(本記事は、長尾 一洋氏の著書『デジタル人材がいない中小企業のためのDX入門』=KADOKAWA、2022年10月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
オンライン営業 がうまくいかないたった1つの理由
「オンラインでの営業で、成約件数が以前よりも落ちてしまった」
「リアルに会えない商談では、クロージングが難しい」
営業パーソンの中には、このような悩みを依然として抱えている人がいます。
おそらく、オンライン営業の本質的な部分が理解できていないのではないかと思います。ここで改めて、私がこれからの時代の営業手法として提案しているコンタクトレス・アプローチについて、ポイントを絞って説明しておきます。
コンタクトレス・アプローチとは、言葉のままとらえると「非接触でのアプローチ」となりますが、営業手法としては次のように定義しています。
「顧客へのリアル訪問(コンタクト)を減らして、逆にアプローチ数を増やすことでより大きな成果を上げる一連の営業行為」
ここで大事なのが「逆にアプローチ数を増やす」ということです。というのも、リアル訪問によるアプローチに比べて、コンタクトレスの場合は、パフォーマンスが若干落ちてしまうことが想定されるからです。
たとえば、リアルに比べて、コンタクトレスのパフォーマンスが2割減だとします。リアルで1日に3訪問していたものを、そのままコンタクトレス、つまりオンラインで3アプローチする場合は、
リアル 3 > オンライン 3×0・8=2・4
となり、明らかにパフォーマンスの総量は落ちてしまいます。
ですが、オンラインの最大のメリットは「移動時間がいらない」ことです。
これまでは、1日の訪問件数は3件が限度だったかもしれませんが、オンラインであれば、前の商談のすぐ後に別の商談を設定することも可能です。1日に5件のアプローチができるとしたら、オンラインでは2割減であっても、
リアル 3 < オンライン 5×0・8=4
となり、パフォーマンスの総量はアップします。つまり、パフォーマンスの総量を増やそうと思ったら、アプローチ件数を増やす必要があります。
オンライン営業で、以前に比べて実績が上がらない人のほとんどのケースは、「件数」が増えていないことが原因です。アプローチ数が増えないことには、全体としてのパフォーマンスが上がるはずがありません。リアル訪問をオンラインに置き換えるだけでなく、アプローチ数を増やすための取り組みが必要なのです。
オンラインでアプローチ数を増やすには?
新型コロナ禍以前であれば、アプローチ数を増やす手段として「飛び込み営業」というものがありました。新人時代に経験した方も多いことと思います。
ですが、今はこれが難しくなりました。まったくの見知らぬ他人から、直接会って話を聞くことを望む人はほとんどいないでしょう。飛び込み営業をすること自体が、感染症対策への会社のリテラシーを問われることにもなりかねません。
では、いったいどうすればいいのでしょうか。せっかく移動時間が減ってアプローチするための時間は確保できたのに、訪問先がなければどうしようもありません。
そこで、チャレンジしたいのが、リードクリエイションアプローチ(Lead CreationApproach=LCA)です。リード(=見込み客)をつくるためのさまざまなオンラインでのアプローチを営業プロセスの中に組み込んでいきます。
広告宣伝、ウェブサイト、SEO、ブログ、SNS、動画配信、メルマガ発行、オンライン展示会、AR(拡張現実)、オンラインセミナー、メタバース(インターネット上の仮想空間)などを活用して、なるべく多くの見込み客に対して、繰り返しアプローチを重ねます。
情報発信をしながら、相手側の情報を取得することが目的です。できる限り範囲を広げて、新規顧客候補の情報を1件でも多くストックすることを狙ねらいます。
ここで、デジタルが力を発揮します。たとえば、オンライン展示会。1人でも多くの方に来てもらいたいと思っても、リアル開催の場合は参加見込み人数に比例して、会場費や案内役の人件費が増えていきます。案内ハガキや用意するパンフレットの数なども増えますので、経費はどんどん上がります。
ところが、オンライン展示会の場合は、どんなに多くの人が訪れようと、限界費用はゼロです。経費が必要以上にかさむ心配もなく、アプローチ数を増やすことに専念できます。