9ルール 自分を変える「黄金の法則」
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(本記事は、著者・ニール・パスリチャ、翻訳・長澤 あかね氏の著書『9ルール~自分を変える「黄金の法則」』=大和書房、2022年11月12日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

ツイてないことが重なる日は、一つひとつをバラして考えよう

実際には、どうすればいいのだろう?

自分自身に語っている恥のストーリーに目を向けて、もっといいストーリーに変えるには、一体どうすればいいのだろう?

レンズをずらすことを学ばなくてはいけない。別のストーリーを語るのだ。あなたは自分自身について、たくさんのストーリーを自分に言い聞かせてきたことだろう。自分が自分に語っているストーリーを、別の視点からーー新しいレンズでーー見るすべを学ぶ必要がある。

でも、どうやって? 何を学ぶときでもやり方は同じだ。そう、練習! 地道な練習だ。だから、今ここで一緒に練習しよう。そのあとで、3つの質問をしたいと思う。それは、僕が視野を広げ、頭の中で恥のストーリーを構成し直すときに、投げかけている問いだ。

今から使うシナリオは、キャロル・ドゥエックの著書『マインドセット「やればできる!」の研究』(草思社)に登場するケーススタディを基にしている。

「ある日、あなたは12年生〔日本の高3にあたる学年〕の化学の授業に出席した。この授業は好きだけど、テストの答案が返ってきたら65点だった。がっかりして親友に話したのに、彼女は大急ぎでどこかへ行ってしまった。無視された気分だ。そこで、家に帰ろうと車に向かったところ、駐車違反の切符を切られていた」

さて、どんな気持ちになっただろう?

僕とよく似たタイプの人なら、ショックで完全にへこんだはずだ。

さあ、あなたはどんなストーリーを自分に語り始めるだろう?

こんなふうに言うのではないだろうか。「私は化学がさっぱりダメ。大学に入るなんて絶対に無理ね。親友にも嫌われているけど、理由がわからない。私って本当にバカだから、止めちゃいけない場所に車を止めてしまった。なんてひどい日なの!」

でも、シナリオをじっくり見てみると、たぶん背景がもっとよく見えてくるだろう。レンズを少しだけずらせるだろうか? 化学のテストはただのテストで、中間試験でも期末試験でもなければ、最終評価でもない。これまでに、ヘマをした授業はいくつくらいある? たぶん山ほどあるだろう。誰だって同じだ。

親友のことはどうだろう? 無視された気がしたのは、彼女が急いでいたからだ。なぜ急いでいたのか、あなたは知らない。よくない知らせを聞いたのかもしれないし、大事な場所へ急いでいたのかもしれない。慌てて授業に向かったり、大事な電話が入ったりしたのかもしれない。あなたを見捨てたわけではないし、嫌いになったわけでもない。あなたを押しのけたり、イヤな顔をしたりもしていなかった。あなたも今まで、友達や家族が話をしたがっているときに、急いでいたことはないだろうか。もちろんある。誰だってある。

それから、駐車違反の切符。あれはただの切符だ。車をレッカー移動されたわけでも、事故に巻き込まれたわけでもない。切符を切られることなんて、みんな経験ずみだ。あれは自治体のお金儲けだから。警察隊を走り回らせ、「駐車違反」のラインをほんの少し踏んでいる車や時間超過しているパーキングメーターを探させ、切符係が切符を切る。これで前科がつくわけでも、刑務所に送られるわけでもない。

つまり、言いたいのはこういうこと。

僕らの脳は、ある見解を瞬く間に採用してしまう。自分が受けているひどい仕打ちが、全人生を転覆させる壮大な計画の一部だ、とつい考えてしまうのだ。

でも、そんなことはない。

僕らがやるべきことは、自分自身に別のストーリーを語るすべを学ぶことだけ。

「来週の中間試験に向けて、一生懸命勉強すればいいだけじゃない?」
「友達は大丈夫かな。明日連絡して、話を聞いてあげたほうがいいかどうか確認しよう」
「ああ、切符は学校の外で3時ちょうどに切られてる。今度から遅れた場合に備えて、メーターにはちょっと多めにお金を入れておこう」

こんなふうにレンズをずらすのは、たやすいことだろうか? いや、もちろん簡単ではない。とても難しいことだ。自分自身に別のストーリーを語るすべを学ぶには、練習が必要なのだ。

それには、何が役に立つだろう?

