選ばれる会社になる ブランディング経営
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(本記事は、川﨑 英樹氏の著書『選ばれる会社になる ブランディング経営』=あさ出版、2022年9月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

企業は最大で最後の教育機関

人事考課制度も、この経営理念に基づいたものに変更しました。

これまでの「販売力」という「定量評価」のみで測定する手法をやめ、チームワークやコミュニケーション、お店作りといったものを評価する「定性(プロセス)評価」に比重を置き、頑張ったスタッフに光を当てる評価制度にシフトしたのです。

個々の販売力よりも、店舗全体のことを考えて行動することのできるスタッフを高く評価する。具体的には、スタッフ評価において、これまで「定量評価」と「定性評価」の割合が9:1だったものを、思い切って、3:7に変更しました。

結果、この評価制度の大胆な転換は、現場で働くスタッフにとって大きな意識改革をもたらすものになったのですーー。

かつて某大手アパレル企業でバリバリと働き、現在ダケシタにおける優秀なマネージャーとして活躍中の女性スタッフがいます。その方は入社8年目ですが、以前の会社では、「どれだけ販売できるか」だけを求められてきたそうです。

彼女はダケシタに転職して来て、「衝撃を受けた」と言います。

理由は……当時の店長から「今は売らなくて良いから」と言われたというのです。「今は売らなくて良いから、お客様としっかり向き合ってください」

前の会社では、絶対に言われない一言でした。

売上を上げることだけを、長年、ひたすら求めてきた彼女にとって、この言葉は仕事観の大きな転換であり、意識改革そのものとなりました。

そして、そのマインドこそが顧客の心をつかみ、結果を出すのだということを現場で身をもって体験し、実感していったのです。

この、数字には表れなくとも、本当に頑張ったスタッフが報われる制度の導入によって、店舗の雰囲気が前よりもずっと明るく、和やかなものへと変わりました。

人事も販売力のあるスタッフや、多くの顧客を持つベテランがリーダーになっていた以前の方針から、若いスタッフがリーダーに抜擢されたり、20代半ばで店長になるスタッフも数多く活躍するようになっていきました。

とりわけ、販売実績重視の人事になりがちな販売業態企業において、同社の店長抜擢の人事はユニークなものです。何しろ、基準は、「経営理念にブレなく向き合っているか」なのです。もちろん、理念と利益の融合は求められますが、経営理念を体現できるスタッフは、結果的に販売実績も上げています。

事実、この経営理念に基づいた経営方針に切り替えてからというもの、ダケシタは地方のアパレルの中小事業所としては異例とも言えるような、増収と増益を続けていくようになったのです。

私は、坂本光司先生から、「企業は最大で最後の教育機関だ」と教えられました。

ダケシタは、まさにそれを実現している会社です。「人」を磨くことで会社が生まれ変わることを、ダケシタは証明し続けているのです。

選ばれる会社になる ブランディング経営
川﨑 英樹
中小企業診断士 (株)エイチ・コンサルティング 代表
1970年生まれ。佐賀県佐賀市在住。
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科修了。MBA(経営学修士)。
2015年(株)エイチ・コンサルティングを設立。
小さくてもキラリと光る中小企業に光を当てるべく、常に現場に赴いて取材し、躍進のためのコンサルティングサービスを提供。人の優れた知恵(叡智)を導き、人幸福の企業経営を支援するという理念をコンサルティング指針としている。
趣味は、空手(和道流)、シーカヤック、小説執筆、読書など多数。
メルマガ「赤ひげ診断士のアウトロートーク」連載中。

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