャンペーンを展開している。たん白質を摂ることがいかに重要か、特に子どもにとって重要であることを伝えている。
より発展した市場では、たん白質の摂取の効率性を高めていくことを支援している。鶏肉、豚肉の生産、魚介類の養殖にも効率性は関わっており、人々の食生活にも、より効率的に提供できるようにと考えている。
さらに発展した国々、例えば日本市場では、米国大豆を使っている顧客や企業と協力し、持続可能な生産を続けてもらう活動を行っている。
まとめると、まず農場において持続可能な形で引き継がれており、農家が持続可能な形で農業を行っている。さらに世界中の顧客と協力することで、顧客の事業も持続可能な形で展開できることに協力している。重要なポイントとして、米国農家は栄養価の高い大豆を生産しており、米国大豆を使っているメーカーも栄養価の高い製品を作り出している。それを購入する消費者も、より高い栄養を米国大豆で製造した製品から摂っていただいていることになる。
〈農地がホストで農家・人間はあくまでゲスト、限られた資源を効率良く活用〉
――持続可能な栄養についてもう少し詳しく
【ボーン会長】USSECでは、SDGsの目標とリンクする形で持続可能性に関する目標を設定している。SDGs17の目標のうち、関与できる5つの目標を選んで関連付けを行っている。土壌の浸食を減らす、単収を上げることでより効率的な生産を図る、CO2排出の削減を図る、エネルギーの使用を減らすといった目標を立てている。その中で最も重要なのが飢餓をゼロにすることだ。目標期限は2025年なので、どのくらい達成できたか見直しており、必要に応じて目標を再設定していく。
【サッターCEO】大豆はさまざまな種類の畜肉を生み出すためにも使われており、持続可能な原材料を提供するという観点から非常に役に立っている。しかも効率よく提供できる。このことをしっかりと伝える教育活動が大事になる。原材料がきちんと持続可能な形で提供できていることが重要だ。それによって、ひいては人々に対する栄養を持続可能な形で提供できる。
単に大豆の生産が持続可能な形で行われるということだけではなく、さまざまな生産物の持続可能性につながっていることを伝えていきたい。
――サステナビリティと生産量の拡大を両立させるには
【ボーン会長】生産量を増やすには農地の拡大が必要とよく言われるが、私たちは単収(一定面積当たりの収量)を上げることで生産高を増やすことを考えている。それを可能にするのはテクノロジーの活用だ。まずは遺伝子的な改良を加えた種子による収率を上げていくことが考えられる。農地に雑草が生えないようにする、害虫から作物を守るというように、生物学的なテクノロジーを活用して単収を上げることも考えられる。農家が所有する耕作地は増えることはないため、いかに生産性を上げていくかが重要になる。
私自身も農地を持つ農家なので、持続可能性を考えているが、農地がホストであって、農家、人間はあくまでゲストだ。限られた資源をいかに効率良く活用し、収益を上げていくかを考えている。環境の観点からも持続可能でなければいけないし、経済性の観点からもきちんと収益を上げられる持続可能性を実現していきたい。
〈日本は長年のパートナーで特別な大豆を供給可能、東京五輪でもSSAP認証表示〉
――日本市場をどのように捉えているか、今後のアプローチについて
【サッターCEO】米国の大豆産業にとって、日本市場は非常に重要だ。USSECの海外オフィスは、67年前に日本で最初に開設した。それ以来、長きにわたって日本はパートナーであった。米国の大豆産業は日本でさまざまな活動を行ってきた。
強調したいのは、日本にとって米国大豆は非常に良い選択肢であるということだ。日本は特別な種類の高付加価値大豆を輸入しており、それを使って豆腐や納豆を生産している。日本向けの特別な高付加価値大豆の生産に特化した農家がいて、日本に届けるため輸出に携わっている業者も存在している。一方で、輸入大豆を搾油し、飼料用ミールや油が生産されている。特別な高付加価値大豆製品のための特別な大豆、一般的な飼料用大豆や搾油用大豆という2つの需要に対し、米国大豆の生産農家は十分な供給ができるパートナーになる。
日本市場向けに、具体的なプログラムも実施している。われわれが重要だと考えているのは、米国大豆の持続可能性について、日本のパートナーに理解してもらうことだ。そうすることで日本企業が日本の消費者に向けて、持続可能な大豆を使っていることをプロモーションしてくれるようになると考えている。
7年前、米国にさまざまな関係者が集まり、米国大豆サステナビリティ認証プロトコル(SSAP)を策定した。米国大豆の持続可能性が、さまざまな要件を満たし、きちんと検証されたものであることを伝えるためのものだ。策定にあたっては、NGO関係者や欧州、アジアの市場関係者、輸出・輸入業者などが参加した。持続可能性があることを証明する証明書を発行しているが、米国から日本に出荷している大豆の90%は、このSSAP認証を受けている。「東京オリンピック2020」で使われていた大豆も、SSAP認証を取得していることをきちんと表示していた。
