少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)

目次

  1. 10年間で売上高は4倍、社員数は3倍に成長
  2. ブラック企業からホワイト企業へ。社員が幸せだから顧客を幸せにできる
  3. 大病で気づく自分自身の無力さと新たな可能性、それは会社が実現する「21世紀型 社会ビジネスモデル」
  4. 「チーム夢子」の結成と社内の「風土改革」を進めた女性社員たち、最大の役割は「持続不可能な経営」から「持続可能な経営」への舵取り
  5. 社長室の隣にオフィス兼キッズルームを設置。自宅で仕事をしている感覚で子どもの世話をしながら仕事ができる
  6. 「チーム夢子」は、クラウドサービスを導入して社員の負担を軽減 様々な改革を着実に進める
  7. 「チーム夢子」は今後も社内業務のDXを進める。その裏には男性社員の支援がある
  8. 社内改革を進めて権限移譲を進める。社員が自発的に動く豊かな大地のような会社でありたい
  9. 三承工業の挑戦は少子化を止め、家族の問題も解決する大きな挑戦。経営理念をもとに、社員は安心して出産、子育てができる風土づくりに邁進
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
“産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

岐阜県岐阜市に本社を置く総合建設業の株式会社三承工業は、従来の企業の枠に収まらない「21世紀型 社会ビジネスモデル」を経営戦略の中心に置いている。国連の持続可能な開発目標、SDGsの推進に積極的に取り組み、2018年には全国の建設業として初となる外務省の「ジャパンSDGsアワード特別賞」を受賞している。社員の半数を女性が占め、子連れで勤務可能な「カンガルー出勤」を導入するが他の企業と違うのは、全社員が子育てに協力し、それが会社運営の大きな潤滑油とビジネスの新たな発見になっていることだ。デジタル機器やICTの活用によって働き方改革が進む企業は多いが、こんな発想と実行パワーがあるのかと驚き、考えさせられる会社だ。TOPの写真は、会社の中を縦横無尽に動く子ども(左が三承工業で働く母親)と会話する西岡社長。ごく自然な風景だ。

10年間で売上高は4倍、社員数は3倍に成長

この10年間で株式会社三承工業の売上高は約4倍に拡大した。社員数は3倍に増加し、半数を女性が占め、広報、建築設計、デザイン、ショップの運営といった業務で活躍している。産休・育休を取得した後の復帰率は100%。社員の離職率はわずか1.6%。健康経営優良法人「ブライト500」の認定や、女性活躍を推進する企業を評価する「えるぼし認定」(3段階目)を受け、働きやすい企業として高い評価を受けている。また、外務省、厚生労働省など国の行政機関、岐阜県、大学などと連携し、社会課題を解決する様々なプロジェクトに参加し、社会貢献度が高い企業としてメディアに取り上げられることも多い。

少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)
少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)

ブラック企業からホワイト企業へ。社員が幸せだから顧客を幸せにできる

「今の三承工業があるのは、10年前から取り組んでいる女性社員を中心にした社内改革の成果です。社員が自らの能力を発揮して成長できる土壌を整えることが経営者の役割と思っています。社員が幸せを感じながら働いてこそお客様を幸せにすることができます。お客様を幸せにするビジネスを展開することで、社会全体を豊かにしていきたいと思って取り組んでいます」と西岡徹人代表取締役は話した。

少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)
西岡徹人代表取締役

1997年、西岡社長が20歳の時に起業し、2006年に三承工業を創業。だが、10年ほど前までは現在と正反対の超ブラック企業だったという。

「私自身若かったこともあって、会社を成長させるには元請けの要望に100%応えなければならないという思いが強く、その時は気づけなかったのですが、社員に大きな負担をかけてしまっていました。長時間労働も当たり前だったので社内の雰囲気は悪く、外部の指摘を受けて社内アンケートを行ったところ、私に対する評価は散々なものでした。社員のためと思って頑張っていただけに正直ショックでした。コンサルタントの指導を受け、会社を変えるには私自身が『北風から太陽に変わらなければならない』と思い、社内のトイレ掃除を率先し、朝礼で社員に感謝の言葉をかけるようにするなどいろいろ取り組みました。ところが社員には『社長は何か悪い宗教にでも入ったのか』と言われ、社内の風土改革どころか益々悪化しました。その結果、極度のストレスで2014年に脳梗塞を患い、入院することになってしまったんです」と神妙な表情で西岡社長は振り返った。

