(本記事は、長尾 一洋氏の著書『デジタル人材がいない中小企業のためのDX入門』=KADOKAWA、2022年10月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
少ない人数で生産性を上げる方法
「人を減らす」というのは、働いている従業員にとってはネガティブなイメージのある言葉です。減らされる対象になった人はもちろんのこと、残った人も「仕事量は変わらないのに人が減ってしまったら、もっと忙しくなるんじゃないか」という気持ちを抱いてしまいます。
実際に、これまでと同じ仕事量をそのままの形で、より少ない人数でこなすのは不可能です。1人当たりにかかる負担が大きくなりすぎて、遅かれ早かれ支障が出てしまいます。
「省人数経営」を目指すためには、この部分をクリアにしておかなければなりません。少ない人数でも、つまり労働力の総和が減っても、生産性が上がる仕組みをつくる必要があるのです。
そこで威力を発揮するのがデジタルです。そして、デジタルを武器に使いこなす一騎当千の当事者意識を持った個々の社員です。
「デジタル人材もいないのに、そんな一騎当千の社員が集まるわけないだろう」
そう考える中小企業経営者も少なくないでしょう。ですが、第1章で紹介したDXの担当者選びについても、デジタル技術よりも当事者意識が大切だったことを思い出してください。
中小企業にとって一騎当千の社員とは、当事者意識を持ち、会社のことを自分事として、場合によっては自分の仕事がなくなることも辞さない、それによって効率が上がると喜んでくれる人材です。
そして、中小企業だからこそ取り組める手法をご紹介しましょう。
それは「社員1人ひとりを会社のオーナーにする」ということです。わかりやすく言うと、社員を自社の株主にするということです。「え、うちは株式上場するつもりなんてまったくないよ」と、びっくりする経営者の方もいらっしゃるかもしれません。これは、実際に株式を公開して上場を目指せという話ではありません。
上場企業と同じように会社の情報を、少なくとも自社の社員に対してオープンにしようということです。中小企業では、経営に関することがブラックボックス化しているところもまだまだ多いようです。しかし、それでは若くて優秀な人材は集まりません。
そのため、社員を株主にする疑似株式公開をおすすめします。社員1人ひとりが株主(オーナー)になれば、会社経営が他人事(ひとごと)ではなくなり、自分事になります。
自分の働きが会社の業績に直結し、それがまた給与や賞与だけでなく、配当や株価で自分に返ってくるわけです。社員のモチベーションアップに非常に効果的です。
そして、社員自身にとっても、会社の将来のビジョンを描きやすくなります。