ゴディバ ジャパン
ジェローム・シュシャン
日本およびアジアを中心とする国際市場において25年以上に渡るラグジュアリーブランドのマネージメント業務に従事した経歴を持つ。2010年6月にゴディバ ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任、革新的な新製品の開発やチャネル拡大戦略、マーケティング施策により多様化する顧客のニーズに応え、日本の業績を7年間で3倍に成長させた。日本以外に、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、ベルギーの生産工場(「Manufacture Belge de Chocolats」)のマーケットを統括する。2016年に、初のビジネス書「ターゲット ~ゴディバはなぜ売上2倍を5年間で達成したのか?」を執筆。フランス人社長が日本の武道の一つである弓道を通して得た、マネージメントやリーダーシップへのアプローチについて綴っている。同書の英語版は2018年4月に出版され、海外からもそのユニークなビジネス手法に関心が寄せられている。2019年に、「ゴディバ ジャパン社長の成功術 働くことを楽しもう。」を出版。若いビジネスマンに向けたハッピーマネジメント術を紹介している。

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ゴディバ流ハッピーマネジメント

会社は自己実現の場です。だから究極を言えば、会社に行くことが楽しい、会社で働くことがハッピーでなければいけません。ゴディバでは、そんな職場作りをしています。

外資系の企業は人を育てない

知り合いの日本人からそう言われたことがあります。

確かに、外資系の企業にはキャリアアップを目指す人が多く、ステップアップのために2、3年で辞める人が多いのも事実です。

私自身も、転職しながらキャリアアップしてきたわけですから、「転職する」ことに対して否定的なイメージはありません。

ただ、会社を経営する側の立場から言わせていただければ、優秀な人材には長く会社にとどまってもらって、活躍してもらいたいと心から思っています。

ゴディバはチョコレートを通じて、お客様にハッピーをお届けする会社です。ですから、その会社の社員もハッピーでなければならないと考えています。

社員がハッピーになるためにいろいろな施策を実施していく。それがゴディバ流ハッピーマネジメントです。社員がゴディバという会社のなかで成長していき、ハッピーになっていく。そんなあり方がゴディバの理想であると考えています。

社員のみなさんがハッピーな気持ちで、自分から仕事に向かっていく。そういう形ができたなら、キャリアアップを目指して転職する人がいても、その会社は「人を育てている」と言ってもよいのではないでしょうか。ゴディバはそういう会社を目指しています。

労働力不足時代の理想の職場のあり方とは

いま日本は深刻な労働力不足時代に突入し始めています。

いわゆる団塊の世代という人口のなかで大きな比率を占めていた人たちが引退し始め、その世代が抜けた部分を補うことなく、人口減少が労働力不足に追い打ちをかけているのだと思います。これから、日本の人々、日本の経営者たちはこの問題に立ち向かっていかなければなりません。

実際にいろいろなことが、さまざまな現場で始まっていると思います。飲食関係では、店舗に立つ店員さんたちを競合企業が奪い合っています。

企業は、シフトの組み方、アルバイト、パートタイム、リタイア世代の起用など、いろいろな方法でこの労働力不足の問題を解決しようとしています。

日本政府が打ち出した、外国人労働者の受け入れも、この流れの一環だと思います。これからも、労働力不足を原因とした問題が起こるでしょう。しかし現在の状況は、悪いことなのでしょうか。働く人たちの立場から考えれば、選択権は働く人たちに移っていると言えるのではないでしょうか。

同じ賃金なら、労働環境がよく、楽しい職場を選ぶ。働く人たちが、そういう選択を繰り返していくことで、世の中は少しずつ改善されていく。また企業側の立場で言えば、楽しい職場、働く人にとってハッピーな職場を作れない会社は、労働力を確保できず、苦しい立場に追い込まれていくのではないでしょうか

これからの日本は、どの会社もハッピーな職場作りをしなくては、いけないのだと思います。

ゴディバ流ハッピーマネジメント

ゴディバはいろいろな人材教育プログラムを実施しています。プロフェッショナルな人材育成と、ハッピーな職場作りを実現するためのプログラムです。

ただ、ここではそれらの専門的なプログラムのことではなく、どこの会社、職場でも簡単にできるハッピーマネジメントについてお話ししたいと思います。

ゴディバには、ヨーロッパ、アメリカ、日本などを含むグローバル全体で、スタッフやチームの成功を祝福する習慣があります。

ゴディバ ジャパンもチームとして何度か表彰されています。また、ゴディバ ジャパンのなかでも、優秀なチームやスタッフを表彰しています。

私の個人的な印象ですが、日本の企業は社員への賞賛や表彰の機会が少ないと思います。「褒める」ことより、「叱る」「命令する」ということが普通、というような風潮が、まだ少し残っているのではないでしょうか。

ハッピーマネジメントは、その逆を行くのです。上司は部下を褒める。また、上司だけではなく、社員同士もお互いのよいところを見つけて褒める。とにかく、社内で褒め合う習慣を作るのです。

お互いを褒め合い、お互いをハッピーにして、お客様をハッピーにする。簡単ですが、とても効果があります。みなさんの会社でも、ぜひお試しください。

また、私は、**「人間はハッピーであるためには、自立していけなければならな

い」**とも考えています。みなさんご存じだと思いますが、ゴディバ ジャパンは売却により独立しました。これはどういうことかというと、社長である私も、社員も、これからはグローバルからの指示を待つことなく、いろいろなことを自分で始めなければならないということです。

指示を待って、忠実にこなすことも大切ですが、それだけではこれからは困るとも思っています。なぜならば、「指示を待つ」姿勢は、指示がなければ動かないということに繋がりかねないからです。

時代は流動的で、不安定で、曖昧です。ひとりの指示で組織が動く時代は終わっています。それぞれの状況や局面で、自分の判断で仕事を始め、進めていくことを今の時代は要求していると思います。

誰かの指示を待つのではなく、みんなが自分で発進できる「セルフスターター」になる。これが、これからのゴディバ ジャパンが目指す新しいハッピーです。

セルフスターターは、新しいアイデアを持ち込み、自分の意見を推奨し、擁護する勇気が必要になります。同時に、経営陣は、スタッフが提案しているアイデアを最初に信頼しなければなりません。

私自身も、それらの提案を受けて、明確な指示を与えることもあるし、ただ話を聞いて、同意するかを「迷う」こともあります。ただ、これはこのような進め方でよいと思っています。なぜならば、これは白黒をつけて判断する場所ではないからです。提案者と提案される側で、そのアイデアを、「迷いながら」「やりながら」、徐々にバランスをとり、よい形にしていく過程だからです。

私のアシスタントが、「リモートワーク」プロジェクトの推進に参加したいと言ってきました。もちろん、彼女は人事部に所属していません。

ただ、彼女は私の「働き方を選択し、自分の仕事の仕方に責任を持つことで、より創造的で、革新的になれる機会を得られる」という考えに共感し、興味を持ってくれたのです。私は彼女の話を聞きながら、彼女の普段の仕事はどうするのかというような質問はしませんでした。

私は彼女の意思に任せることにしました。彼女は自分の通常の仕事以外に、プロジェクトに熱心に取り組み、プロジェクトは成功を収めました。

彼女は私が望むセルフスターターだったのです。