大病で気づく自分自身の無力さと新たな可能性、それは会社が実現する「21世紀型 社会ビジネスモデル」

入院生活は数ヶ月に及んだ。西岡社長は何度もくじけそうになりながらも不屈の精神で病から復帰したが、右目に後遺症が残った。じっくりとこれまでの経営を振り返る時間を持てたことが、現在の三承工業につながる大きなターニングポイントになったという。「1人で改革をするのは不可能だということを、心の底から納得することができました。挫折が私を変えてくれたんです。昔は1人で何でも抱え込んでいたのですが、復帰してからは、他人に相談して助けを求めることができるようになりました」と西岡社長。それまでは、何とか会社を良くしようと散々動き回ってきたが、やればやるほど社員の心が離れていった。大病をすることである意味のあきらめと悟りを持つことができた。人間というのは一人では無力、だからこそお互いが助け合って生きていく。それを会社の中で実現しようとした。「21世紀型 社会ビジネスモデル」のスタートだ。その代表的な挑戦が「カンガルー出勤」。困っている人がいる、だからみんなで徹底的に助けよう。社員のやる気スイッチが徐々に入ってきた。西岡社長の気持ちにも一切の迷いはない。この道で行こう。誰一人取り残すことなく、困っていたら助け合う。日本青年会議所に入ったことも非常に大きな経験になった。世界から見る目、奉仕の精神、組織運営。組織の中で働いた経験のない西岡社長にとって新鮮で学びの多い体験だった。

「チーム夢子」の結成と社内の「風土改革」を進めた女性社員たち、最大の役割は「持続不可能な経営」から「持続可能な経営」への舵取り

少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)
寺田有希実さん

心強いサポーターになってくれたのが、当時アルバイトで働いていた寺田有希実さんだった。なぜ寺田さんかというと「みんなに気配りができて社内を和ませてくれる、ぽかぽかした太陽のような女性、それが寺田さんでした」(西岡社長)。当時、寺田さんは妊娠を機に退職しようとしていたが、西岡社長の全力の説得を受けて会社に残ることを決意。寺田さんが残った最大の理由は、「子どもが生まれたら会社に連れてきて仕事をして欲しい」という言葉だった。それが「カンガルー出勤」の始まりだった。2015年に女性の視点から社内改革を進めようと女性社員に加え、男性社員の奥さんや協力会社の社員の奥さんにも協力を要請し、「チーム夢子」を結成した。最大の役割は「持続不可能な経営」から「持続可能な経営」に舵を切るための「風土改革」だった。

少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)

具体的には、1.風土、2共有、3.仕組みに分けて推進していった。

風土改革では、①お互いを承認するため、朝礼でありがとうを発表、毎月の社内アンケートで輝く社員を表彰②社員間のコミュニケーションの活性化のため、課外活動や勉強会の実施、③お互いを想いやる職場づくりでは、朝礼でお互いの気づきを発表する。

共有化では①情報の共有(LINE、Web会議)②時間の共有(ドリームノートの活用とクラウドスケジュール)③理念の共有(会社の目的、経営理念、ビジョンの策定)④問題の共有(それぞれの組織の定例会議の開催、会議運営方法の見直し、経営計画)

仕組みづくりでは①労働環境を向上する仕組みづくり(上司が部下一人一人に有休消化の計画を考えさせる、ノー残業デーの実施②個性を生かした働き方が出来る職場づくり(カンガルー出勤や時短、在宅勤務など多様な働き方対応、資格取得に関わる援助制度の推進③強みを活かしあえる職場づくり(組織図の作成、実務に合わせた職務分掌の最適化)を推進した。

現在、チーム夢子のメンバーは20代から50代の6人で構成。メンバーの所属部署や担当業務はそれぞれ違うので月ごとの会合を通じて各職場の雰囲気を知ることができるという。社員へのアンケートや聞き取りも行って現状を把握した上で、働きやすい職場環境のバージョンアップを目指して活動を続けている。その中でデジタル機器やICTの活用も重要なテーマと位置付け、活用を積極的に提案している。

社長室の隣にオフィス兼キッズルームを設置。自宅で仕事をしている感覚で子どもの世話をしながら仕事ができる

三承工業の本社には社長室に隣接してオフィス兼キッズルームが設けられており、子どもが昼寝をするためのスペースやおもちゃが置かれた遊び場が設けられている。部屋が独立しているので女性社員は自宅で仕事をしている感覚で子どもの世話をしながら担当業務をこなすことができる。キッズルームは支店にも設けられており、子どもと一緒に通勤している女性社員の割合は65%にのぼる。「会社全体で子育て中の社員を支援する体制を整えています。アットホームな雰囲気の会社と言っていただけると何よりうれしいです」とダイバーシティ推進室の神田純代係長は話した。

少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)
社長室の隣に設けられている子どもを見ながら仕事ができる仕事スペース。社員同士の打ち合わせにも利用される
少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)
子どもが楽しく過ごせるようにおもちゃも用意されている

「社長室の隣をキッズルームにしたのはチーム夢子のアイディアです。お子さんがいる時は電話で話をする時も自然と言葉使いが丁寧に柔らかくなります。昔の私を知っている社員から見ると信じられない姿でしょう。チーム夢子の手の平で踊らされているような気がします」と西岡社長は微笑んだ。西岡社長が社員の子どもの遊び相手を務めることもある(TOP画像参照)。

