(本記事は、赤岩 茂氏(著、編集)、鈴木信二氏(著、編集)、倉澤芳弥氏(著)、小山淳一氏(著)、茂田雄介氏(著)の著書『資金調達力の強化書』=あさ出版、2022年5月16日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
わが国では10年に一度は経済ショックが到来
2019年に中国武漢で報告された、新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に全世界に蔓延し、人の命を奪い、経済活動に大きな制限がなされました。対面接触を伴う飲食・宿泊・旅行業では、対前年比数%となったところもあり、「需要が蒸発してしまった」と表現してもいいほどの売上減にみまわれた会社もありました。
今回のコロナショックを不測の事態ととらえている方もいるかもしれません。しかし、わが国では、歴史的に見ると、10年に1度程度は経済的なショックが発生しています。2020年のコロナショックの前は2008年のリーマンショック、その約10年前は、ITバブルの崩壊、その約10年前はバブルの崩壊です。
その時々で、影響の大きい業種などは異なっても、10年に一度は利益を出しにくい環境が訪れることを前提に企業経営を行うことが重要です。
資金を「ダムの水」にたとえた松下幸之助
経営の神様といわれた松下幸之助氏は、「ダム経営」をとなえていました。これは、
「ダムに水を蓄えて、旱ばつの時に放出するように、緊急時に使える資金・人材などを蓄えておく」
ことを意味しています。前述したように、日本経済には10年に一度程度の周期で、様々なショックが到来しています。
企業は、このサイクルからは逃れられないものとして、平時からの準備をしておくことが必要なのです。つまり、平時の9年間で利益や資金をため込み、非常時の1年でそれを吐き出していくということです。
二宮尊徳の「四分分度」の教え
財務分析などでは、利益率は高いほうがよいというばかりで、どの程度の利益を残せばよいかは示していません。
このことについては、長い歴史の中で古人がいくつかの指針をまとめています。その叡智(えいち)には学ぶべきところがあります。
たとえば、幕末の農政家である二宮尊徳は、「王制の法」として、四分分度(しぶぶんど)を説いています。
「収穫のうち4分の3を国用として用い、残りの4分の1を将来のために残しなさい」
というものです。
尊徳は、皆が助け合い、高め合う世の中を理想と考えました。そのためには分配の元となるものを残さなければなりません。
それで収入を増加させるとともに、支出の欲を抑えて、将来のために4分の1は残しておくべきと考えたわけです。
現代の企業にあてはめれば、収穫とは企業が生み出した付加価値、つまり、限界利益のことですので、限界利益の4分の1は残せ、ということです。ただ、尊徳の時代は人件費の概念もあいまいでしたので、現代では限界利益の20%程度の利益を残せば安心といえるでしょう。
利益を残して将来に備えることもなく、また備えたほうがよいとわかっていても無視をして放漫経営を行っていると、尊徳のいう「王制の法廃(すた)れて国崩壊に至る」ことになるのです。
法政大学経営学部卒業。在学中に公認会計士第二次試験合格。
卒業後監査法人などの勤務を経て平成元年に独立。
平成14 年、税理士法人報徳事務所を設立。代表社員・理事長に就任。
茨城大学大学院人文社会科学研究科非常勤講師、結城信用金庫員外監事、古河市代表監査委員、人を大切にする経営学会副会長などを務める。
法政大学大学院政策創造研究科客員教授、千葉商科大学大学院商学研究科特命教授、松下政経塾実践経営学講座主任講師、TKC 全国会創業・経営革新支援委員会委員長等を歴任。
著書に『財務経営力の強化書』(あさ出版・共著)、『後継者の仕事』(PHP 研究所・編著)、『「活力ある企業」の条件』(TKC 出版)、『進化の時代を乗り切るための人生と経営の道標』(ラグーナ出版)等多数。
横浜国立大学経営学部卒業。埼玉銀行(現りそな銀行)、会計事務所などの勤務を経て、平成6 年独立、平成18 年税理士法人アンビシャス設立、平成28 年税理士法人報徳事務所と合併、現在、同事務所代表社員・東京本部長。
経済産業省ローカルベンチマーク活用戦略会議委員、明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科兼任講師、TKC全国会中小企業支援委員会副委員長、独立行政法人中小企業基盤整備機構中小企業アドバイザー。
著書に『財務経営力の強化書』(あさ出版・共著)、『後継者の仕事』(PHP 研究所・共著)、『Q&A 金融機関への正しい業績の伝え方のルール』(TKC 出版・共著)など多数。
埼玉大学経済学部卒業後、旅行会社を経て、税理士法人報徳事務所に入所現在に至る。
行政書士・巡回監査士・法学修士・商学修士
青山学院大学経営学部卒業後、出版社、大学院を経て、税理士法人報徳事務所に入所。現在に至る。
巡回監査士
慶應義塾大学法学部卒業後、外資系損害保険会社を経て、税理士法人報徳事務所に入所、現在に至る。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます