矢野経済研究所
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5月5日、世界保健機構(WHO)は、新型コロナウイルスについて「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を発表した。2020年1月30日の発出から約3年3カ月、「脅威は完全に消えたわけではない」との留保つきながら実質的な収束宣言と受け止めて良いだろう。5月8日、日本でも新型コロナの感染症法上の分類が2類から5類に変更された。感染症対策は行政が法律にもとづき一律に関与・要請する仕組みから個人や事業者の判断に委ねられる。多くの犠牲を乗り越え、社会はようやく日常へ向かう。

さて、本稿で初めて新型コロナに言及したのは2020年2月7日、「春節明けの中国、主要都市の社会機能が麻痺、世界経済に暗雲」と書いた。これ以降、今日まで繰り返し新型コロナを取り上げてきたが、主たる論旨は、パンデミックは未来を短縮させた、ということだ。デジタル化、働き方改革、サプライチェーンの再編、中小企業の事業承継の加速など、社会、産業における構造改革は一挙に進展した。と同時にインバウンドの消失は人口減少に歯止めがかからない未来の日本における内需縮小のインパクトを疑似体験させてくれたと言える。

コロナ禍はまさに未来に向けての構造問題を浮き彫りにするとともに、取り組みの前倒しを後押ししてくれた。突然の移動制限は社会にとって大きな打撃だった。しかし、あらゆる局面で量から質への戦略的な転換が加速した。また、グローバリゼーションの一時的な機能不全はBCP戦略の再構築を急がせる動機となったはずであり、DX化は行政をはじめ、全ての企業にとっての最優先課題となった。働き方改革も急速に進展、企業と人々に行動原理や価値観の変化を促すとともに、地方はそこに関係人口創出の新たな可能性を見出した。

とは言え、課題は残る。まずは感染症対策の科学的な検証とコロナ禍にあって実施されたすべての施策の効果測定をお願いしたい。また、所謂 “ゼロゼロ融資” の返済が本格化する中、資金が行き詰まる中小企業も増えてきた。事業構造転換を促す効果的な支援も急がれる。そして、忘れてならないのは患者や家族、医療従事者、特定業界等に対する不当な差別や偏見があったという事実だ。私たちは、主権の制限を伴う強権発動を求める声の大きさと相互監視的な同調圧力の高まりを目の当たりにした。非常時における社会リスクについて、あらためて問い直す必要があるだろう。今こそ、この3年間の成果と負の側面を社会全体でしっかりと受け止め、次の「非常時」に備えたい。

今週の“ひらめき”視点 4.30 – 5.11
代表取締役社長 水越 孝