「チーム夢子」は、クラウドサービスを導入して社員の負担を軽減 様々な改革を着実に進める

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チーム夢子のメンバー

2020年4月には、支店や社外で仕事をすることが多い営業担当者と建築現場の図面や進捗状況などの資料を共有したいと考え、クラウドサービスを導入した。以前は本社に戻らなければ資料データにアクセスできなかった。本社に戻る時間がない時は、電話で本社の社員に連絡してメールなどで送信してもらっていたという。そのため本社の社員は、電話で依頼があるたびに、仕事の手を止めなければならなかった。

「相手が求める資料とは違うものを送ってしまうこともありました。途中で手を止めると仕事の効率も落ちますし、積み重なることで大きな時間のロスにつながっていました。クラウドサービスを導入してからは外部から担当者が直接アクセスして必要な資料を入手できるので、資料を探して送る手間がなくなり仕事に集中できるようになりました」と財務部人事課の柿元憂紀係長は話した。クラウドサービスは、コロナ禍における社員の在宅勤務を推進する上でも大きな効果を発揮したという。

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財務部の柿元憂紀係長

「チーム夢子」は今後も社内業務のDXを進める。その裏には男性社員の支援がある

紙資料は複合機のスキャン機能を使ってデータ化することでペーパーレス化を進めており、紙資料を保管していた書庫を減らすことで空いたスペースを休憩場所などに活用している。以前は本社に集合して行っていた全体会議も、現場に出ている社員はWeb会議システムを使って参加できるようにしている。

チーム夢子は、今後も社員にとって使いやすくセキュリティ機能を高めた新しい社内連絡ツールの導入や、現在、紙文書での扱いが中心になっている顧客データのデジタル化などを通じて社内のDXを推進していきたいという。チーム夢子の活動を支えるのが柿元係長のような男性社員というのも面白い。柿元係長は、チーム夢子と価値観を共有し、支援することに生きがいを感じているようだ。

社内改革を進めて権限移譲を進める。社員が自発的に動く豊かな大地のような会社でありたい

一般社団法人日本カーボンニュートラル協会理事、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会地域戦略副本部長など数多くの団体で役員を勤める西岡社長は、社内よりも社外で活動する時間が増えているが、社内改革を通じて権限移譲を進めてきたことで安心して社員に任せることができているという。

「社員の自発的な行動を促し、ビジネスを成長させていくには会社が豊かな大地のようでなければならないと思っています。カチカチのコンクリートのような会社のままだったら、ここまで社員が自発的に動いてくれることはなかったと思います」と西岡社長は、「チーム夢子」とその活動を支援する社員の活躍を嬉しそうに話した。

三承工業の挑戦は少子化を止め、家族の問題も解決する大きな挑戦。経営理念をもとに、社員は安心して出産、子育てができる風土づくりに邁進

少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)

令和2年版 厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考えるーより。現在50才の人の多くが結婚していた頃は、「共稼ぎ」と「世帯主のみ働く」は半々だった。それが2019年には、共稼ぎが1245万世帯、世帯主のみ働くが582万世帯と7割弱が共稼ぎだ。

2023年3月1日の日経新聞のトップに「出生急減80万人割れ 推計より11年早く 昨年の日本」と掲載された。コロナの影響もあるが、他国の出生率は回復基調にある。高度成長期は、夫婦共稼ぎは少なく、結婚したら女性が会社を辞めるという時代だった。平成、令和を経て完全な夫婦共稼ぎの時代になったが、働きながら出産するというハードルは非常に高く、子育ての時間と費用からあきらめざるを得ない人が増えた。

少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)

そうした中で、三承工業は、出産後の会社復帰率100%、会社全体で助け合うという環境、子どもがぐずると子連れの社員より他の社員が気を使って部屋を移動したりする。そうした中でお母さんやお父さんがやりがいを感じながら働く姿を見ながら育つ。そんな家庭にどう考えても家庭内暴力や引きこもりは発生しそうにない。これから結婚する社員も安心して結婚、子育てという選択ができるため、迷う必要がない。

経営理念の「全ての皆様に感謝の心で愛情と想いやりのある人・物創り」という言葉が、社員一人ひとりに浸透している。ある社員から「実行したくなる経営理念があるから働きやすい」という言葉があった。会社の「風土改革」が着実に根を張っている証拠だ。既に西岡社長や寺田部長は、対外的にもこの考え方を普及しようと活動しているが、西岡社長や寺田部長が思っている以上に日本に今一番必要なことだと3月1日の日経新聞の記事を見ながら改めて感じた。

少子化問題の解決に大きな道筋を示す「21世紀型 社会ビジネスモデル」 三承工業(岐阜県)
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事業概要

会社名三承工業株式会社
本社岐阜県岐阜市水主町2丁目53番地
HPhttps://www.sunshow.jp
電話058-275-5556
設立2006年3月
従業員数  68人(2023年1月時点)
事業内容  新築工事、建築工事、リフォーム工事、土木工事業、管工事業、タイル・レンガ・ブロック工事業、舗装工事業、造園工事業、水道施設工事業、産業廃棄物収集運搬業