(本記事は、小山 昇氏の著書『会社を絶対潰さない 組織の強化書』=KADOKAWA、2023年1月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「潰れない会社」をつくるために、「実質無借金経営」を目指す
「実質無借金経営」が、会社をもっとも強くする
中小企業が、「何があっても潰れない会社」をつくるための絶対条件は、
「金融機関から融資を受けること」
です。
融資(借金)に対する考え方は、経営者によって違います。武蔵野が目指しているのは、「実質無借金経営」です。
実質無借金経営は、無借金経営とは違います。
◉無借金経営
有利子負債(銀行からの借入れや社債など、利子を支払わなければならない借金)がない経営状態のこと。借金がなく、「現時点」での経営が安定している。
【メリット】
- 利子の支払いが経営を圧迫することはない。
- 借金や利子の支払いに追われずに済むため、心理的な重圧がかからない。
- 自己資本の比率が高くなる。
【デメリット】
- 利益があっても、キャッシュフローが悪いと(仕入代金などの支払いと、売った代金の回収のタイミングにズレがある、など)、黒字倒産の可能性がある。
- 手元のキャッシュが少ないと、イレギュラーな問題が起こった場合、資金繰りに行き詰まる。自然災害や世界的な流行病などによる状況の変化や、不況の影響を受けやすい。
- 資金が必要になり、銀行からの借入れを検討する場面で、融資の審査に時間がかかる。
返済実績のない会社に対し、銀行側は融資に慎重になる(融資を受けられる頃には経営状態が悪化してしまっているリスクも高い)。
◉実質無借金経営
有利子負債を抱えているが、それを十分に上回る利益があり、キャッシュ(現金や預金、短期の有価証券など)を保有している経営状態のこと。借金はあるが、資金繰りが安定している。現時点の経営が安定していると同時に、将来のリスクも少ない。
【メリット】
- 有利子負債を完済するだけのキャッシュはあるが、あえて完済しない状態。借りたお金が手元にあっていつでも返せるので、実質的には「借金がない」といえる。
- 有利子負債額を差し引いても、運転資金が十分に残っているので、経営が安定する。万一の状態に陥っても、会社を存続できる。
- 「借入れ→返済」の実績を積み重ねることで、金融機関との信頼関係が築きやすい。
- 法人税は利子を差し引いたあとの利益に課税されるため、実質無借金経営は節税対策にもなる(利子を支払った分だけ、法人税を減らせる)。
- 資金繰りの心配がなくなるため、本業に集中しやすい。
- 月商の3倍の普通預金を確保しておけば、銀行は「この会社は、支払い能力がある」「この会社はキャッシュポジションがいい(手持ちの現金がたくさんある)」と判断するため、融資を受けやすくなる。
【デメリット】
- 金利が高いと支出額が大きくなり、負担も大きくなる。
- 借金が多くなるほど、心理的な重圧がかかる。
- 自己資本の比率が低くなると、銀行の格付けが下がる。
無借金経営と実質無借金経営を相対的に比べてみると、「実質無借金経営の会社のほうが非常時に強い」と、私は考えています。
金利は「保険料」、借入金は「保険金」と考える
武蔵野が金融機関からの借入れを積極的に行っているのは、
「ビジネスチャンスを逃さないため」
「いざというときに備えるため」
です。
会社は、借金があるだけでは倒産しませんが、必要資金が調達できなくなると倒産します。わが社の経営計画書の「資金運用に関する方針」には、次の「2つ」を基本方針に掲げています。
【資金運用に関する方針】※第59期経営計画書から一部抜粋
1.基本
⑴ 財務体制を充実して、現預金と固定預金の合計で長期借入金を上回り、実質無借金経営にする。
⑵ 長期借入金を増やし、月商の3倍の現金・普通預金を確保し、緊急支払い能力を高める。
金利は会社を潰さない保険料とする。金利を払って銀行からお金を借りることは、「安全を買うこと」です。
長期で借りれば急な変化にも対応できるため、経営が安定します。同じ額の借入れなら、長期のほうが毎月の返済額が少なく、計画的に資金運用できます。
貸借対照表(B/S)を見て経営をしていれば、「銀行から借金をしてでも、現預金を増やしておく必要性」が理解できます。
多くの社長が、「金利」を得か損かの損得勘定だけで見ていますが、私は、
「銀行融資は、会社を守る保険に入るのと同じである」
「金利は、保険料と同じである」
と考えています。
私は、金利と借入金を次のように解釈しています。
- 金利……会社が困ったときに助けてもらうための保険料
- 借入金……会社が困ったときに受け取る保険金
わが社は、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言期間でも、全従業員完全雇用で、給料は「100%保障」。毎年4月に行っている基本給の昇給は、「プラス6%」で実施しました。
コロナ禍によって業績が悪化しても雇用を守り続けられ、それだけでなく給料を上げることもできたのは、銀行から融資を受けてキャッシュを「17億円」持っていたからです。
私は高齢のため、同規模で同業種の会社の倍以上の金利に甘んじています。
それでも、銀行から借入れをすれば会社を立て直す時間をつくることができます。
借入金を設備投資や社員教育に使えば、会社を成長させることができます。
社長の仕事は、無借金経営をすることではありません。
予期せぬ事態に見舞われても、決して潰れない「強い会社」をつくること。そのための借金は「正しい」と私は考えています。