こうして社員は、やる気を失っていく
(画像=REDPIXEL/stock.adobe.com)

(本記事は、松岡 保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』=日本実業出版社、2022年4月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

組織|Type5|「理念」が言葉だけ
細部に魂が入っていない組織

「理想と現実は違うよね」―企業理念が浸透していない組織

多くの企業が、理念や社訓、社是、ミッション、ビジョン、クレド、パーパスなど、さまざまな呼称で自社が大切にするメッセージを社員に伝えています。しかし、うまく社内に浸透していないことも多いのが現実です。

「クレド」をつくって業務改善をして業績を上げた企業の話を、社長がテレビで見て感激。「うちもクレドをつくるぞ!」と言って、早速取りかかることに。

しかし、クレドを配られた社員は「これって、他社もやっているからうちでもってこと?」。配った上司も、「とりあえず、社長の肝煎りだから。大事にして」とだけ。結局、みんなの机の引き出しの中で眠っていた。

毎朝、朝令で社訓を唱和するものの、それはそのときだけ。「お客様の笑顔のために全力を尽くします」と言うけれど、実際は、売上目標絶対主義で、お客様より数字を重視。なんだか、日々やっていることと、言っていることが違う……。

就職活動の先輩訪問を受けて、「この前、説明会で御社のミッション・ビジョン・バリューを聞いてすごく感激したんです。先輩の会社ってすごいですね。具体的には、どんな提案をしているんですか?」と聞かれ、絶句。そんなミッション・ビジョン・バリューなんて、入社したときに聞いただけだし。

などなど、実際とギャップがあったり、そもそもまるで浸透していなかったり。そのような矛盾や曖昧さが、徐々に組織への信頼感や仕事へのやる気を失わせていく原因になることもあります。

【改善策】「企業理念」を実現する「人事の仕組み」を導入する。

「企業理念」「コア・コンピタンス」「仕組み・制度・施策」を三位一体にする

企業理念が「絵に描いた餅」になっていて、社員のやる気が下がっている。その原因はいくつか考えられますが、多くの会社で共通しているのは、企業理念に掲げられている行動と、実際の人事評価などの仕組みの連携がとれていないことです。

経営で大切なのは、企業理念を実現することと、競合にも負けない強い会社になることの2つです。そこで、この両方を達成するための人事の仕組みについて考えてみましょう。

結論から言うと、「企業理念」と「コア・コンピタンス」「仕組み・制度・施策」が三位一体となっていることが重要です

「企業理念」は、多くの場合2つの要素で構成されています。1つはどのような価値を提供して企業が存続したいのか、社会からどのような支持を集めて発展したいのかということです。もう1つは、それらを実現するために社員に求められる大切な考え方や行動の基準です。

「コア・コンピタンス」は、会社の中核的な強みで、競合他社と戦って勝つためのポイントです。それは高い技術力かもしれませんし、生産力や調達力、はたまたスピード感を持った対応力かもしれません。これは、時とともに変化することもあります。

人事の「仕組み・制度・施策」は、人を動かし、組織をつくっていく基盤となるものです。評価制度や情報共有の仕組みなど、人にまつわるあらゆる「仕組み・制度・施策」が該当します。

「人」こそが「企業理念」を実現し、「コア・コンピタンス」を生み出し、それを進化させていけるのです。そのため、この3つが一体となって機能することが不可欠です。

成功事例というだけで、「企業理念」や「コア・コンピタンス」が異なる会社の「人事の仕組み」を真似してみてもうまくいきません。自社に合った人事の「仕組み・制度・施策」を考える必要があります。

それを考える際の視点はシンプルです。「企業理念」に沿った行動、「コア・コンピタンス」につながる行動は何かを特定し、それを推奨し、実際にやった人を評価することです。どんなに理念を掲げても、それをめざして取り組んだ人を発見もできず、無視するような会社を誰が信じるでしょうか。

また、経営者ばかりが「企業理念」のことを考えていて、実際にはメンバーに「企業理念」の魂が伝わっていないケースもよくあります。

社内に「企業理念」を浸透させるには、管理職の存在が重要です。具体的には、2つの役割を果たしてもらわなければなりません。

『こうして社員は、やる気を失っていく』より
(画像=『こうして社員は、やる気を失っていく』より)

1つは、経営者や経営チームの考えていることを、途中で捻じ曲げずに、きちんと伝える役割です

そしてもう1つは、日常においてメンバーに「企業理念」を理解させ指導する役割です。1つひとつの業務と理念を結びつけ、「企業理念」が言葉だけではなく、どのように事業と結びついているのかを説明し、実感させ、それを体現させるのです。

ですから、管理職の育成では、「企業理念」の理解という視点も重要です。管理職向けの研修や勉強会の内容が、常に「企業理念」と紐づいているかどうかをチェックしてください。

また、社内のあらゆることが、「企業理念」と合致しているかも再点検しましょう。社内報の記事や成功事例が常に「企業理念」を体現するものになっているか、表彰者の選定や昇格・昇進時の評価基準に「企業理念」の体現という観点が入っているかなどです。

「企業理念」に関する社長のメッセージを一方的に出すだけではなく、日頃の仕事の判断基準に浸透させていく努力が不可欠なのです。

こうして社員は、やる気を失っていく
松岡 保昌
株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。1963年生まれ。1986年同志社大学経済学部卒業後、リクルートに入社。『就職ジャーナル』『works』の編集や組織人事コンサルタントとして活躍後、2000年にファーストリテイリングにて、執行役員人事総務部長として当時の急成長を人事戦略面から支える。
その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として逆風下での広報・宣伝の在り方を見直し新たな企業ブランドづくりに取り組む。2004年にソフトバンクに移り、ブランド戦略室長としてCIを実施。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として球団の立ち上げを行う。また、AFPBB News編集長として、インターネットでの新しいニュースコミュニティサイトを立ち上げる。
現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)。

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