(本記事は、キム・ボムジュン氏(著)、朝田 ゆう氏(翻訳)氏の著書『「また会いたい」と思われる人は話し方が違う』=扶桑社、2023年3月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
断りの返事のあとには必ず肯定的なコメントをつける
私たちは「ノー」と言うことに慣れていない。はっきりと言葉にして断ることが恐いのだ。逆に、顔の表情や身振りなどで「ノー」を示すことが多い。「明朝までに報告書を書いておけ!」と上司に言われたら、「明日の朝までにはできません」と答えるより、無理だという表情をしてしまう。「顔を見てわからない?」といわんばかりの表情で気持ちを表し、相手が要求を撤回することを願うのだ。だが、結局うまくいかず、クオリティの低い報告書を提出する羽目になる。そうなれば、上司に叱られ、評価も下がり、人間関係も悪化するだろう。そうこうするうちに今度は自分が上司の立場になり、部下に同じような態度で指示し、相手の断りの表情は見ないふりをする。
断ることはそれぐらい難しい。とはいえ、よくない習慣は一日も早く直さなければならない。はっきりと断らずに曖昧な表情と行動でわかってもらおうとするのは最悪のコミュニケーション法だ。そういうことをしていると、社会は後退し、人々の創造性や斬新な考えをつぶしてしまう。相手にわかってもらおうとするのではなく、断るべきことは、はっきりと断ろう。断るべきタイミングで断れないまま、相手の言葉や行動に引っ張られていては、会話の主導権を握ることはできない。今こそ断り方を習得しよう。
では、どう断るか?覚えることは一つだけ。肯定的に「ノー」と言うのだ。断りながらも、肯定的な言葉を付け加える。例を挙げてみよう。母親が子どもを呼んでこう言う。
「チョルス、床掃除を手伝ってくれる?」
「お母さん、それって僕の仕事じゃないでしょ」
この瞬間、母親の心にイライラが芽生える。職場でも同じだ。上司が部下を呼ぶ。
「パク君、申し訳ないけど、明日の朝までに売上分析の資料を提出しないといけないんだ。ちょっと手伝ってくれ」
「チーム長、それって私の仕事ではありませんよね」
こんなふうに答える部下とは決していっしょに働きたくないだろう。こういった「取りつく島のないノー」は相手を怒らせるだけだ。返事のうまい子どもなら、そしてコミュニケーション能力の高い部下なら、次のような「肯定的なノー」を使うだろう。
「お母さん、手伝うのは宿題が終わってからでいい?」
「チーム長、今晩は先約がありまして。明日の朝、早く出社してお手伝いするのでもいいですか?」
どちらも、相手を怒らせずに断れる言い方だ。俗にいう、「生意気なやつ」と「礼儀正しい人」の分かれ目は、こういった一言にある。子どもや部下など立場の弱い人を例に挙げたが、じつは「肯定的なノー」は立場の強い人にはさらに必要な言い方である。
あるプロジェクトを進めるためにいくつかの会社から見積もりを取り、そのなかから一社を選び、あとの会社は断らなければならないとする。そんなとき「御社は価格的に考えられません」と露骨に言えば、先方は傷つき、今後その会社と取引することはできなくなるだろう。もう二度と関わらないのであれば問題ないかもしれないが、そんなにドライでいいのだろうか?
断りの言葉も礼儀正しくなければならない。たとえば、次のような言い方にしよう。
「残念ながら金額があと一歩でした。ですが、技術はすばらしいです。また別の機会に、ぜひいっしょにお仕事させてください」
それが真実であれ嘘であれ、このような言い方をすれば、今後もその会社とうまくやっていけるはずだ。ビジネスで結ばれた関係をむやみに壊さないですみ、今後にもつながる。あなたは、どんな言い方を選ぶだろう?