(本記事は、川﨑 英樹氏の著書『選ばれる会社になる ブランディング経営』=あさ出版、2022年9月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
ブランディングに近道はない
「お酒」には、税金がかかっています。
ですから、未開栓のお酒のボトルや樽をそのまま販売する場合は、「酒税法上の酒類の小売業」となるため、酒類販売業免許が必要になります。つまり、お酒を販売するためには、税務署の許可が必要になるのです。
ローズシェリエを商品化するにあたり、もちろんローズテラスはこの免許を取得する予定でした。ところが税務署に申請しようとしたところ、赤字の会社は免許を取得できない、ということがわかったのです。
コロナ禍にあって、ローズテラスは赤字に転落したところです。コロナ融資を受けていることもあり、税務署から許可の申請がはねられてしまったのです。売上が落ち、経営危機を脱するために商品開発に取り組んでいたのに、赤字だからと新商品を販売できないのでは、元も子もありません。「ローズシェリエを販売するためには、どうすればいいのか?」
我々は頭をひねり、突破口を探しました。
熟考と議論を重ね、我々はとっておきの秘策を使うことにしました。もちろん、違法なことをした訳ではありません。その秘策とは、新しい会社を作ることにしたのです。新規の会社は過去の実績がないので、酒販売の許可が取得できることがわかったのです。(株)Rose(ローズ)という会社を立ち上げ、高木社長の奥様である高木資子さんが社長に就任しました。材料はローズテラスから仕入れ、お酒の製造・販売はローズで行うことになりました。ピンチをチャンスに変えて、新事業を本格化する新たな道筋を創ることができたのです。
「ローズシェリエ」は、まだ商品化していない段階から「欲しい」という人が殺到しました。ホームページのブログで商品開発に取り組んでいることを知らせていたため、「セイントローズ」や「スパークロゼ」のファンに注目され、「早く商品化してください」という問い合わせが全国から寄せられたのです。
しかし、商品開発は最終段階になっても、様々なクリアしなければならない問題がたくさん残っていました。
そのひとつは、ラベルです。
製造会社でボトルにラベルを貼ってもらっているのですが、「お酒」という文字を入れたいと先方が言うのです。調べたところ、入れなくても法律上は問題ないことがわかったのですが、これまでの慣例を大事にしたい、ということでした。
しかし、それではせっかくのおしゃれなデザインが台無しになってしまいます。「ローズシェリエ」はあくまでおしゃれで、高級感を大事にした、特別感の高い商品です。最後の最後で、これまで積み重ねてきたブランディングを壊すわけにはいきません。
そこで苦肉の策で、ラベルを横に広げて、「お酒」の文字を後ろに入れて目立たないようにする、ということで落ち着きました。
ブランディング・シーズの発見から、色、味、行政の免許、製造業者との折り合いやラベルの変更等……ひとつの商品を創り上げるのには様々なハードルが立ちはだかります。
元々、高品質のヒット商品が土台になっている「ローズシェリエ」でさえ、例外ではありません。しかし、それらのハードルをひとつひとつクリアしていくことで、確実にお客様に届けるところまでたどり着くことができます。
ローズテラスの経営理念である〝幸せな時間の提案〞は、この一貫したブランディングを実現した先にこそあるのです。
1970年生まれ。佐賀県佐賀市在住。
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科修了。MBA(経営学修士)。
2015年(株)エイチ・コンサルティングを設立。
小さくてもキラリと光る中小企業に光を当てるべく、常に現場に赴いて取材し、躍進のためのコンサルティングサービスを提供。人の優れた知恵(叡智)を導き、人幸福の企業経営を支援するという理念をコンサルティング指針としている。
趣味は、空手(和道流)、シーカヤック、小説執筆、読書など多数。
メルマガ「赤ひげ診断士のアウトロートーク」連載中。
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