すかいらーくHD、5分未満の未払い賃金支払いへ 知らないと怖い「給与の計算法」
(画像=SB/stock.adobe.com)

外食大手のすかいらーくホールディングスが時給の計算方法を見直し、従来は切り捨ててきた5分未満の労働時間に関し、2年前までさかのぼって賃金を払うと発表して話題となっている。実務で「グレーゾーン」のように扱われる作業も、法律で明確に線引きされている場合がある。「知らなかった」で済まされない時給の計算方法とは。

5分未満の労働は「タダ働き」?

すかいらーくホールディングスの発表資料によると、同社ではこれまで「5分単位で店舗の勤務時間を計算」してきた。具体的には、5分未満の労働時間はゼロとカウントし、その分の給与はスタッフに支払っていなかったという。1秒~4分59秒までの労働はいつも「タダ働き」にしてきたということになる。

2022年7月1日からは1分単位で労働時間を管理し、給与を計算するようにするという。その変更にともない、すかいらーくホールディングスは従業員への配慮という観点から、過去2年にわたる期間の差額相当額、つまり「タダ働き」分を支払う。この差額分の合計は16億~17億円に上る見込みだ。

賃金の支払いに関するルールを定めた労働基準法では「賃金全額払いの原則」という考え方がある。働いた時間の分の対価はちゃんと支払わなければならないという意味だ。本来なら1秒単位で支払うべきだろうが、さすがに現実はそうなってはいない。それでも、社会通念上は1分単位で支払う決まりになっている。

実際には働いていた時間を切り捨てると違法になるということだが、一方で切り上げるのは問題ないとされる。労働者にとって有利な計算は禁止されていないからであり、例えば50分間の勤務を1時間働いたとみなすことは法に抵触しない。

もっとも、労働基準法の規定は無条件に労働者に対して有利なわけではない。例えば、従業員が遅刻したり早退したりして、勤務時間が予定より短くなった場合は、その短縮分を分単位で計算して差し引くのは構わない。また、懲戒処分として、法定の範囲内で減給処分にするのも問題はない。

そもそも「労働時間」とは何か

ここまで「1分単位」や「本来は1秒ごと」と言ってきたが、そもそも「労働時間」とは何かという定義を把握していないと、給与を正確に計算できない。

労働基準法でいう「労働時間」は、客観的に見て労働者が使用者の指揮命令下に置かれているかどうかによって決まる。「グレーゾーン」のように見られがちなのは、業務の準備作業や後片付けなどにかかる時間だ。

これは事業所内で行うことが義務付けられていたり、実質的に事業所内で行わざるを得なかったりする作業なら「労働時間」となる。法律で決まっているため、就業規則や労働契約で、特定の行為を労働時間としてカウントしないことを定めたとしても無効になる。

また、労働基準法では労働時間の長短に応じて「休憩時間」を確保するよう義務付けられている。労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければならない。

ここで注意が必要なのは、労働者が具体的な作業に従事していなくても、業務の発生に向けて待機しているような時間は、使用者の指揮命令下にあるとして労働時間に当たるということだ。

例えば、ビルの管理人が管理人室で仮眠をとっている時間は業務と切り離せないので労働時間に当たる。また、スタッフに昼休憩の間も電話当番としてオフィスに残るよう指示することなどは、厳密には「休憩時間」を与えているとは言えず、労働時間に含めて計算しなければならない。

労働時間以外にも注意点はたくさん

最近は「働き方」に注目が集まり、就職を希望する人が企業を選ぶ際にも、どんな労働環境なのかが大切な判断材料となる。すかいらーくホールディングスの例のように、こんな時代に、労務面で法律に反する状況を放置していたと報道されれば、優秀な人材から敬遠される懸念がある。

時給計算のための労働時間に関する規定以外にも、重要なルールは存在する。厚生労働省のウェブサイトによると、例えばパートタイマー(パート従業員)やアルバイト従業員には有給休暇がないと考えている経営者もいるが、一定の条件を満たせば年次有給休暇を取得する権利が発生する。

このことに関連して、1週間の所定労働時間が30時間未満の短時間労働者は、付与される日数がフルタイムの労働者とは異なる、といったことも知っておきたい。

また、混同しがちなのが「振替休日」と「代休」だ。振替休日は、元々休日と決まっていた日に労働し、その代わりに他の労働日を休日に当てることをいう。事前申請により、元々休日であった日が労働日になり、元々労働日であった日が休日になるということだ。この場合、実際に労働した日には休日の割増賃金が適用されない。

一方で代休は、休日労働が行われた場合、その代わりとして、その日以降の労働日を休日とする。そのため、休日に労働した分の割増賃金を支払う必要がある。

経営者はこのような労働時間や休日のルールに関する知識を多く知っていることに越したことはない。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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