3月6日、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は懸案だった元徴用工賠償問題について韓国側の財団が賠償を肩代わりすることを骨子とする最終案を発表、日本政府はこれを評価するとともに過去の政権が表明した “反省とお詫び” を継承することを確認した。これを受けて韓国政府は2019年に破棄を通告した防衛機密に関する協定(GSOMIA)の正常化を表明、両政府は今月中旬にも日本で首脳会談を開催することに合意した。
とは言え、慰安婦問題の経緯もあり日本側の疑念が完全に払しょくされわけではないし、韓国内における大きな反発も予想される。それでも尹氏が、自国の大法院(最高裁)判決より国際法を優先させる “決断” を選択し、日本もこれに応じた背景には地政学リスクの高まりに加えて、国内の厳しい経済情勢がある。国際通貨基金(IMF)が今年1月に発表した2023年の世界経済見通しは+2.9%、一方、日本は+1.8%、韓国は+1.7%、両国とも平均を1ポイント以上下回る。つまり、安全保障と経済の両面において両国の国益は一致しているということだ。
国内における異論や批判を押さえ、今回の解決案を真に不可逆的なものとするためには目に見える “成果” が必要だ。日本はGSOMIA破棄の原因となった韓国向け輸出管理の厳格化措置を解除すると表明、韓国側も世界貿易機関(WTO)への紛争解決手続きを中断すると発表した。経済における正常化は大きく前進するはずだ。安定した互恵関係にもとづく、新たな成果の創出に期待したい。
ただ、解決案は未来と過去を分断するものではない。被害を受けたとする側の集団的な “記憶” が歴史の中で客観視されるには膨大な時間を要するし、価値観の変化や政治的立場の変質によって “記憶” が上書きされることもある。奴隷貿易への関与に対するオランダ首相の謝罪、コンゴ植民地支配に対するベルギー国王の悔恨の表明、100年前の植民地支配に対してドイツがナミビアに表明した道義的責任、カリフォルニア議会による日系人強制収容に対する公式謝罪、、、いずれもこの1、2年の間に起こった “歴史問題” の一部である。無論、これらにはそれぞれの背景があるだろう。だからこそ、我々はしっかりと歴史に学ぶ必要がある。1910年はまだ遠くない。
今週の“ひらめき”視点 3.5 – 3.9
代表取締役社長 水越 孝