(本記事は、著者・ニール・パスリチャ、翻訳・長澤 あかね氏の著書『9ルール~自分を変える「黄金の法則」』=大和書房、2022年11月12日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
一つのことに深く集中するメリット
執筆の時間が完全に消えてしまった。
ブログを書いていた頃を振り返って気づいたのは、自分がかつては「朝4時起き」や「朝4時まで働きづめ」をするタイプの人間で、みんなが眠っている間にコツコツ書いていたこと。そうやって、1000日に1000回ブログを投稿したのだ。でも今は、高速レーンを長く走っていたらそのうち車輪が外れてしまう、と知っている。だから、睡眠や家族といった大事なバケツに時間を取っていないらしい人たちからのアドバイスに、抵抗を覚えるようになった。
僕に必要なのは、これ以上時間をかけずにさらに多くの仕事をこなす実践的な方法だ、と気がついた。しかも、今すぐ必要だった。
そういうわけで、ついに解決策を見つけた。それが僕のキャリアと時間と正気を守ってくれた、と今実感している。きっとあなたにも、この解決策が必要なはずだ。
僕はこれを「アンタッチャブルな日」と呼んでいる。「アンタッチャブルな日」には、どんな方法を使おうと、どこの誰であろうと、絶対に僕を捕まえることはできない。
その結果、どうなったのかって?「アンタッチャブルな日」は、僕の秘密兵器になった。ざっくり比較すると、会議の合間に執筆している日は、1日に500ワードくらい書く。でも、「アンタッチャブルな日」には、5000ワード書くことも珍しくない。なんと10倍だ!
しかも、執筆の目標を達成したおかげで、1週間ずっとハイな気分でいられる。
なぜ「アンタッチャブルな日」には、生産性が10倍になるのだろう? ミネソタ大学経営学教授ソフィー・ルロイの2009年の素晴らしい研究論文によると、人は「一つの仕事」に取り組んでフロー状態に入ると、「複数の仕事」に集中しようとしているときよりも生産性が上がる。
ルロイは「注意残余」という言葉をつくり、1日に多くの会議や仕上げなくてはならない複数の仕事を抱えていると、なぜ生産性が落ちるのかを説明している。要するに、前の仕事に注意が残ってしまい、前の仕事のことをついつい考えてしまうのだ。
「アンタッチャブルな日」のことを人に話すと、みんなが笑いだす。
誰もが一日に何百通ものメールやショートメールやスマホのメッセージを受け取って、山ほどの業務やプロジェクトや優先事項を必死でこなしている。なのに、そんなすべてから逃げ出すなんて、想像するだけで笑えるのだろう。
でも、できるのだ。
いや、しなくてはならない。
では、「アンタッチャブルな日」の様子を詳しく紹介しよう。「アンタッチャブルな日」には2つの要素がある、と僕は考えている。
要素1:深くクリエイティブな仕事
人はゾーンに入ると、脳にエネルギーがみなぎって、フロー状態になる。すると、取り組んでいる大きなプロジェクトは一歩一歩、着実に達成されていく。
要素2:小さな元気の素
壁にぶち当たったときに心を刺激し、クリエイティブな回路を開くのに使える、ちょっとした燃料噴射のことだ。仕事がはかどらずイライラする瞬間は誰にでも訪れる。それを回避するよりも大事なことは、そんなときにさっと取り出せる心のツールキットを備えておくことだ。僕のツールは、ジムへ行って運動する、アーモンドを一袋食べる、自然の中を散歩する、10分間瞑想する、新しい仕事場に移る、というもの。
「アンタッチャブルな日」をどんなふうに実現しているのかって? カレンダーで今日から16週先を見て、毎週丸一日を「アンタッチャブルな日」としてすべてから遮断する。全部大文字で「UNTOUCHABLE」と書き込むのだ。ほかのものは全部大文字で書いたりしないけど、「UNTOUCHABLEな日」にだけは、大声で叫ぶことを許している。
なぜ16週先なのかって? 週の数は重要ではない。僕にとって16週先は、講演の予定が組まれたあとというだけで、重要なのは、ほかのどんな予定もまだ入っていない、ということ。スケジュール上の魔法の瞬間だ。ほかの何かが「俺の場所だ」と主張する前に、「アンタッチャブルな日」の旗を立てられる、手つかずの時期なのだ。
実は「アンタッチャブルな日」には、自分が厚さ5センチの防弾ガラスで全面を覆われた車に座っている姿をイメージしている。何も入ってこないし、何も出ていかない。会議は防弾ガラスに跳ね返される。ショートメールも、緊急の連絡も、電話もだ。スマホは一日中「機内モード」だし、ノートパソコンのワイファイも無効にしている。僕を邪魔できるものは何一つないし、実際、何物にも邪魔されていない。だから、ラクに、自由に、深く仕事に没頭できる。
では、「アンタッチャブルな日」の防弾車に何かがぶつかってきたら? たとえば、あっと驚くような招待状をもらったり、自分よりずっとビッグな誰かがこの日しか空いてなかったりしたら?
僕は、簡単なルールを設けている。
「アンタッチャブルな日」は絶対に消してはならないが、その週の間なら動かしても構わない。でも、週をまたぐのはダメ。
「アンタッチャブルな日」は僕がしているほかの何より重要なので、水曜日から木曜日や金曜日に移す必要があるなら、移しても構わない。たとえそのために、4つの会議を動かさなくてはいけなくても。このアプローチの素晴らしいところは、カレンダーに「アンタッチャブルな日」の旗を立てると、その気分を延々と感じられること。予約を入れた途端に、あの深い生産活動がくれるクリエイティブな高揚感が発動し始めるのだ。
そして、僕の「アンタッチャブルな日」には、その日を実現するためのさらなる仕組みがある。
訳書に『メンタルが強い人がやめた13の習慣』 (講談社)、『マルチ・ポテンシャライト好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』 (PHP研究所)などがある。
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