今後続けていきたいのは米国大豆の品質の向上だ。大豆の種子を作っている業者は、常により良い種子を提供する取り組みを行っている。さまざまな特徴を備えた大豆の種子、油分が多いものもあれば、より栄養価の高い大豆に適したものもある。継続的に種子の改良を進めていく。
――SSAPマークの日本での普及、認知度アップの施策は
【サッターCEO】USSECから米国大豆のサステナビリティ認証(SSAP)を受けた大豆を原料に使った製品にはSSAPマークを付けることができる。SSAP認証の大豆を使っていれば、加工によって形が異なる食品になっても、SSAPマークがずっと使われることになる。日本のメーカーがSSAP認証の米国大豆を使うと、製品にSSAPマークを付けることができる。SSAPマークを広めるプロモーションを行っていくためには、日本の業界関係者と協力することが必要だ。
USSECはあくまでも日本の大豆業界をサポートする立場で、こういったサステナブルな製品を増やしていきたいというニーズに応える形で支援する役割になる。ただ、日本の市場では持続可能性、食品の安全性に対する懸念は高まっていると聞いている。そういった需要があるならば、消費者の不安を解消し、消費者が知りたいことを伝えるために、日本の業界関係者と協力したいと考えている。
〈日本の大豆業界と米国の大豆の生産者・輸出業者の協力関係ますます大きく重要に〉
――2023/2024年産新穀大豆の生産見通しは
【サッターCEO】米農務省の見通しは、作付面積を基本に単収の見込みを考慮して立てているが、今までのトレンドラインよりも上向きの楽観的な見通しを立てている。なぜ今年は楽観的な見通しを立てているかというと、これまで天気が非常に良く、作付けも例年より早く始まったからだ。作付けが早いと光合成が進み、単収が上がる可能性が高くなるので、米農務省としても楽観的な見通しを立てている。
しかし常に変動する。特に天候に左右されるため、どうしても予測不可能な部分がある。エルニーニョ現象やラニーニャ現象なども作物に影響を与える可能性があるが、米国では29の州で大豆の生産をしており、場所によって影響の度合いは異なる。
これまでの天気の動向だが、北部は動きが遅く、作付けも遅れ気味だ。ノースダコタ州、サウスダコタ州、ミネソタ州では遅れている。主な生産地であるアイオワ州、イリノイ州、インディアナ州、ミズーリ州、オハイオ州ではより早く生育が進んでいる。今後もしも乾燥が続くと、市場の価格が上がるかもしれないが、市場にあるのは米国の大豆だけではないので、すぐに価格が上がることにはならない。
――Non-GMO(非遺伝子組換)大豆の今後の生産量の見通し、日本への供給見通しについて
【サッターCEO】米国の大豆全体の生産量のうち、Non-GMOの比率は5%だ。半分は契約ベースで、日本や韓国などの決まった市場に輸出するために生産されている。また、米国内で特定の目的で使われる計画の元に生産されている。
作付面積をどれだけ増やすかは、市場がどの程度必要としているかで決められる。日本や他国の市場向けにあらかじめ契約した特別な高付加価値製品に使われる特別な高付加価値大豆をつくる重要性は、多くの米国大豆農家に理解してほしいと思っている。ここにきてシカゴ大豆相場は少し下がっているが、今後も需要がある限りは、Non-GMOあるいは他の特別な大豆をつくることに興味を持って生産に関わって欲しい。
USSECでは教育プログロムも行っている。特別な高付加価値大豆をつくることによって、チャンスがあることを理解してもらおうとしている。輸出の際に組むことができる輸出業者についても伝えている。日本の需要を満たせるだけの適切な量のNon-GMO大豆、特別な高付加価値大豆を提供できるようにUSSECも努力しており、市場が必要とするだけの生産をしてくれると確信している。
――最後に日本の大豆業界関係者に向けて
【サッターCEO】日本のメーカー、業界の人々と長年のパートナーとして、信頼し合って協力関係を続けてくることができたことに感謝したい。日本の大豆業界と、米国の大豆の生産者、輸出業者の協力関係は、ますます大きくなり、さらに重要になってくる。
今後もぜひオープンなコミュニケーションを続けていき、ともにチャンスを掴んでいきたい。問題が起きた際には一緒に解決していきたい。
【ボーン会長】日本で食べるさまざまな食品、豆腐、みそ、納豆、しょうゆなどに幅広く大豆は使われており、間接的にはトンカツや天ぷらにも、豚肉やエビの生産にも大豆は飼料として使われている。米国大豆がいかに日本の食生活において、サポートさせていただいているかを実感している。
大豆生産者として、多くの人の毎日の生活に、密接に貢献させていただいていると感じている。日本の業界のさまざまなビジネスにも、パートナーシップにも感謝を申し上げたい。
〈大豆油糧日報2023年6月21日付〉