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藤田 耕司(ふじた・こうじ)
公認会計士、税理士、心理カウンセラー、一般社団法人日本経営心理士協会代表理事、FSGマネジメント代表取締役、FSG税理士事務所代表。
1978年生まれ。2002年早稲田大学商学部卒業。04年公認会計士試験に合格、同年有限責任監査法人トーマツ入所。12年に独立し、藤田公認会計士・税理士事務所(現FSG税理士事務所)開設。13年FSGマネジメント株式会社設立・代表取締役就任、15年一般社団法人日本経営心理士協会設立・代表理事就任。年商100億円を超える企業の社長など、多くの社長のメンターを務める。経営・ビジネスの現場における成功体験・失敗経験と心理学を融合した経営心理学を新たな企業経営のあり方としてコンサルティングしている。

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現場の感覚と心理学がリンクすると仕事が面白くなる

① 現場で使える心理学の知識はこうやって生まれる

公認会計士、税理士は経営者の一番の相談相手と言われています。私も公認会計士、税理士の資格を持ち、経営コンサルタントとして、あるいは顧問税理士として大きな会社から小さな会社まで、様々な経営者の方から、ご相談を受け、現場を見てきました。公認会計士、税理士は多くの場合、数字に関するご相談を受けますが、私はご相談の内容には制限を設けず、どのようなご相談も受けてきました。マーケティング戦略から取締役会の進め方、組織の設計の仕方、人材採用、人材育成、さらには経営者の個人的な問題まで。

決算書を見ながらお話を伺えば、会社の状況はだいたい分かります。会社の状況が分かると経営者が抱えている悩みも見えてきます。

「経営の話が分かる人に悩みを相談したい」、それは経営者にとっての切実な願いです。

そのため、「〇〇の状況ですが、これはなかなか大変ですね。ご苦労されているんじゃないですか」と切り出すと、「いや、実は……」と、堰を切ったように悩みを話して下さいます。

相手の悩みを聴く時、私は言葉よりもむしろその言葉の背後にある心を聴きます。相手と同じ立場に立って、五感でその状況をイメージし、感情移入し、同じ心の動きを辿る。

感情は伝染します。話し手の感情が聴き手に伝染し、聴き手がその感情に深く共感することで話し手と同じ感情が生まれ、聴き手のその感情が今度は話し手に伝染する。

そうやって感情伝染の相乗効果が高まれば、安心して本音を話せる「場」ができます。「場」ができると相手は少しずつ本音で話してくれるようになります。本音が聴けないと経営の実態を正確に把握することができず、結果的に誤った助言をすることになりかねません。

本音が出てくると、場合によっては涙を流される方もいます。それくらい経営者やリーダーは悩んでいます。悩んでも誰にも相談できず、悩みを抱え込み、感情に蓋をしています。それが常態化すると、蓋をしているという自覚すらもなくなってしまいます。

危険な状態です。

その悩みの根本を辿っていくと、多くの場合、人の問題に行き当たります。役員・従業員という人、お客様、仕入先という人、自分という人。そして、人に関する泥臭い話が出てきます。

表向きはどんなに綺麗なブランドをまとっていても、舞台裏にまわれば泥臭い話が山積み。

経営の実態とは往々にしてそういうものです。

そこには様々な人間模様と喜怒哀楽、生の感情があります。

現場の人間模様と生の感情に触れ、経営コンサルタントとして意見を求められ、心理学や脳科学の知識を活用しながら助言をしていく。そして、現場の反応を見る。自分自身、様々な感情を味わいながら試行錯誤を繰り返し、少しずつビジネスの現場で活用できる人の心の性質に関する気付きを得ていきました。

その過程で気付いたことがあります。それは経営やビジネスにおける様々な問題を解決していく中で見出した人の心の性質は、とても汎用性が高く、一見、全く違う分野の問題でもその性質に当てはめて考えれば解決策が導けるということです。

例えば、マーケティングの中で見出した心の性質が、部下のモチベーションを上げるうえでも活用できたり、部下との信頼関係を築くために重要な心の性質が、営業にそのまま使えたり。

リーダーシップ、人材育成、マーケティング、営業など、問題が生じる分野は多岐にわたりますが、それぞれの問題に関係するのは人であり、人の心の性質は共通しています。

つまり、人の心の性質を学ぶことで、人に関わる問題であれば、どのような分野の問題でも問題の本質を外すことなく、解決策を導いていくことができるようになります。

「会社を経営するうえでも成功しようと思ったら、人間とはこんなもんやという本質を知る、そこから出発しないといかん。諸君は大学で人間について研究したか」

「はじめに」で、この松下幸之助氏の言葉をご紹介した意図はここにあります。

② 心の性質について知れば百戦危うからず

経営やビジネスで良い結果を出す人は、人の心についての深い洞察があると感じます。それが心理学のような学問という形で学んでいなくとも、これまでの人生における経験から、本人の中で感覚知や直観として積み上げられたものがあります。こういった感覚知や直観に基づいた判断や行動が、お客様や従業員といった人の心を捉え、その結果が経済活動として数字で反映されます。そういった感覚知や直観を持つ彼らはいわば心の専門家と言えます。

勉強は嫌いだからと言って大学には行かずに10代で起業し、15年以上にわたり増収増益で会社を経営している社長がいます。彼に心理学の知識はありません。しかし、彼の経営に関する持論は泥臭い経営の現場から積み上げられた、正に生の心理学です。心理学の専門用語は使わず、それに代わる言葉を自らつくり、その言葉を使って分かりやすくお客様や従業員の心の動きについて話をします。人の心に対するとても鋭い洞察力を持った方です。

ある時、その社長に簡単な心理学の講義をしてみました。すると、「俺がいつも何気なくやっていることは心理学的にも正しかったんだ!」と喜んでいました。

このように現場の感覚と心理学の知識とを重ね合わせ、ぴったりはまった事例を見ていくと、とても興味深い学びがあります。こういった学びを深めるほどに、経営やビジネスがより深く、より面白くなっていきます。

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」

中国・春秋戦国時代に書かれた兵法書『孫子』の一節です。

この考え方は現代の経営やビジネスにも当てはまります。お客様という「人」、従業員・上司・部下という「人」、そして自分という「人」について知ることができれば、経営やビジネスも危うからず。

経営やビジネスは人を動かし導くことです。

そのため、人を動かし導くために必要な心の性質について知ることは、経営・ビジネスで成果を上げるうえでも大きな意義を持ちます。

そういった視点から、心理学や脳科学などの知識のうち、現場で頻繁に活用してきたものを中心に、現場の事例や学びを交えながら、できるだけ体系的にまとめた内容を経営心理学として、セミナーや研修などでお伝えしています。

また、「はじめに」でも書かせていただきましたが、私は「経営心理学」という言葉に、会社や事業を経営していくための心理学、ビジネスに関する心理学という意味と、「自分」を経営するための心理学という意味を持たせています。

様々な会社の経営やビジネスを見てきて思うのは、自分を経営できるかどうかと、会社やビジネスを経営できるかどうかは、基本的に比例しているということです。そのため、私がお伝えする経営心理学では、会社やビジネスという外部の世界と、自分という内部の世界の両方を経営できるようにすることをテーマとしています。そして、その両方の世界がリンクしていることに気付けると、色々な変化が生まれます。