こうして社員は、やる気を失っていく
(画像=NicoElNino/stock.adobe.com)

(本記事は、松岡 保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』=日本実業出版社、2022年4月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

組織|Type4|前例と成功体験から抜けられない
新しいものを生み出せない組織

「昔からこうやってきたから」―本質思考の欠如した懐古主義組織

そこそこの売上は確実に上げている組織。だが、かつての勢いはなく、将来的にこのままで大丈夫なのかと不安を感じたメンバーが、定例会議のなかで思いきって問題提起をしてみた。

「成長率は、このところ鈍化しているのが気がかりです。新たな戦略か、新しい事業創出など、何らかの対策をしていってはと思うのですが」

「うちには○○という絶対的な強みがあるから。今までどおりしっかりやっていけば大丈夫だと思うよ」

「そう言えば、○○を発表した直後はすごかったよな。あのときは……」

過去の思い出話に花が咲き、結局、うやむやなまま会議は終了。

◆ ◆ ◆

何か新しいことを提案しても、「いや、今までのやり方でうまくいっているからいいよ」とか「昔からこのやり方で間違いないから」と簡単に切り捨てられる組織では、なかなか新しいものを生み出す気風は生まれません。とくに、過去に大きな実績を上げたなど、成功体験を持つ組織にありがちな思考停止状態とも言えます。

「前例はないし、誰がその責任をとるんだ?」―安全第一主義の組織

過去で時が止まってしまっている組織も困りますが、安全第一で前例にこだわる組織も困りものです。

たとえば、協力会社から魅力的な新規事業に関する提案があったある企業。それを実現していくには、事業を横断した取り組みが必要で、上司預かりとなっていた。

メンバー「先日の事業提案の件なのですが、協力会社さんから、その後の状況確認の連絡がきていまして。どうでしょうか?」

上司「あれねえ。僕はすごくいいと思うんだよ。でもねえ。他部署がなかなかうんって言わなくてねえ。責任の所在がどうも曖昧になりそうだし」

メンバー「新しいプロジェクト組織をつくるとか、難しそうですか?」

上司「う〜ん、うちの経営幹部、そういうのあまり好きじゃないからなあ。前例もないしね。どこから話を進めるか、難しいよねえ」

メンバー「そうですか……」

◆ ◆ ◆

このようなやりとりが出てくる組織では、「どうせ、うちは新しいことを提案してもまず無理だから……」とあきらめ、挑戦する意欲が低下していきます。

【改善策】残すべきもの、変えるべきものを、徹底的に議論する。

本質を考える「ゼロベースシンキング」と「未来からの逆算」ができる組織にする

第2章でも取り上げましたが、本質を考える「ゼロベースシンキング」がここでも重要になります。いくら過去に大きな成功体験があったとしても、惰性の延長の先には、イノベーションは起こせません。前例をあえて否定するぐらいの覚悟で、新しいものを生み出す努力が欠かせません。

そのためには、一度、会社が大事にすべきものを整理する必要があります。「残すべきもの」と「変えるべきもの」を明確にし、変えるべきことは1日も早く変えなければなりません。新しいものが生まれない要因の奥底にある真因は何か、どうやったら新しいものが生まれるのか、経営幹部や管理職を中心に、徹底的に議論しましょう。

また、未来をしっかり考え、そこから逆算した準備も必要です。まさに未来適応のための準備です。不確実なことが多い世界だからこそ、世の中がどう変化していくか、そのなかで自社はどう力を発揮し続けていけるかを考え抜く。20年後、10年後、5年後、世の中がどうなっているかを想像し、そのうえで自社に足りない技術力や商品力、サービス力を特定して、それらを実現させるための開発をしましょう。

大切なのは、現在の延長から考えるのではなく、未来から発想して、それに向かう準備をすることです

これらの議論を行うために、有効な手法としてKJ法的アプローチがあります。KJ法は、文化人類学者である川喜田二郎氏が著書『発想法』(中央公論新社)の中で紹介した、データをまとめるための手法です。

この手法は、1か所に集められた多くの情報に対して、似たものを集める「グルーピング」、そのグループに見出しをつける「ラベリング」、グループ間の関係性を整理する「図解化」、それをまとめる「文章化」という手順を踏みます。そうすることで、本質的な問題は何かがわかり、問題解決のヒントが見つかるのです。

このアプローチは、先にフレームを決めません。フレームに当てはめて分類してしまうとフレームに収まらない問題を見落とし、違う構造の問題に気づかないからです。

未来適応を考える会議に参加するメンバー全員が、未来のために何が必要かを付箋に書き出し持ち寄りましょう。多くのアイデアを出し、それを全員で分析し、未来につながる新たな枠組みを見出していきましょう。

誰かひとりが考えるのではなく、できるだけ多くの社員を巻き込んで行うことにより、「当事者意識」と「納得度」も高まる手法として非常に有効です。

チャレンジしたことそのものが評価される制度に設計し直す

チャレンジが自然と生まれるように、「評価制度」の見直しも必要です。挑戦して失敗した人が本流から外されたり、二度と復活できない事例を見ていたとしたら、誰も新しいことにチャレンジしようとはしません。

たとえば、新しいことや難易度の高いことにチャレンジした場合は、それをプラス2で評価し、失敗した場合はマイナス1に留める。そのような評価にすると、たとえ失敗したとしても、チャレンジしたほうが評価されるということが明確になります。むしろ、何もチャレンジしなければ、毎年評価がマイナス1になるという評価制度も考えられます。

全員が、何かをはじめようとする、チャレンジしようと思う、そのように人が動き出すには、人事の「仕組み」や「制度」「施策」も大切なのです。

こうして社員は、やる気を失っていく
松岡 保昌
株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。1963年生まれ。1986年同志社大学経済学部卒業後、リクルートに入社。『就職ジャーナル』『works』の編集や組織人事コンサルタントとして活躍後、2000年にファーストリテイリングにて、執行役員人事総務部長として当時の急成長を人事戦略面から支える。
その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として逆風下での広報・宣伝の在り方を見直し新たな企業ブランドづくりに取り組む。2004年にソフトバンクに移り、ブランド戦略室長としてCIを実施。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として球団の立ち上げを行う。また、AFPBB News編集長として、インターネットでの新しいニュースコミュニティサイトを立ち上げる。
現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)。

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