視点を切り替える3つの質問

そろそろ3つの重要な質問をしよう。

この3つの問いは、「ここにうずくまっていたい」と言う脳を暗がりから無理やり引っぱり出して、僕が自分自身に別のストーリーを語る助けになってくれている。僕に役に立つ質問だから、きっとあなたの役にも立ってくれるだろう。

では、紹介しよう。

1.これは死ぬときに重要なことか?

この質問は、自分自身にどんなストーリーを語っているときでも役に立つ。それに、尋ねやすい問いでもある。答えはほぼほぼ「いいえ!」だから。

車を5〜6回、どこかにぶつけてしまった? でも、それはあなたが死ぬときに重要なことだろうか? いいえ。そんなことはない。なら、自分に言い聞かせよう。「運転の練習をしていただけだ」と。

会社をクビになってしまった? もちろん、今はつらくてたまらないだろう。でも、それはあなたが死ぬときに重要なことだろうか? いいえ。では、自分に言い聞かせよう。

「あんな経験ができてよかった。好きな仕事を探す準備が、いよいよ整ってきたから」

『ガーディアン』紙に掲載された「死ぬ瞬間の5つの後悔」に関する記事を、読んだことがあるだろうか? 緩和ケアの介護士ブロニー・ウェアは、何千人もの死に立ち会い、そこで耳にした人生最大の後悔をみんなに伝えている。それは次の通りだ。

「他人が期待する人生ではなく、自分に正直な人生を送る勇気を持てばよかった」
「あんなに働きすぎなければよかった」
「自分の気持ちを伝える勇気を持てばよかった」
「友人と連絡を取り続ければよかった」
「自分をもっと幸せにすればよかった」

このリストを見て、何か気づいたことはある?

死の床にある人は、「もっと美人だったらよかったのに」なんて思わない。「もっとスペルがちゃんと書けていたら」とも思わないし、「もっと立派な腹筋があったら」なんて思わない。

彼らは、人生全体を振り返るのだ。

睾丸が一つしかない恥の意識を吸収しようと、僕はその質問をした。「これは死ぬときに重要なこと?」。答えはかなり明快だった。「いいえ」。こうして僕は、自分が自分に語っていた恥のストーリーが実は選択だった、と気がついた。証拠? まあ、今こうして、恥ずかしげもなく語っていることが何よりの証拠だ。

よし。では、2つ目の質問に移ろう。

2.これは自分で何とかできることか?

子どもの頃におねしょをして、父親に恥ずかしい思いをさせられ、いまだにそれを引きずっているなら、もちろんできることはある。セラピー、カウンセリング、書く瞑想(ジ ャーナリング)、友達に聞いてもらう、両親と話し合う。

そのストレスを解放することだ。

でも、双極性障害や、流産や、ひげが生えない体質を恥じているなら、そのこと自体は変えられないかもしれない。すべての問題が解決するとは言わない。ただ、自分にはどうしようもないことだ、と心に留めておけば役に立つだろう。なぜなら、あなたの責任ではなくなるからだ。あなたにできることはないのだから、自分が前に進む助けになるような、別のストーリーを自分に語ればいい。

財布をなくしてしまった? 「財布をなくすなんて俺はバカだ! 悪いやつが盗んだに違いない! もう誰のことも信じない!」と自分に言い聞かせる代わりに、こう言ってみてほしい。「そこまで追いつめられるなんて、本当に助けが必要な人だったんだな。俺の財布で、温かい食事や夜寝る場所が確保できていたらいいな」。本当にそうだろうか? いや、違うかもしれない。でも、本当にそうだった可能性もある。それに、そう考えれば新たな視点が得られる。そしてそのストーリーは、あなたが深みでもがいたり、沈んだりするのではなく、前に進むのを助けてくれる。

さらに胸が痛くなる事例を紹介しよう。

数年前、妻のレスリーが流産した。僕らはひどく落ち込み、自分たち自身に語るストーリーのせいで、さらに苦しんでいた。「一体何が悪かったんだろう?」「誰が悪かったの?」「あのときけんかをしたせい?」「あのとき、あれを食べたから?」「あそこへ行ったせい?」……。

