(本記事は、キム・ボムジュン氏(著)、朝田 ゆう氏(翻訳)氏の著書『「また会いたい」と思われる人は話し方が違う』=扶桑社、2023年3月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
カフェでするといい話と会議室でするといい話
「今そういう雰囲気じゃないので、報告はあとにしてもらえるかな」
会社員だったら誰でも一度は言われたことがあるのではないだろうか。日常生活を振り返ってみよう。自分の主張が反論の余地のない完璧なものであっても、相手がそういう気分でなければ聞く耳をもってもらえないことが多い。聞く人の気分や、話す人の立場、ときには聞き手の人柄などによってその話を聞いてもらえるかどうかが決まるといっても過言ではないだろう。「どう考えても私の言っていることは正しいのに、まったく聞いてもらえない!」と嘆く人が反省すべきは、話の内容ではなく、相手の気分を察したり、空気を読んだりすることだ。相手が今どんな気分なのか、その人の周りがどんな空気なのかわからないままでは、話をすることで得るものよりも失うもののほうが大きい恐れもある。となれば、次のような「探りの言葉」から話しはじめることをおすすめする。
「部長、今、ちょっとお時間ありますか?」
「室長、お話ししたいことがあるのですが、昼休みのあとに 伺 ってもよろしいでしょうか?」
こちらの主張を聞いてもらえるかどうかは、主張の正当性や論理の厳密さで決まるわけではない。相手の気分を察することのほうが大事なのだ。相手の気分を探ろうとする言葉によって、相手は「この人は私に話をするために努力している!」と感じ、自分が尊重されていると思う。そうなれば、相手は喜んで会話に応じ、真剣に話を聞いてくれるだろう。何かを得るために話をするときには、相手の気分と空気を探る話し方で始めてみよう。
もう一つ、空気を読んだ話し方と同じくらい、いや、場合によってはそれ以上に大事なのは、相手が話を聞こうという気になる空気をつくり出す努力だ。面接の場面を想像してみよう。しかめ面の面接官を前に、緊張した面持ちの受験者……。張りつめた空気に圧倒され、面接を受ける者は、ふだんうまく話していることさえ言えなくなる。面接官から鋭い質問をされたら、さらに緊張して話せなくなる。もちろん面接とは、そうした状況でも論理的に話ができ、表情や振る舞いが魅力的な人物を選ぶためのものなのだから、そうなっても仕方ない。だが、ふだんの会話の場をあえて面接のような雰囲気にする必要はないはずだ。
具体例を見てみよう。子どもに日頃の勉強の仕方について何か言っておきたいと思う母親は、たいていは次のような言葉で話を始めてしまう。
「ヨンチョル、お母さんの部屋に来なさい!ちょっと話があるから」
おそらく子どもは、母親の部屋にたどり着く前に防御の壁をつくってしまうはずだ。子どもと話をするなら、いや、子どもと話すことで自分の目的を果たしたいなら、話をする場所にも気を使わなければならない。まずは、子どもが心の扉を開いて話しやすい雰囲気をつくれる場所を考え、そこで話を始めよう。たとえば、こんなふうに。
「久しぶりにお母さんとアイスクリームでも食べに行こうか?」
自宅ではなく近所のアイスクリーム屋さんで話をすれば、効果は格段にアップするだろう。子どもの緊張感がやわらぎ、母親と話し合う心の準備ができるからだ。
では、営業マンだったらどうだろう?取引先を訪問する際、先方のオフィスの会議室で話をするより、カフェなどでコーヒーを一杯飲みながら打ち合わせをしたほうがいい場合もある。カフェには会話に適したサイズのテーブルがあるので、お互いに負担にならない距離感を保つことができる。飲み物もあるため、自然な身振りでスムーズに話を進められるだろう。また、ほどよく騒がしい環境は、ミーティングへのプレッシャーや緊張感をやわらげてくれる。今日、もし誰かと打ち合わせの予定があるなら「コーヒーでも飲みながらにしましょうか」と言ってみてはどうだろう。