(本記事は、中條 一夫氏の著書『できるビジネスマンは日本酒を飲む ―外国人の心をつかむ最強ツール「SAKE」活用術』=時事通信社、2020年10月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
フランス料理にワイン、日本料理に日本酒と言われる理由
フランス料理にワインが、日本料理に日本酒が合うと言われるのはなぜか。それを考えることにより、フランス料理や他の外国料理に合う日本酒のヒントが得られます。
経験則で語る人、理論で語る人
料理と酒の相性を語る際に、「この料理にはこの酒が合う」と経験則で語る人と、「このタイプの料理にはこのタイプの酒が合う」と理論で語る人がいます。どちらが正しいという話ではなく、どちらをより重視するかという違いで、どちらも正しいと思います。
経験則で語る場合〜適者生存の法則の中で地元の料理に合った酒が定着した
料理と酒の組み合わせは無数にありますが、「フォアグラに甘口の白ワインが合う」「カツオのタタキに辛口の日本酒が合う」といった個々の経験が蓄積され伝承されていくと、どの地域の飲み手も、その地域の料理に合う酒質の酒を好んで飲むようになります。どの地域の造り手も、その地域の料理に合う酒質の酒を造るようになります。その結果、長期的には、フランス料理にはフランスのワインが合い、日本料理には日本酒が合うという傾向が定着します。
この基本が分かれば、さまざまな応用ができます。日本で造られるワインには日本料理に合う製品が増えるでしょうし、フランスやアメリカで造られるサケ(日本酒とは名乗れない)にはフランス料理やアメリカ料理に合う製品が増えるでしょう。世界各地で日本料理が食べられるようになれば日本酒も飲まれるようになるでしょう。日本料理でなくても、フランス国内でライトでヘルシーな日本料理的なフランス料理が食べられるようになれば、ワインのような日本酒や日本酒のようなワインも飲まれるようになるでしょう。
理論で語る場合〜脂味のフランス料理にはワイン、旨味の日本料理には日本酒
フランス料理も日本料理も多種多様であることを重々承知の上で、あえて分かりやすく単純化して言うなら、「フランス料理は脂味の魅力で食べさせる料理、日本料理は旨味の魅力で食べさせる料理」と私は感じています。
日本料理の魅力である旨味が「UMAMI」として海外でも知られるようになったので、日本語でおいしいという意味の「うまい(美味い)」と旨味が豊富という意味の「うまい(旨い)」が混同されがちですが、脂味にも独自の魅力があり「うまい」です。脂味の「脂」という漢字が「肉」を表す「月(にくづき)」と「うまい」を表す「旨」の組み合わせであることに人間の味覚の普遍性を感じます。
ワインは白も赤も脂味との相性が良いです。白ワインは日本酒と比べて酸味が強い酒ですが、料理の脂味で満たされた口内を酸味がリフレッシュさせます。赤ワインは日本酒と比べて渋味が強い酒ですが、料理の脂味で満たされた口内を渋味が引き締めてくれます。ワインを飲みながらだと脂味に飽きることなくその魅力を何度でも楽しめます。
日本酒は旨味との相性が良いです。日本料理で代表的な、昆布だしと鰹だしの合わせだしは二種類のだしの旨味が相乗効果をもたらします。アルコール飲料であると同時に優れたアミノ酸飲料でもある日本酒は、異なる旨味成分をもつさまざまな日本料理との間で旨味の相乗効果をもたらします。
この基本が分かれば、さまざまな応用ができます。日本料理であっても脂味のあるものはワインと相性が良い可能性があり、外国料理であっても旨味のあるものは日本酒と相性が良い可能性があります。いろいろ試してみましょう。
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