そこで、僕らは自分たち自身に別のストーリーを語り始めた。「胎児がきちんと育っていなかったんだね。身体は賢いから、妊娠を終わらせる最善のタイミングを知っていたんだ」。こうしてレンズをずらし、新しいストーリーを語ることで、痛みがすべて消えたかといえば、もちろん、そんなことはなかった。まだずきずき痛んでいた。当然だ。

それでも、自分たち自身に別のストーリーを語ることで、自分を責める毒から逃れてゆっくりと前を向き、そのまま進み続けることができた。

たぶんおなじみの「ニーバーの祈り」〔神学者ラインホルド・ニーバーが書いた祈りの言葉〕の中に、英知が込められている。あれは、自分が変えられないものを受け入れる静穏を、自分が変えられるものを変える勇気を、変えられないものと変えられるものの違いを知る知恵を授けてほしい、と神に祈る言葉だ。

「これ、自分で何とかできる?」と自問するとき、選択肢は2つしかないから。

何とかできるなら、さあ、何とかしよう!

何とかできないなら、それはどうしようもない。自分にはどうしようもないことをくよくよ悩んで、なぜ時間を無駄にするのだろう? 睾丸が一つしかない事実は変えられないけど、自分に語るストーリーを変えることはできる。レスリーは流産した事実を変えられないけれど、夫婦として、自分たち自身に別のストーリーを語ることは選べる。そうすれば、際限なく思い煩ったり、何かや誰かのせいにしたりするのをやめられる。

では、最後の、3つ目の質問に移ろう。

3.これは自分が自分に語っているストーリーなのでは?

少しだけ自分を客観視する心の準備はできているだろうか?

これは、3つの中で一番重要な問いかもしれない。

これは、僕らが人生の紛れもない事実にくっつけている、ありとあらゆる小さなストーリーを剝がして、剝がして、剝がしていく問いなのだ。たいていの場合、僕らは事実にストーリーをくっつけていて、しかも、そのことに気づいていない。

しっかり目を光らせよう。絶対的な真実を探そう。不要な苦しみを生む心の執着を、すべて引っ剝がそう。確かで客観的な芯が見つかるまで、剝がして、剝がして、剝がし続けよう。そして、その芯を使って、自分自身に別のストーリーを語ろう。

そういうわけで、僕の睾丸は一つだ。みなさんの中には、乳房が一つの人、肺が一つの人、脚が1本の人もいるだろう。不安やアルコール依存症やアルツハイマー病を抱えている人もいる。僕らはみんな、何かしら抱えている。この質問をするときに重要なことは、自分が抱えているものと、そこに自分がくっつけているものを区別することだ。芯にある事実を見つけ、自分がそれをベースにストーリーを語っているだけだ、と気づくことが大切だ。「僕の睾丸は一つだ」と、「僕は醜いから結婚のチャンスがない」とは大違いだ。最初の言葉は事実だけれど、2つ目のはストーリーだ。「私はアルコール依存症だ」と、「家族は二度と私を信じないだろう」とはまったく違う。「私は生物学の試験でしくじった」と、「私は両親の期待を裏切った」とはまるで別の話なのだ。

3つの質問は次の通りだ。

これは死ぬときに重要なことか?
これは自分で何とかできることか?
これは自分が自分に語っているストーリーなのでは? 

簡単なことだ、とは言わない。

ただ、レジリエンスを身につける道中で、もっと強くなって「理想の自分」に到達するための歩みの中で、僕らは気づく。もっと自分に親切にするチャンスがあること、目的地への到達を助けてくれる小さなツールを使えることに。実は僕らが考えていることの大半は、僕らが自分自身に言い聞かせているストーリーだから。

どんなストーリーを自分に語るのか、それを決められるのはあなただけだ。

だから、もっと素敵なストーリーを自分に語ってほしい。

9ルール 自分を変える「黄金の法則」
翻訳:長澤 あかね
関西学院大学社会学部卒業。広告代理店に勤務したのち、通訳を経て翻訳者に。
訳書に『メンタルが強い人がやめた13の習慣』 (講談社)、『マルチ・ポテンシャライト好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』 (PHP研究所)などがある。

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