矢野経済研究所
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米国は「ウイグル強制労働防止法に基づく輸入禁止措置」の運用を開始した。6月21日以降、この地域で生産された製品はすべて強制労働に関与しているとみなされ、米国への輸入は認められなくなる。また、第3国経由であっても同地域で生産された材料や部品が使われた製品はすべて差し止められるとされ、アパレル、綿・綿製品、ポリシリコンを含むシリカ系製品、トマトおよびその関連製品が法律適用の優先分野として名指しされた。

もちろん、例外もある。それは「強制労働に関与していない説得力のある証拠」を輸入者自身が提示した場合である。しかし、そもそも “強制労働など一切存在しない” と反論する中国国内で、米当局が納得する証拠を民間事業者が収集することなど不可能である。実際、2021年、ユニクロ製品の一部が差し止められたファーストリテイリングの反論は「強制労働と無関係であることを立証できていない」と退けられている。今後の運用手続きについては不明な点も多い。しかし、これまでより基準が緩められることはないだろう。トレーサビリティの強化、サプライチェーンの再構築など、関連企業は対米市場戦略の修正を迫られる。

人権に対する取り組み状況の開示を個別企業に求める動きは欧米が先行する。一方、「遅れている」とされてきた日本も、今夏の発表を目指して企業による人権侵害の防止に向けた指針を準備中だ。経済産業省の検討会がこの4月に発表した「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン骨子案」がベースとなる。対象となる人権の範囲を、強制的な労働や児童労働に服さない自由、居住移転の自由、結社の自由、団体交渉権などであると例示し、サプライチェーン全体における人権侵害の把握と改善への取り組みを促す。

とは言え、今、世界で、個人の権利を取り巻く状況は不安定さを増している。グローバリゼーションによる歪みを背景に強権的な体制への志向が強まる。途上国だけではない。民主主義体制下にあっても反知性主義、権威主義的な声が強まる。地政学上の対立がそれに輪をかける。異なる立場それぞれの「正義」、「事情」、「利害」が複雑に対立する中、人権の定義、範囲、重みに対するギャップも拡大する。であれば、いや、であればこそ企業は自社の理念と価値観を社内外に表明し、自身の行動基準に添って活動すべきである。つまり、そういうことだ。

今週の“ひらめき”視点 6.19 – 6.30
代表取締役社長 水越 孝