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儲け:自分を変える勇気が会社の可能性を引き出す。
「社長業とは、我慢と忍耐の連続だ」と言った人がいるが、まったく同感だ。
なぜそうなのか?その理由を一言でいうと、「社長という立場は、あらゆる状況において、つねに全体最適の意思決定を求められる」からであろう。
ところが、実業の現場は「あちらを立てれば、こちらが立たず」といった二律背反する問題の連続である。
つまり、二項対立の関係にあるものを、いかにして二項共存の関係にもっていくか、そこがもっとも社長としての手腕を問われるところである。そのジレンマは、まさに我慢と「忍耐」のしどころであろう。
その我慢と「忍耐」であるが、眼前の現実に「耐え忍ぶ」ということで、同じような意味合いで使われることが多いと思うが、二つの言葉には次元の違いがあると考える。
仏教では、我慢とは「煩悩の一つと考え、強い自我意識から生まれる慢心のこと」をいうそうだが、そこには自分を高く見て他人を軽視する心の状態があるように思える。
一方の「忍耐」は、プラトン※の四元徳(知恵、勇気・忍耐、節制、正義)に見られるように、養うべき心として重要視されてきた徳目の一つであるといえる。
このようにとらえると、我慢のほうは「悪いのは相手で、自分は悪くない。相手が変わるのを待ってあげているのだ」という耐え忍び方である。問題の元凶はつねに自分の外にあると考えているようなものだ。
だが、「忍耐」を知る人は違う。ジレンマの真の原因は、自分の思慮の浅さやリーダーシップの欠如にあると考える。
楽して儲けようとか、自己の責任逃れなど自己都合ばかりを優先して考えているような価値観に陥っていないか、自己の内面性に目を向け、葛藤し、生起している問題を解決しようと耐え忍ぶのである。
このように考えると、我慢とは事態に対して受動的で、いずれ堪忍袋の緒が切れそうで、危なっかしい感じがする。それに、我慢から生じる我執は新たな対立関係を生じさせるだけではないだろうか。
その点、「忍耐」には能動性を感じることができる。なぜかというと、自分の思うようにならない現実を自分の問題としてとらえ、自分自身の変化(=成長)によって事態を打開しようという強い意志がある。
つまり、「忍耐」には自分を変えようとする勇気が存在しており、未来に対する大きな可能性が期待できる。だから、「忍耐」には一定の成果が出るまで、真に耐え忍ぶ力が備わっているのではないだろうか。
社長業とは我慢から始まり、それでは根本解決にならないことを悟り、「忍耐」という徳を覚え、社長としての器を形成していくのではなかろうか。
プラトン
古代ギリシャの哲学者(紀元前427 年~紀元前347 年)。
ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる。
儲け:「拙速」経営で資本効率を上げる。
一般に経営資源といえば、「人・物・金」の3要素。そして、情報化社会の広がりと共に第4の要素として、「情報」が挙げられる。
さらに、これも世相の反映だと思うが「スピード」を重視している経営者が意外と多いと聞くが、これは納得できる話だ。
少し意味合いが違うのかもしれないが、実は『孫子』では、約2500年前に「拙速」という言葉で「スピード」の重要性を、次のように語っている。
「兵は拙速なりとは聞くも、未だ巧久なるは賭みざるなり」(「作戦篇第二」)。
戦争には莫大な金がかかるので、少々つたなくても迅速に勝利を収めるなら成功するが、たとえすぐれた策でも長時間かかったものに良い結果を得たためしがない。
つまり、長期戦は良くない(『孫子の経営学』武岡淳彦著)。
孫子のいう「兵は拙速なり」とは、現代風にいうと、資本効率の追求という経営のテーマではなかろうか。
売上の拡大ばかりに気を取られ(売上至上主義)、過剰設備投資や固定費の増大などに対する配慮が不足していたばかりに、急激に資金が逼迫し、苦しい状況に追い込まれ、倒産していく企業が後を絶たない。
そんな経営者の疑念と嘆きの声が聞こえてくる。「売上はこんなに増えたのに、なぜ経営がラクにならないのだろうか?」その原因の一つに「拙速の欠如」があるといえよう。
売上至上主義の経営者(中小企業の多くがそうであるが)の特徴は、儲けに関するデータには関心を示すが、バランスシートを見ようとしないところにある。売上至上主義のツケ、「拙速の欠如」が招いた経営の異常値はすべてバランスシートに表れているのであるから、それを見ないことには疑問は解けない。
財務分析でいうと、「収益性」ばかりではなく、「活動性の要素」(総資本回転率、固定資産回転率、棚卸資産回転率、受取勘定回転率、支払勘定回転率など)について、定期的にチェックを行う必要があると考える。
たとえば、資本効率の指標としてよく使用される「ROA(総資本営業利益率) = 営業利益 ÷ 総資本」は、「総資本回転率」と「営業利益率」を掛け合わせたものである。
だから、利益率を高めたとしても、「総資本回転率」すなわち「資本の循環スピード」が悪化すれば、良くならないのである。売上をどんどん伸ばしているにもかかわらず、経営がラクにならない企業をみると必ず、その辺に事情が潜んでいる。
「拙速」経営は時代の流れであり、必至。そのためには、バランスシート分析それに加えてキャッシュフロー分析を一度試みてもらいたい。