こうして社員は、やる気を失っていく
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(本記事は、松岡 保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』=日本実業出版社、2022年4月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

組織|Type2|仕事を押しつけ合う
全社的視点、協働の意識がない組織

「これは○○課がやるべきなので」―仕事を押しつけ合う組織

ある会社でのこと。急ぎの対応が必要な案件に、関連する部門の担当者が集まり対応を協議していた。ようやく解決策が見えてきて、実際の作業の分担を話し合おうとしていた矢先、1人が「うちはもう手いっぱいですし、そもそもこの件は○○さんのところでやるべきでしょう。よろしくお願いしますね」と言って席を立ってしまった。「ああ、たしかにそうですね。ではそういうことで、○○さん、よろしくお願いしますね」と、他のメンバーも次々に席を離れる。

押しつけられた部門の担当者は、「え〜、うちだけがやるの?」と困惑。

◆ ◆ ◆

ここまで露骨ではなくても、このような空気が漂うことがよくあります。部門をまたがる案件なのに、「それはうちが対応しなくても他でできるでしょう」など、仕事を押しつけ合う雰囲気が広がると、「どうせ誰か(どこか)がやる」「無理に頑張るのはバカらしい」と、やる気も下がっていきます。

【改善策】当事者意識を高めるため、「関係の質」に注目する。

「全体最適の視点」と「役割認識」の醸成からはじめる

戦国武将の毛利元就が子に授けたと言われる「3本の矢」の教え。1本の矢はすぐ折れるが、3本まとまれば簡単には折れない。集団の強みをたとえる意味でも、よく使われる言葉です。しかし、一方で、集団だからこそ起こる手抜きや責任逃れのような心理の働きもあります。

たとえば「傍観者効果」というものがあります。何か事が起こったとき、それを見ている人が多くなればなるほど、「誰かがやってくれるだろう」と思い、行動が抑制されるという心理現象です。その背景には、自分がやらなくてもいいという想いの他に、行動を起こした結果に対して、周囲から批判的な評価を受けることへの恐れもあると言われています。

また、「社会的手抜き」と言われる現象もあります。フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマン氏が「綱引き」や「荷引き」などを行う際、人数が増えるほど1人当たりの発揮する力が減るという「リンゲルマン効果」を見出し、その後も様々な実験で立証されてきました。

共通するのは、当事者意識の欠如です。「社会的手抜き」に関する実験のなかでも、集団で作業する際に個人の作業量がわかるようにしている場合や、被験者が与えられた課題に関心を持っていて、達成しようという動機付けが高い場合には社会的手抜きが起こりにくいと言われています。つまり、「自分がやるべきことが明確で、何のために行うのかという動機付けがしっかりしている=当事者意識がある」ことが、重要になるのです。

では、組織をまたいだ仕事における当事者意識はどのように生まれるのか。そのキーワードは「全体最適」です。部門ごとに目標を達成する最適な状態をつくっていく「部門最適」の一方で、全社的に最適な状態をめざすのが「全体最適」という考え方です。

各部門にはそれぞれの役割があり、1人ひとりの仕事は、全体とつながっています。それらがうまく融合しているので会社全体が機能しているはずです。それゆえ会社は売上や利益を出せているのです。この、会社全体で良くなっていくという認識が広がることが重要になります。要は、「自分の部門だけが良ければいい」のではなく、「会社全体で良い状態をつくっていく」という意識を、いかに持てるようにするかが大切なのです。

コミュニケーションの深まりで、「関係の質」を高める

全体への意識を高めていくためには、「関係の質」の向上が必要です。

「関係の質」とは、たとえば相互理解や相互の尊重が得られ、信頼関係が培われていること、率直なコミュニケーションや意見交換がなされていること、躊躇なく自己開示が行われ、相手の成長を促すためのポジティブ・フィードバックがなされていることなど、お互いの「関係性の質」を高めた言動のことです。

そこで紹介するのが、MIT元教授のダニエル・キム氏が提唱した「組織の成功循環モデル」です。成功する「グッドサイクル」は、まず互いに尊重し、結果を認め、一緒に考える「関係の質」を高める。すると、気づきが生まれ、共有し、当事者意識を持つ「思考の質」に結びつく。さらに自発的・積極的にチャレンジする「行動の質」へつながり、成果である「結果の質」が高まる。そして、それがまた互いの信頼関係を深めて「関係の質」が高まるという好循環を生むと言います。

しかし、一方で、「結果の質」にこだわり結果ばかりを追い求めると、成果がなかなか上がらず、「関係の質」でも対立や押しつけがはじまり、「思考の質」でもメンバーは考えることをやめ、受け身になり、「行動の質」も低下する。そのためさらに「結果の質」が下がるという「バッドサイクル」の負のスパイラルがはじまるとも説きます。

つまり、「全体最適」を意識するためには、まずは「関係の質」から高めていくことが重要なのです。

『こうして社員は、やる気を失っていく』より
(画像=『こうして社員は、やる気を失っていく』より)
こうして社員は、やる気を失っていく
松岡 保昌
株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。1963年生まれ。1986年同志社大学経済学部卒業後、リクルートに入社。『就職ジャーナル』『works』の編集や組織人事コンサルタントとして活躍後、2000年にファーストリテイリングにて、執行役員人事総務部長として当時の急成長を人事戦略面から支える。
その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として逆風下での広報・宣伝の在り方を見直し新たな企業ブランドづくりに取り組む。2004年にソフトバンクに移り、ブランド戦略室長としてCIを実施。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として球団の立ち上げを行う。また、AFPBB News編集長として、インターネットでの新しいニュースコミュニティサイトを立ち上げる。
現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)。

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